広島のストリップ劇場閉館日のおはなし

広島駅から路面電車で宮島方面に4駅、銀山町という停留所。 その停留所で降り、すぐ見えるUCCの看板をくぐって5分程歩いたところにストリップ劇場がありました。 『ヌードの殿堂 広島第一劇場』。 ヌードに殿堂がある。その大胆な言語感覚にも、ストリップのヌードに対する自信が見えてたまらなくカッコよく感じてしまう。 その劇場が2017年1月31に閉館しました。 この文章は第一劇場の思い出と、閉館日のことを僕の視点と出来事で書いたものです。 その日に足を運んだ何百人分の1人の、僕の主観のお話と思って頂けると幸いです。 因みに、現在(2017年3月14日現在)映画の撮影に劇場内部をつかっているようで、建物はまだ残っている様子です。 

僕が第一劇場に初めて行ったのは2016年夏。 当初8月31日で閉館すると言われており、そのことについて話を伺おうと社長に取材の申し込みをしていたことが始まりです。(詳細は、no-teの漫画にあります) 銀山町に着き、劇場を見て始めに感じたのは、建物デカい!! そして、蔦に覆われた劇場の姿にワクワクした感情と、中の様子が全く想像の付かない、他のストリップ劇場にも感じる昭和の怪しさです。 僕にとってはカッコイイけども、一般的にはなかばか足を踏み入れずらいだろうなぁとも思いました。 夜になるとバチバチと音を立ててネオンを灯す『第一劇場』の看板ロゴ、外にほんのりと漏れる場内のBGM。 いつも気になりながら劇場の前を通り、中の様子に思い巡らせている間に、結局入れずじまいになった人も多いんじゃないだろうか。 漫画や文章を書くのなら、せめてそういう人の手を取って、入場してから最後まで手を握っていてあげられるくらいの文才は持っていたい。   

劇場内は、左右のアーチ状の入口をくぐると直ぐにモギリがあった。 モギリのあるロビーに映画館のような大きな扉があり、その向こう側がステージだ。 扉の上には校長室に飾られた歴代校長の写真のように『大入り』と彫られたいくつもの木の板が並べられている。 そこに招き猫や将棋の王将のコマ、鯛の絵柄が彫られている。 従業員さんが開けてくれる扉の向こうには体育館のように広いステージ空間がある。 天井は高い。 天井にあるミラーボールには幾つもの星が土星の輪っかの様にくっついて、それがステージ中にキラキラとキラメク。 客席の両サイドの壁には、大きな鏡が貼られている。ステージは鏡越しに様々な角度からも見ることが出来る。 これが広島第一劇場。

「ハイ、拍手う~」 名調子のおじさまのアナウンスがあり、ショーが始まる。 劇場は昭和建造物でも、出演する踊り子さんまで昭和な訳ではない。 道行けば、同じ空の下を歩いている女の人だ。 

第一劇場の照明は潔いほどに踊り子さんの身体を時に真っ青に、時に真っ赤に染め上げる。 女性の美しさを魅せるよりもっと大胆に、肉体全てを包み込むように染め上げる。 1色に染まり切った姿は彫刻で出来た芸術品というよりも、数千年前の呪術品のように盆の上に存在する。  綺麗さより美しさ、美しさよりそこに存在する『ただ鎮座された存在感』に圧倒される。 言葉や理屈じゃない、肉体の説得力に自分がねじ伏せられる。

「こんにちは~」 ショーが終わり、まったりとしたコーナーが始まる。 まったりとしたコーナーでしゃべる踊り子さんの佇まいは、東京の劇場で観る姿と違い、ショーの人というよりずっと自然な人に見える。  劇場の常連さんたちは、友だちの経営する飲み屋に遊びに来ているくらいに自然体で、従業員さんも社長さんもお店の人というよりも劇場の風景の一部の様に溶け込んでいるかのよう。 地方の柔らかさと、懐かしい感じがはじめての劇場なのに緊張せず過ごせられる。

