見出し画像

ミニマム7週法と耳かき!『微量減薬法』

ドクターインタビュー 
増田さやか医師 (クリニック花草 愛知県岡崎市)

2022年4月に開院した花草クリニック、開業から1年が経過しました。引き続き全国から多くの減薬希望の患者さんが訪れていますが、増田医師の減薬に関する方法は少しずつ更新されている様子です。
今回は微量減薬を実際に行う場合に増田医師が患者さんに薦めている「耳かき法」=薬さじ減薬についてお話を伺いました。
月崎
 増田医師がクリニック花草を開業して1年になろうとしていますが、半年ほど前のインタビューでは、『ミニマム7週法』という減薬方法について詳しく説明していただきました。
(ミニマム7週法の記事を先に呼んでいただくとわかりやすいかもしれません)
https://note.com/tokio_tsukizaki/n/ne97d207282b2
ミニマム7週法は、まず1週間に1日、薬を減らす日を作り、それを徐々に増やしていく、1剤を断薬するために最短で7週間かかるということでつけた名称と理解しています。これはいわゆる『隔日法』という減薬方法だと思います。今回久しぶりにお話しして“耳かき法”による減薬ということを初めて耳にしました。
増田 はい。そうなんです。
月崎 “耳かき法”って何?とちょっとびっくりしました!耳かき法っていうのは先生の命名ですか? 耳かきを何に使うのかなって??
増田 耳かきと呼んでいるのは、ミクロスパーテルっていう薬さじのことですね。形が耳かきに似ているでしょ(笑)でも本当の耳かきを使ってもいいのです。微量ずつ測れるものならなんでも大丈夫なわけです。それで耳かき法って呼んでます。

月崎 あ、これ、ミクロスパーテルって薬さじのことなんですね
増田 はい。ネット上で色々売ってます。800円〜1000円くらい。クリニックでは減薬希望の患者さんにはそれを買ってもらっています。
月崎 確かに耳かきに似てますが、“薬さじ”なんですね。ではここからは『薬さじ減薬』と表記していきますね。これで微妙な薬の量を測るのかなと想像しますが、『ミニマム7週法』と『薬さじ減薬』はどういう関係なのでしょうか?

薬の血中濃度に強く影響される人のための微量減薬

増田 現在私は、『ミニマム7週法』を主に抗精神病薬と抗うつ薬の方の減薬に使っています。もちろん睡眠導入剤などベンゾジアゼピン系の減薬に利用する場合もありますが、特にベンゾジアゼピンの減薬中の方の中にはとても過敏な方が多いです。この敏感な方に『ミニマム7週法』ですと、週に何日か飲まない日を作るという方法のため、減らす日と減らさない日で、血中濃度に差が出てしまいます。これにより「7週法はしんどいな」っていう人たちがいます。
月崎 『ミニマム7週法』といういわゆる隔日法で耐えられる方もいるけれど、特にベンゾジアゼピンの場合は、血中濃度の日内変動に敏感に反応する方もいるということですね。
増田 はい。そうなんです。だからその場合は一週間に1日とか2日減らすとかっていうやり方ではなくて、毎日微量ずつ減らしていくいわゆる微量減薬法(マイクロテーパリング)ということになります。
月崎 減薬の方法としては、毎日減らした状態の薬を服薬し階段状に減らすいわゆる『微量減薬法』(マイクロテーパリング)と1週間に何日かだけ減らす日を作り、週単位での減薬を考えるの『ミニマム7週法』の2つがあると考えていいですね。それでは『薬さじ減薬』とはどんなことなのでしょうか?
増田 はい。『薬さじ減薬』『微量減薬法』を行う際に、この薬さじを使う方法のことです。『微量減薬法』には薬を水に溶かす、水溶液減薬や、精密秤で測りながら削る方法がありますが、それは毎回とても大変なので、もう少し楽に減らすための方法として耳かきのような薬さじを使うということです。

