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坂の上の婆

今日。
家を出て、駅に向かう坂道を登っていると、視線の先に一人のお婆さんが立っているのが見えた。

その場所は、交通機関の乗り場でもなく、誰かと待ち合わせするようなところでもなかったため、人が何もせず立っているという状況は少し唐突で、違和感があった。

もしかして・・・何かの勧誘的なやつかな?と、身構えつつ、目を合わせないよう足早にお婆さんの前を通過しようとしたところ、

「あの!」

ついにお婆さんが動いた!
そして、私に話しかけてきている!ひいっ

一体なんの用だろう??と不安を抱きつつ
「どうしましたか?」
と尋ねてみると

「これを買ったんですけど飲めないんです・・・蓋が固くて。開けてもらえませんか?」

お婆さんが私に差し出してきたのは、ミネラルウォーターのクリスタルカイザーだった。

”クリスタルカイザー”

・・・みなさんはご経験あるだろうか。
私はあります。なんて開けづらいんだろうと困惑した経験が。

握れる面積が少なすぎて指先の力のみで回すしかない限りなく小さき蓋・・・

そして、ボディが柔らかめなために、蓋が回った瞬間に、支えていた手の力によって押しつぶされ、勢いよく溢れ出る満杯に投入されている中身の水・・・

これは、これは確かに開けづらいやつだ!!!
私でも開けづらいんだ、お婆さんにはさらに困難だろう。

”クリスタルカイザー”を見た瞬間に、お婆さんに対する共感しかなくなり、なんとか開けて差し上げようと気合いは満タンに。

手袋をはめ(こうした方が指が痛くならずに力めるので)、ふん!と回してみる。
2・3回、チャレンジして、くるりと蓋が回った!!!

お婆さんは
「ありがとうございます!!」
と言って、満足げに坂を下っていきました。

坂の上で、お婆さんはただ立っていたのではなく、
クリスタルカイザーの蓋を開けようと苦戦していたのであった。

「もう無理だ」そう思った瞬間に、ちょうど私が婆さんの目の前を通りすがり、
「この人なら開けられそうだわ」と見込まれ声をかけられた、
そういうことだったようです。


こういう、なんでもない、でも滅多に起きないことが、
私の日常には割とよく起きる。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
それでは、また。

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