そして、ショーのあとに踊り子さんから始まる、観客総動員のウエーブがあったんだけど、それがぶちあがる。

ステージの応援に、お客さんのリボンやタンバリンだけでなく、太鼓の音がこだまするのがぶちあがる。

地方遠征の心の軽さも合わさって『わーたのしい!!たのしい!!たのしい!!たのしい!!!』  頭の中はワンワンとひとり盛り上がって叫んでいた。 いや、常連さん方とお話したりして、存分に自分の興奮もその場で発散させてもらえた(自分としては、共有でありたい)。  劇場に慣れてない方は、とにかくシステムや進行状況が読みずらいので、常連さんとお話をすると少し安心できるかも。 その劇場や劇場周辺情報、ストリップやストリッパー情報を親切に教えてくださったり、トイレはどこか?外出できるの?2回目何時頃ですかね?とか。 勿論色んなお客さんいると思いますが、1人で行ってダブルとか引換券とかいきなり言われても、サッパリ分らないですもの。


ー劇場は8月の閉館が延期になり、翌年の1月31日になる。 Twitter上で、何人もの人が歓喜している様子をいくつも見た。ー


1月半ば、閉館2週間前の平日の第一劇場に遊びに行く。 終わるから再び来たのだけど、終わる場所だから行くのではなく、単純に好きな場所だからもう一度訪れたいと思って訪れた。 グループで来ている初めてのお客さんがいて、ストリップ劇場の緊張感を、踊り子さんがステージショーで、そして話しかけほぐしていた。 

「どーいう集まりなの皆は? ストリップ初めて??」 「その席より、あの辺り行った方が見やすいから! ハイ! 移動ね~!!」 ゆったりとした時間の経ち方とこの空間が気負わなくてよく、今日もたのしかった。 でも、閉館2週間前なのに、「なのに」と思ってしまう位の場内の人数には、やるせない気持ちにさせられた。  


1月31日広島第一劇場閉館日。 前回を最後にするつもりで行った第一劇場だったのだけど、いずれ後悔するという思いが強まり、28日に職場の人にシフト変更をお願いし、深夜バスを予約し、12時間かけて広島へ向かう。

遠征の簡単な手引きにでもなってもらえれば幸いなので書くと、入場料、その他劇場で使いがちなお金、食事も足すと遠征は結構お金を使う。 ただ、通っている実感として、いつどうなるのか分らない業界だと思うので、行こうと思った時が本当に吉日だと思う。 遠征だけでもここ半年で愛媛や福島にも行っている。 気持ちだけで走り出す僕の最良の手段は、いつも深夜バスとネットカフェの深夜パック。 東京から広島への深夜バスは5000円位からあるし、ネットカフェのパック料金は2000円ほどだ(因みに新幹線で東京から広島に行くには、片道18000円ほどかかる)。 もはや寝心地の悪い座席シートでも睡眠をとれ、朝に「よく寝れた!スッキリした!」とつぶやくことで、安眠を自己洗脳できる身体になっている(マスクとネッグピローはある方がよい)。 でもひと月に4往復とか深夜バスに乗るときは、後日体調を崩しがちだったので、結果新幹線を使った方が値段も時間も得だと思った。 因みに大阪や名古屋(岐阜の劇場に行くのに近いので)なら時期によっては2000円もあれば東京から深夜バスが出ている。大阪なら8時間くらいの移動時間なので、それほど疲れない。 これくらいなら本当に財布にやさしくてありがたい。 あとは、バラで交通機関利用するより、宿とのパックのフリーツアーを利用するのも安くつく。 また、広島遠征さんは劇場近くのカプセルホテルを利用する方も多いみたいです。

そうして辿り着いたバスは広島駅に朝9時過ぎに着く。正直だるい。 

劇場の開場が11時台なのでまだ時間に余裕がある。 もうすでに並んでいる人の情報もTwitterで確認していたが、劇場に着くまでにシャワーを浴びたいし、食事を済ましたいし、コインロッカーに荷物を預けたい。

