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はじめての「生の英語」(Authentic Materials)のススメ

こんにちは。英語講師の川上晃(かわかみ あきら)と申します。普段は首都圏の塾・予備校・学校で、中高生の英語指導にあたっています。

英語講師という仕事をしていると、よく耳にする2種類のセリフがあります。

「映画を字幕なしで観れるようになりたい!」
「英字新聞をカフェで広げてみたい!」という「理想」と、「受験英語は現実では役に立たない」という「目の前の落胆」です。

なぜ受験英語の力が足りないと感じるのか?理想への道はどこにあるか?


理想と現実のギャップを埋め、楽しみながら英語を学ぶ!ための「オーセンティック教材」(Authentic Materials)の選び方について、お話したいと思います。

⓪ Authentic materialsとは?

そもそも、タイトルにもなっているAuthentic Materialsとは?


一言で言えば、「ネイティブスピーカーがネイティブスピーカーのために作り出したもの」と定義され、以下のようなものを指します。

・文字情報:論文、新聞記事、雑誌、SNSの投稿、小説 など


・音声情報:テレビ番組、講演、ネット映像、映画、講義 など

学習者のために人工的に作られた英語と比べ、言語的・文化的に非常に豊かなインプットが得られるため、これらの情報を教材にすることで「英語・知識」がフル稼働され、高い効果と達成感を得ることができます。

教科書を使って英語を学ぶのではなく、実際に英語を使って情報を得つつ、英語についても理解を深めていけるのがAuthentic Materialsです。「将を射んとするのなら、将から射てしまおう!」という発想で勉強を進めていくわけです。

① 自分に合うレベルの選択

多くの学習者が陥ってしまう一番大きな罠は、「見栄を張ってかっこいい教材を選んでしまう」ということです。私もかつて同じミスを犯しました。

大学生になったばかりの私は、大学で英米文学史の講義を受け、「『古典的名作(キャノン)』を英語で読んでいたらカッコいいのではないか」という頭カラッポの「理想」を抱き、勇み足で大学の本屋に脚を運びました。

そこで味わったのが、「おれの英語力ではまったく読めないではないか」という「目の前の挫折」でした。数か月後、はじめてのバイト代で買った「名作」のペーパーバックの数々は、悲しそうに部屋の隅で埃を被っていました。

たとえばアメリカ文学屈指の有名作品であるヘンリー・ジェイムズ『ねじの回転』という小説の出だしは、以下のようなものです。

The story had held us, round the fire, sufficiently breathless, but except the obvious remark that it was gruesome, as, on Christmas Eve in an old house, a strange tale should essentially be, I remember no comment uttered till somebody happened to say that it was the only case he had met in which such a visitation had fallen on a child. (Henry James, The Turn of the Screw)

難しすぎる!!!!!!

「学習性無力感」という言葉があります。
水で満たしたガラス製のビーカーにマウスを入れると、最初は這い出ようと奮闘するのですが、「無理だ」と悟ると動くのをやめ、ただぼんやりと容器の中で浮かぶようになるそうです。英米文学の世界に脚を踏み入れた私は、さながら気力を失ったマウスのようでした。

難しすぎる教材は、「無力感」「挫折」しか生みません。Authentic materialsを選ぶ際に、一番重視していただきたいのは「挫折をしない教材選び」です。はじめは子供向けのコンテンツでもいいのです。恥を捨てて、簡単そうで薄い(短い)教材を選ぶことが「やり遂げる」ことにつながり、それがのちの自信につながっていきます。

② 「自分だけの」教材選び

大学受験で必要とされる語彙数は最上位大学でも5000~6000語くらいとされますが、ネイティブ向けの新聞や雑誌を読みこなすために必要な語彙数は15000語とも20000語とも言われます。オーセンティック教材が難しい理由はまずもって、「語彙が圧倒的に足りていない」というのがほとんどです。(逆に受験によって難しい英文解釈の基礎ができるので、語彙をクリアすればかなり「読める」ようになります)

この場合、市販の単語帳などを使ってさらに語彙力の増強を図るのも一つの手ですが、もう一つ方法があります。それはズバリ、「自分の趣味の範囲の教材を選んでしまう」ということです。以下、おススメのやり方を書いていきます。

A. 趣味のWikipediaを「英語で」

これはぜひ、「受験が終わった春休み」にチャレンジしてほしいです。たとえば私は『ポケモン』シリーズが大好きなので、「ピカチュウ」の項を引いてみましょう。

Pikachu is a yellow mouse-like Pokémon with powerful electrical abilities. In most vocalized appearances, including the anime and certain video games, it is primarily voiced by Ikue Ōtani. (Wikipedia "Pikachu"より引用)

多少は難しい語彙も含まれていますが、内容を知識で補うことができるので、今回の場合ピカチュウを知っている人であればある程度「予測」しながら読める感覚があると思います。同じような記事をいくつも読めば使われる表現や単語も重複してきますから、繰り返しによって記憶に刻み込むことも可能になります。

B. ゲームや漫画を「英語で」

プレイしたことのあるゲームや、何度も読んだことのある漫画を「英語で」楽しむのは本当におススメです。先ほど述べた「内容の予測」が利くのももちろんですし、「こういう言い回しが使えるんだ!」という発見が何度もあります。

私は今話題の『新世紀ヱヴァンゲリヲン』を英語字幕で先日見返したのですが、葛城ミサトという少しお酒にだらしないキャラクターが、次のようなセリフを発するシーンがありました。

(ビールを飲んで)「クーッ!このために生きてるのよね!」
"This makes my life worth living!"

この1行からだけでも、学べるポイントが無数にあります。SVOCの使い方、worthの使い方、和文英訳のやり方……Authentic Materialsはこのような「驚き」と「楽しさ」に満ちているのが魅力です。

C. 専門分野を「英語で」

少しずつ生の英語に慣れてきたら、自分の専門分野の本や論文、スピーチを「英語で」楽しむのがおすすめです。繰り返しますが、「内容が予測できる」ことで負担が軽くなりますし、自分の専門分野について英語で話せれば、自分にとっての「日常会話」が完成するとも言えます。

私はアメリカ文学が専門なので、1冊おすすめを挙げておきます。

現代アメリカを代表する作家、Paul Austerの長編The Brooklyn Folliesです。
東京大学名誉教授で翻訳家の柴田元幸先生は、「アメリカ英語のお手本」としてオースターの英語を挙げておられます。英語自体も読みやすいうえに、オースターの他作品に比べて抽象的な文章も少なく、軽快でユーモアにあふれた暖かい作品です。短いチャプターに分かれているので、海外小説入門にもピッタリです。


以上、英語学習の起爆剤となり得るAuthentic Materialsについてお話しました。今後の学習におけるインプットに取り入れる際、この記事を参考にしてもらえればうれしい限りです。ここまでお読みいただきありがとうございました。


編集後記: 

編集担当は長いこと川上先生と交流がありますが、自分に合った素材の選択や挫折経験は大変興味深く読みました。また、少しだけ見えるオタク要素にクスリと笑いました。川上先生の次回の記事にも期待大です。

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