月崎 ベンゾジアゼピンの減薬においてその血中濃度の変化を重要視するかどうかということですが、以前に私がインタビューした時は一般的な減薬の考え方として、「昼間のQOLを大切にするためには、あまり血中濃度の日内変動の一定化は意識しなくてもいいと考えている」といった感じだったと思います。薬の血中濃度の一定化よりも、日中の生活の質を優先するというお話だったと記憶しています。「睡眠薬ならまずお昼を例えばゼロにする、もしくは半分にしてそれから今度は朝を減らしてという風な感じでやります」と聞いていましたが、少し方法が変わったという感じでしょうか?
増田 そうですね。いわゆる常用量離脱に陥ってない人については以前と同じ考えでいます。例えば仕事をしていて、「睡眠薬が昼に残っていると辛い」というような人は、仕事に支障がないように、朝の薬を減薬する。そうすると夜はよくむしろよく寝れるようになるというようなことでやっています。
月崎 なるほど。では『薬さじ減薬』での減薬はどのような方を対象に始まったのでしょうか?
増田 そうですね。1週間に1日とか2日減らす日を作る『ミニマム7週法』(隔日法)という方法だとしんどくなってしまうっていう人がやっぱりたくさんいます。血中濃度を安定させないとしんどくてたまらないという方です。そこには、心理的な影響もあるかもしれないですけれども、そういう方がいる以上それに対応した方法も必要だと考えたわけです
月崎 血中濃度の変動に敏感な方を対象にしたものなんですね。具体的にはどんな方法なのでしょうか?
***************************
増田医師が行っている【薬さじ減薬】
1 減薬したい薬を散剤で処方する。または錠剤の場合は粉砕を薬局に依頼する。
(錠剤を粉砕した場合、乳糖を混ぜることもできるし混ぜないこともできる)
(錠剤が小さい場合や4分の1錠の場合は乳糖を入れないと作れないこともある。
2 減薬のスピードにかかわらず、毎日同じ量のものを準備する。
(減薬しない状態で耳かき(薬さじ)何杯分なのかをあらかじめ測っておくと計画が立てやすい。
3 減薬計画を立て自分のペースで毎回耳かき◯杯分を取り除き、その残りを服薬する。
利点としては耳かき(薬さじ)1杯分の量は0.013g(山盛り乗せた場合)とされており精密測りではかる手間が不要。

―――――――――――――――――――――――――――

医師と薬局の連携が連携してくれれば実現できそう


月崎 薬さじというスケールを使って自分で微量ずつ減らしていくわけですね。微量ずつ減らすという意味では、水溶液減薬や削って精密秤で微量を計量する方法と同じですね。
水溶液法の水が、
に置き変わったというイメージでしょうか。
増田 そうですね。薬局にお願いして、例えば毎回の薬を細かく0.01の単位ぐらいまで調整して対応してもらえるならそれが理想ですが、なかなかそれをしてもらうのは難しいですから。
月崎 薬局の対応も課題だと思いますが、まず増田医師以外の精神科医の先生が協力してくれるかどうかは大事なポイントですね。
増田 そうなんですね。もし患者さんが依頼しても「こんな細かい処方は意味ないよ」って言われたりすると思うのです。減薬って励まされて前に進むものなのに、医師に逆方向に気持ちを持ってかれるのは困るなあと思っています。
月崎 確かに血中濃度の変動が非常に大きく体調に影響する人もいるようですね。
増田 はい。非常にささやかな微量の薬の変動でも不調になってしまうという人には特に『薬さじ減薬』を勧めます。ベンゾジアゼピン(睡眠薬や抗不安薬)だから『薬さじ減薬』というふうに薬の種類ごとにはっきり分けているわけではないのですが。
月崎 薬の種類ごとに単純にやり方を分けているわけではなくその人に応じて方法を選ぶということですね。
増田 はい。最近 私のところは抗うつ薬と抗精神病薬を減薬したいとしていらっしゃる方が多いです。ベンゾジアゼピンの減薬に関しては名古屋周辺でも、「お薬できるだけ使いません」というようなお医者さんは増えてきています。