シャワーは夏に駅近くのネットカフェを利用していて、そこを利用する。 幸いにもシャワールームはすぐ利用することが出来た。 シャワーは良い、ダルい身体が一気に回復する。 今度は路面電車に乗り、銀山町へ。 小走りで歩き、少し劇場の方を覗くと既に30人くらい並んでいる。 開演まではまだ40分以上時間があり、『よし、たぶん、まだ座れはするはずだ』と決め込み、食事処とコインロッカーを探す。 ただ、こんな日に来ながら『せっかく広島来たんだしご当地メニュー食べよう!』という貧乏欲が邪魔をして、結局手ごろな店が見つからず食事がとれない。そもそも薬研堀には昼開いてるような店がない。  練り歩き見つけた劇場近くのコインロッカーは満パイで荷物も預けられない。こっちもうまくいかない。  そうこうしている間に開場時間近くになり、コンビニでお茶とシーチキンマヨネーズのおにぎりを買って劇場に向かう。 始めから食事は、劇場でサクッと食べれて匂いの広がらないコンビニのおにぎりにしてればよかった。 今日はラストまで見逃したくないのだから、ステージとステージの僅かなまったりとしたコーナーで食べれるもので良かったんだ。 因みにストリップのお客さん(通称 スト客さん)は、普段からオープンからラストまで劇場にいる(通称プンラス)方が多く、観劇飯はコンビニのおにぎりやパンが多いように思う。 たまに踊り子さんが盆という中央のステージで艶やかな表情してる時に、かぶりつきの席で幕の内弁当を食べている人がいたりして、びっくりすることもある。 ここはライブビューイングじゃない。

開場数分前に劇場前に間に合う。 劇場の外には既に50人ほどの人。 老若男女と言っていい。 開場とともにゆっくり前に進んでいくお客さん。モギリでお金を払い、場内に入るともうすでに座席はほぼほぼ埋まっている。 50人以上並んでいたんだと分る。  どうにか場内後方に置かれたパイプ椅子席をみつけ、そこに座る。  

場内は満員のためか、どこかワイワイと楽しそうな空気が漂っている。 顔見知り同士で挨拶をしあっているお客さんがいたり、 「今日始めてきたの?」「存在は知っていたんですが、子供が大きくなるまで来れなくて。今回閉館を知り何とか来れました」そんな話をする人たちがいたり。  『 I♥(ラブ)第一劇場 』と書かれた黄色いTシャツを着た人達がいたりする。 Tシャツの方たちは地元の人なのかな?知りあい同士なのか分らないけども、まるで昔からの仲間の様で楽しそうで、うらやましかった。  関東の劇場でお話したことのあるお客さんもいる。 数日前に大阪で催したストリップのトークイベントに来ていたと言う人もいる。 ストリップを介して知り合った広島の方もいる。   座席も埋まって立ち見の人もいて、この時点で100人ほどいたんじゃないのかな。

12時30分。 「ハイ、拍手う~」 やわらかい、いつもと変わらないおじさまのアナウンスでショーが始まる。 満員のお客さんの波の様な拍手が起こる。 ショーが始まる事だけでなく、今日までアナウンスをしてくれた事にお礼とねぎらいを込めたような拍手。  あたたかな拍手の音が暗く広い場内に響き渡る。  華のトップステージを飾るのは、牧瀬茜さん。 この1日のステージを目にしっかり焼き付けようとする観客の前に真っ青なライトが降り注ぐ。静まり返った劇場。 ここは海。 海の中。 青い海の中を、踊り子がゆったりと、艶やかに踊りはじめる。 

ショーはゆったりとはじまる。この日の出演者は6人。 1回目はストリップ劇場で言う『通常進行』というもの。 1人のショーが終わるごとに、まったりとしたコーナーがある。 ほとんどの劇場が『香盤』という出演する踊り子とその順にそったタイムラインのようなものでステージ進行をしているが、6人いれば6回、ステージを終えたばかりの踊り子が毎ステージごとに、まったりとしたコーナーをこなす。 最終日である記念に、元々その踊り子さんのファンだから、恐らく様々な理由でコーナーを利用するお客さん。 劇場には営業可能時間がある。 1日4回公演できるはずだけど、このコーナーに人気が殺到すると時間が押して3回公演になるかもしれない。 自分もコーナーを利用したので偉そうに言えないけど、4回公演になるか3回公演になるのか、客にとっても踊り子さんにとっても最後の演目が変わるということ。 また、このステージで踊ることの出来る機会が1度なくなるということ。 そんなことを想像すると、その1回は恐ろしいほど大きいなと、コーナー利用中はせめてコンベアーに置かれたただこなすロボットになり過ごした。 これは僕の言い訳。

