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初恋から逃れられない私たちは

初恋は恐ろしい。
時として、それまで生きてきた平凡な人生を180度変えてしまう。

そして、たくさんのことを教えてくれる。
義務教育じゃ教えてくれないたくさんのことを。

同じシャンプーを使っても違う匂いがすることとか、
女として生まれてきた意味とか、
あんなに「好きだ」と言ってくれた人が一瞬で心変わりする残酷さとか。

人生において知らなくてもいい、けど知っているとちょっぴり深みが出るような、そういうことたちを教えてくれる。

好きな音楽は?
将来の夢は?
いつも何時に寝る?
花びらを一枚一枚つみとるように小さな質問を重ねて、
夜が明けるまで電話して、
そうかと思えば突然キスとかそれ以上とかして
言葉なんかもう必要ないくらいお互いの深部に触れてみたり、
どんどん欲深く、嫉妬深く、幼稚になってーーー

「死ぬほど好き」。

始まりから最後の一瞬まで感情がジェットコースターみたいに駆け巡る。

すべてのことが初めてであんなにままならなかったのに、終わった瞬間、目が潰れるくらいの輝きを放つのはなぜだろう。
私の人生、あれからいろんな素敵なことが起こったはずなのに、どうしてあの恋よりもキラキラした出来事を思い出せないんだろう。
たくさんの恋をして、たくさんの人と出会って、流れるように生きてきたのに、どうして人生の節目の夜には決まって彼のことを思い出すんだろう。

きっと死ぬときもあの恋のことを思い出すんだろう、と思う。
それが初恋というものだから。

初恋が実を結んだ人は世の中に何%いるだろう。
「初恋は実らない」という定説はすっかり定着している。

初恋は実らない、だから、忘れられない。

思い出は必要以上に美化されて、鮮烈な感情の記憶とともに心の奥底にしまわれる。
そして、未完成だからこそ、いつまでも囚われ続ける。
腕のないミロのヴィーナスが人々の心を魅了するのと同じ道理だろうか。
決して完成することのなかった恋が心の奥底に沈殿のように残り続ける。
怖いものなんて何もなかったあの頃の二人が瞳の奥に宿り続ける。

夜中にカップラーメンをすするだけで涙が出るほど楽しかったあの夜はもう二度とやってこないし、
あの日話したことなんてもうほとんど覚えてないし、
彼が今どこでどうしているかなんて分からない。

ただ一言、言いたいんだ。
あの夜に食べた同じ銘柄、同じ味のカップラーメンをすすってみても全然同じ味がしないんだ。
全然美味しくないんだ。
あの夜には特別な魔法がかかっていて、
それはあなたがかけてくれた魔法かもしれないし、私が知らず知らずのうちに自分でかけていた魔法かもしれない。

「初恋」という、あの夜確かに存在した魔法はすっかり解けてしまったけど
思い出は今でもちゃんとここに残ってるよ、って。


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