『薬さじ減薬』のメリットは患者が自分で手軽に調整できること

月崎 もう少し『薬さじ減薬』について伺いたいのです。薬を水溶液に溶かして飲む量を少しずつ減らす方法にしても、精密秤で測りながら削って減薬するにしても、とにかくゆっくり慎重に微量ずつ減らすというコンセプトで、使うツールが違うだけですね、では『薬さじ減薬』にはどんなメリットがあるのでしょう?
増田 まず本人の手元には、一定の状態の量の薬が例えば30日分処方されているわけです。それを患者さんが自分の体調とペースに合わせて自分で手軽に調整できるということです。水溶液や削る方法より量の調節が簡単にできます。
月崎 精密秤や水溶液法のシリンジなどが不要ということですね。
増田 薬局にお願いして薬を粉状に粉砕しそこに乳糖を混ぜることにより見た目の量は増えます。乳糖をたっぷり加えれば、薬の比率は下がります。乳糖を混ぜるかどうかは選ぶことが可能です。患者さんがそれを薬さじで自分で測ることで、自分の体調に合わせた微量ずつの減薬が自由にできるわけです。
月崎 なるほど。確かに微量ずつ減薬をしたいけれど、「毎回水溶液を作ったり精密秤で測るなんてできない。現実的ではない」という方も多いですね。薬さじという小さな計量スプーンを使って、自分の体の声を聞き、コンディションを見ながら薬の量を調整するというのは便利でしかも主体的な行為ということですね。最初に医師と相談して基準を決めておけば薬さじで簡単に調整できるということですね。自由度が高い。でも医師に全てを決めてもらいたい、委ねたいという人には向かないかもしれないとも思いました。
増田 そうですね。薬は一定量手元にあるわけですから全部飲むこともできるし、その日の体調によって微妙な調節も自分でできる。またゆっくり減らしたい人は乳糖を多く混ぜることで薬の含有率を減らすことも可能です。また、減薬が終わりに近づきあまりにも薬が少なくなってきたら、乳糖を増量するという場合もあります。急ぎたい方の中には薬さじで毎日ひとさじずつ減らして2〜3週間くらいで1剤がゼロになった方もいます。
月崎 これは減薬という治療行為と、減薬したい人の心理面をよく理解している増田先生が患者さんとの信頼関係のもとでできていることという感じもするのですが、他の医師にもお願いできるのでしょうか?
増田 薬さじを使うこと自体は、薬を計量する方法として一般的です。これを患者さんが減薬に使うかどうかはともかくとして特に私のオリジナルではないです。
月崎 とういうことは、もしもある地域で地元の病院にかかっている患者さんが減薬したいと思って、この記事を読んだ場合、これを参考に「減薬したいから薬を粉にして乳糖を混ぜてほしい」と医師に依頼することはできそうということですね。薬局はどうでしょう?

薬剤師さんの協力も得やすそうな減薬方法

増田 薬局もそんなに嫌がらないと思います。粉砕してから細かく計量して1回ずつ指定の量の薬に調剤してほしいと依頼されたら、大変で嫌がるかもしれませんが、粉にして乳糖を混ぜるだけなら対応してくれるはずです。例えば高齢者で嚥下が難しい方などのためにも同じサービスはしているわけですから。
 月崎 ではもしこの方法をやりたかったら、あとは医師が薬局に薬を粉にして乳糖を混ぜるオーダーを出してくれればいいということですね。ただ向精神薬の急減薬のリスクを少しでも理解している医師ならいいのですが、もし減薬したいと患者さんがいうと、パッと薬の処方を全部断薬にしてしまうという例も患者さんからよく聞きますので、ここは要注意ですね。患者さんが「ゆっくり減薬をしたいから自分で薬さじを使って微量ずつ減らしてみたい」と具体的なプランを医師に伝えてみるのも1つの方法かもしれませんね。
増田 そうですね。
月崎 1週間に1日とか2日とか減薬する日を作り徐々に増やしていく『ミニマム7週法』(隔日法)、そして自分でペースを見ながら毎日微量ずつ減薬して階段状に減らしていく『薬さじ減薬』を使った微量減薬、どちらも患者さんが主体で医師は伴走者ということになると思います。
自分の体の声を確認しながら、依存状態ではなく医師と相談しながら減薬を進めて回復できる人が増えるといいなと思います。

