マガジンのカバー画像

小説『歩いてみたら』

5
コピー機のリース会社に勤める水沢博一は、会社から突然の休暇を言い渡された。「働き方改革」が理由らしい。趣味もないので暇になった。すると妻から愛犬•ケイティの散歩を頼まれた。妻も働…
運営しているクリエイター

#散歩

『歩いてみたら』 第5章

5  やると決めたら闘志に火が付いた。  高校時代を思い出し、当時の練習メニューを再現してひらすら励む。  ボールとシューズ、そしてウエアはランチ会の日のうちに新宿のスポーツショップで買った。また四万円の出費だったが迷いはなかった。休暇は残り数日なのだ。昨冬のボーナスを使い切ってもいいくらいだった。ただしその額は雀の涙ほどだが。  散歩から帰宅し、家の近所の公園に行く。リングの錆びたバスケットコートがある公園だ。リングの下に描かれた半円は消えかかっている。うっそうとした樹木

『歩いてみたら』 第4章

4  寝ても覚めても散歩のことばかり考えるようになった。  来週からは会社勤めの生活に復帰する。仕事が始まれば毎日のように広場に顔を出せない。ケイティの散歩係は継続するつもりだが、出勤前に徒歩で四十分もかかる公園に行くことは難しい。  となれば、メンバーと会えるのは休日だけ。  毎朝淹れるコーヒーの出来を山科夫妻に伝え、改善のアドバイスをもらえるのはせいぜい週二回だ。金森さんがライを撮る様子を見て腹を抱えて笑う機会も減るし、曽我さんと話して少年のように心をおどらせることも少