踊り子さんたちの、おどけたような、時にダイナミックな、あるいは魂をぶつけるような香盤が進んでいく。 あるステージで、真っ暗な劇場に踊り子の身体から無数のレーザービームが差し込む。 緑色に発光したレーザービームが壁の鏡に反射して客席に何倍にもなって降り注ぐ。 エレ○トリカルパレードと言えばその場所に不一致な表現かもしれないけど、あの盛り上がりときらめき、場内に込み上げる高揚感、『また来るかな、また来るかな』という期待感、あながちあの場所に求めるキラメキに大差がないように思う。 レーザービームを操る小宮山せりなさん、ハンパなくキュートだし。 

確か1回目は全員通常進行だったと思う。 まったりとしたコーナー中に、コーナーに参加しないお客さんたちは場内やロビーで話をしていたり、煙草を吸ったりしていた。 僕も他のお客さんと話をしたり、スケッチをしたり、時に外の空気を吸ったりして過ごしていた。 外では劇場とのツーショット写真を撮っているお客さんもいたりした。

2回目?だったかな(正確に覚えていない)、1回目が予定終了時間を1、2時間過ぎた関係からか、2回目以降の開始予定時刻に戻すため、ステージ進行がトリプル進行(3人のステージが連続してあり、まったりとしたコーナーを3人が同時にする進行。 1人づつでなく同時にまったりとしたコーナーをこなすことで、時間を短縮できる)になる。 ステージが止まることなく連続して3人が舞う。 途中でアナウンスが入り、トリプル進行が、途中ステージが滞らない6人連続進行になる。 4回公演まで回そうとする意気込みに気持ちが高まったスト客さんも多かったんじゃないかな、起きな拍手が起きる。  「ありがとうございます」とアナウンスするおじさま。 踊り子、客だけでない、従業員も一丸となった場内に笑い声がちらほら溢れる。 みんな嬉しいんだ。 1つになっているこの空間が。 

連続した香盤はそれはそれは楽しかった。 気持ちや感情を途切れさせられることなく、1つの壮大な絵巻物語を見ているようだった。  これが香盤なんだと思った。 この6人で繋いでいく物語は、こういうことなんだなと、思った。 ひとりひとり個人の演目が、1本の道を作る。  ぼくはずっとこんなストリップ見たかったんだと思った。 『トップ』『トリ』『トリ前』というような名称があるのだから、どの香盤にも、1本の道を辿りたい。 その道筋を感じたかったんだ。

6人連続進行が終わり、6人同時まったりとしたコーナーが始まる。6人の踊り子さんがステージに分れて座る。 場内はお目当ての踊り子さんの列に客が長い列を作って混沌としている。 人気サークルが集結したコミケの開場みたいだ。 その異様な状況にいつも少年少女みたいに楽しんでいるお客さんたちの表情は、更にワイワイとしている。 『4回公演まわすんだ!』会場全体に流れる結束感からサクサクと進んでいくコーナー。 まったりさなんてない。 

そして徐々に終わりに近づいていく劇場。 途中あまりに長い1日をずっと立ち見しているお客さんたちに、僕の隣の席の人が「席良かったらどうぞ。 お尻、痛くなっちゃって。」と、『なんだその相手に気を使わせないさりげない優しい言葉は!』という声かけで座席を譲る。 自分を含め、周囲の人もハッとして近くの立っているお客さんに席を譲る。 そのことをきっかけに、少し席を譲った方と話をしたりした。 

「劇場がなくなることを最近知って、そしたら意外と近くにあると分って来てみた。 そしたらハマって毎週来ていて、今回最後なんで友だちを誘ってきた。」 という。 身近にあるかどうかは大きいよな。