ゆっくり減薬の事前準備としての栄養療法


増田 そうですね。私も栄養に関しては、できるだけ患者さんに整えてもらいますね。そんなに徹底的に指導するという感じではないですが、かなり栄養状態に問題があるなという方も多いです。朝から菓子パンを食べ、そのほかは外食ですねというような方には、まずはインスタント味噌汁でもいいから、それにだしを入れてミネラルを補給してみてとかね。そんなことから初めてもらっています。以前は減薬してからデトックスという感じでしたけど、今は最初から食のことを聞きアドバイスするようにしています。
月崎 やはり栄養状態に問題のある方はおおいわけですね。
増田 そうですね、例えば頑固な便秘になっている方などがすごく多いですね。下剤を朝昼晩十錠ぐらい飲んでる人とか。食べ物自体がそんなにひどくなくても頑固な慢性的便秘。長年の薬の副作用でもう腸の動きがすごく悪くなってる方達。食生活のアドバイスはしますが簡単には改善しない場合も多いですね。

子どもの向精神薬減薬は大人より早いペースでできる

月崎 最後に子どもの日も近いので子どものことについて少しお聞きしたいです。子どもの発達障害は相変わらず増加し、薬物療法をしている子どもさんも増えていると思いますが、先生は子どもの減薬治療もなさっていますよね。子どもには『ミニマム7週法』とか、微量減薬のための『薬さじ減薬』とかを使っているのでしょうか?

増田 お子さんにはあまり微量減薬という方法はとりませんね。場合によって7週法を使う人はいます。てんかんの薬の場合は7週法を使って減薬することはあります。

月崎 お子さんの場合はいわゆる『微量減薬法』と言われるような慎重な減薬のやり方はしないのですね

増田 はい。1ヶ月に1回の診察で、次回からは例えば1剤の4/3で処方し、その翌月には2/1といった一般的な方法をとることが多いです。

月崎 なぜ子どもの減薬はそんなにゆっくりやらなくても大丈夫なのですか?

増田 それは子供の体に薬が長々と入ることの方が問題だからです。ほかの大人みたいに何十年も飲んできたんではないわけですから。

月崎 離脱症状も出にくいのですか?

増田 そうですね。長く飲んできた人みたいに激しく出ない場合が多いです。例えば半年前は今の十倍飲んでいたなんて子もいます。減薬のプロセスを振り返って親がびっくりしてしまう場面もありますね。

月崎 てんかんの薬もかなり減らせる感じですか?

増田 そうですね。本当に許容範囲を超えて処方されていると思うケースがあります。てんかん治療をしている先生たちというのは、発作をゼロにしないといけないと思っているのではないかと思います。
月崎 あ、てんかん発作は止めなくていいのですか?
増田 そうですね。発作というものをどう考えるかですが、例えば発作のようなものが起きた時、別の要因が背後にある場合もある。てんかんの薬の減薬で経過が良好なお子さんの例でお話ししますと、本人はサッカーが大好きな少年で練習も大好きなのです。しかしチームにはいわゆる昭和の鬼コーチみたいな人がいる。練習後、夜になって寒い中グランドに立たせて30分も説教したりする。立っているうちに発作のような状態が起きるわけです。これをどう考えるかですが、お母さんが気づいて、その状態を作らないようにしたところ発作は出なくなった。
月崎 なるほど。わかる気がします。
増田 長時間の説教などで精神的な負荷がかかったり、寒暖差による身体への負荷などそういう要因で発作が実は起きていたということもあると思います。てんかん発作が起きるという場合にもその状況をよく確認してみたいとわからないと思っています。
月崎 そういうことですね。今日は『薬さじ減薬法』を中心に、お話を伺いました。

ありがとうございました。

(2023年4月14日 取材 月崎時央)

プロフィール:増田さやか (愛知県岡崎市 クリニック花草 院長)奈良医大卒業後、精神科医として約30年間様々な病院で経験を積みなから、精神医療に従事。 薬物治療中心の医療に大きく疑問を持ち、現在は主に減薬断薬を希望する患者さんのサポートを行なっている。

増田さやか医師が向精神薬の減薬を開始した経緯などを紹介する2019年のインタビューはこちらをお読みください。
   ⇩
https://note.com/tokio_tsukizaki/n/n4fc8c1aa4d8e
ミニマム7週法の記事

   ⇩
https://note.com/tokio_tsukizaki/n/ne97d207282b2

https://hanasou.jimdosite.com/

クリニック花草https://www.facebook.com/HANASOU.OKAZAKI/

ここから先は

0字
この記事のみ ¥ 100

よろしければサポートをお願いします。いただいたサポートは取材、インタビュー、資料の入手などに大切に使わせていただきます