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骨折

ボキンッ!!
痛快な音が僕の脇腹を貫いた。

高校を卒業して消防士として働いていた頃、何曜日だったか忘れたが車両点検なるものがあった。
これは消防車や積載物になんらかの問題がないか定期的に確認するといったものだ。

人助けに使うものというのもあり、一般の人に取ったら結構重いものが積載されていた。
確かあれは可搬ポンプを持ち上げた時だったか、「せーの」で持ち上げたその刹那には冒頭の快音が脇腹に響いていた。
「ゔゔ、、」としゃがみ込むと上司が「どした?」と聞いてきたので「折れました今」とJR SKI SKIのポスターみたいなセリフを言うと上司が爆笑していた。
笑いというのは連鎖する不思議な感情でその上司の笑いは空気を伝い僕にも伝染した。
笑うたびにズキズキと脇腹付近が痛み、その情けない自分の姿を俯瞰して見た時さらに面白く笑けてしまった。

このままでは仕事にならないとのことなので近くの病院にいってこいと、こっ酷く年配の上司に怒られた。
病院に行くと「もともとヒビが入っていて、重いものを持ち上げた時におれたみたいですね」と言われた。
ヒビが入るようなことあったかなと考えると1週間くらい前に地域サッカーに呼ばれて行った時に悪質タックルを受けたことを思い出した。
「あのときだ!」と僕の中のホームズが話していた。
ホームズのように医師に説明すると「おそらくそれでしょうね」と早く終わらせたい雰囲気で応えられた。

そしてこれをつけましょうと渡されたのが固定バンドだ。
つけてみると完全にブラジャーをつけた男の出来上がりである。
「あぁこれで帰ったら上司たちにバカにされます、もっとカッコいいのはないですか?」と聞くと「これが1番かっこいいんですよ」と言われたので渋々つけて帰った。

職場に戻り上着を脱ぐと詰所が笑いに包まれた。基本的に男だけの職場だとこういうイベントがあると男子校のクラスに戻るのだ。
職場で1番年下ということもあり、いつもいじられてはいたがこの時はめちゃくちゃいじられた。
お笑い芸人であればありがたいことなのだろうが、僕は大した技術もない一般人なので捌ききれずに苦笑いするしかなかった。
結局1ヶ月ほどブラジャー固定具をつける羽目になった。

完治したあと固定具を外すとなんとなくではあるが心寂しい思いをした。
最初は嫌だったがあいつがいないと何か物足りない気分。
あぁこういう恋愛あるよなと思いながらタンスの奥に固定具をしまった。

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