4回目の公演が無事はじまる。  駆けつけたばかりなのか、太鼓の音がようやく聞こえはじめる。

踊り子さんに投げたリボンからキラキラと紙吹雪が舞い落ちる。

アナウンス。 

拍手。

ポーズベッド。

拍手。 拍手。 拍手。。。。

トリの目黒あいらさんが登場する。 スポット照明を浴び、劇場の空気を全てを包むように堂々と舞う。 

広島第一劇場最終日のトリを優美に踊りきる。

本公演が全て終わり、舞台に6人の踊り子さんが登壇する。 その日駆けつけた踊り子さんも含め8人が舞台の上に立つ。 第一劇場のテーマソングが流れる。

~薬研堀にこだまする 歓声 手拍子 タンバリン 夜毎聞きつけお客さん 胸と股間を熱くする 頑張れ 強いぞ 第一劇場 広島第一劇場~

牧瀬茜さんが代表してお礼の挨拶をする。 最後にひと言もらおうと、社長を呼ぶも社長は現れない。 アナウンスのおじさまがマイク越しに「社長は近くにいません」と話しかける。 「しゃちょ~う!」客席からも声が上がる。  そこにしんみりとした空気は流れず、ゆるりと挨拶が終わる。 「社長! また!また奇跡を信じてもいいですかね!」 牧瀬さんの呼びかけにも反応なく、ゆるりとした空気に客席からは笑い声も見られる。 

挨拶が終わり場内から人が出て行き、場内のゴミ集めや掃除をお客さんがはじめる。 6人の踊り子さんが出口でお見送りをする。  この最後は、湿っぽさを極力排除したい劇場の配慮の様な気がした。

終演後、その場にいたお客さん数人で広島風お好み焼きを食べに行った。 コンビニのおにぎりと、途中1度外出して買ったコンビニの唐揚げしか食べてなかったから、ご当地メニューが嬉しい。 そして、手ごろな価格で、すげーデカくて美味しかった。そしてビールも旨い。 広島第一劇場のこと、ストリップのこと、色々とお話をした。 この時初めて知ったけど、劇場の中に入れなかった方も沢山外にいたようだ。  様々な人の思いがこの日にあった。 

お好み焼きを食べながら、長く広島第一劇場を見ている方に「『I♥(ラブ)第一劇場』のTシャツを着たりしないんですか」と尋ねた。 そのひとは、

「わたしは着ないかな。 否定してるとかじゃなくて、美意識の違い。」 そう答えた。

その言葉に、はっとさせられるものがあって。 その言葉のもつ美意識は、一体感を決して否定してるわけではない。むしろ自分も、あの満員の劇場の一体感が楽しかったし、老若男女いる空間に大衆娯楽性を感じて嬉しかった。 でも、あの場の空気だって、団結感と満足感が確かに溢れていたように思うけど、個人個人の思いがある。 僕が自分の個人性をどこかこのところ劇場で失っていた気がしていた、その気持ちをほどいてくれた。 脱ぎ捨てる場所なのに、その場の空気を気にして、気持ちを着込むようなことも他の劇場にいるときにあった。 それは、その劇場のせいなどでは一切なくて、僕の心の問題だ。 

ストリップ劇場に行く。 たまに僕は、無重力の宇宙の中で、上も下も分らない空間で僕と踊り子さんとちゃぶ台だけが浮遊してあったり、あるいは熱帯魚のいるような水槽の中に水草の様に存在するだけの感覚になっている時がある。  ちゃぶ台はステージに出てきたの? そういう訳ではない。そんなシュールな感覚に共有も団結も求められない。 踊り子に恋をしてるとか脱ぐことが解放とか言うとそれじゃ言い表せてない。 照明も音響もなければストリップにならない。 

皆と別れて、漫画喫茶に泊まる。 

翌朝、少しのセンチメンタルとエゴイスティックなドラマ性を広島に残したく劇場の前に来る。 背中の曲がった80過ぎの愛らしいおばあちゃんがシルバーカーを押し、ぼくの前に来て話しかける。

「今の時間30代、40代しかおらんけど20代より安いで。 おにいちゃん遊んでいかへんか?」

「大丈夫です。」

「そーか」

カラカラとシルバーカーを押すおばあちゃんの背中を見送る。


風俗街の朝がまぶしい。
 

※この文章を書いた数日後、広島第一劇場の期間限定での営業再開が決まったというニュースが入ってきました。 来月4月1日~来年2018年2月20日までのようです。

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