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フィットネス業界の『リアルとデジタル融合/ちょっと前とちょっと先』①

少し前になりますが、フィットネス業界唯一の経営情報誌「FitnessBusiness」の特集記事『リアルとデジタルの融合』の取材を受け、記事にまとめていただきました。

記念すべきnote初回投稿は、あの激動の時に、編集長のインタビューに答える形で熱く語った想いを残すものにしようと。

新型コロナ感染者が再び増加している今、リアルとデジタルの融合の在り方を模索している方は多いですし、私自身も4ヶ月ほど前の自分の気持ちや行動を今一度振り返ってみたいと思います。

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以下、同誌からの抜粋記事がベースとなります。

●リアルでも価値のあるプログラム『Sintex®』を開発

自身の身体の不調をきっかけに開発・体系化したオリジナルプログラム『Sintex®(背骨の調律エクササイズ)』を、フィットネスクラブだけにとどまらず、健康経営を推進する一般企業や健康都市を掲げる自治体などにまで多方面に広げている株式会社アージュ代表取締役の井上トキ子氏。

フィットネス業界のインストラクターとしても長く活躍しており、今なおトップ級の知名度と人気を保つ同氏。業界を取り巻く環境の変化や最先端のテクノロジーにも敏感で、いち早くオンラインでのフィットネス指導にも取り組み、5月には自社のサブスク型オンラインLIVE指導サービス「アージュオンラインフィットネスLABO」を開設。コンディショニングを専門領域にするトレーナー・インストラクターらを起用して、その運用を始め、早くも軌道に乗せている。

 デジタルを活用したサービスの導入に、まだまだ抵抗を覚えるフィットネスインストラクターが多いなか、どのようにオンラインでのフィットネスサービスの展開に取り組んできたのか、サクセスフルに展開していくためにはどんなことがキーポイントになるのか、訊ねてみたいと考えた。
 まず、井上氏は3年前に株式会社アージュを設立しているが、この間に何を思い、どう行動してきたか、そしてどこを目指しているのかについて訊いた。
 「プレコリオ(振り付け事前固定型)プログラムによるグループエクササイズが勢いが増すなかで、プログラムの創造力や顧客への臨機応変力、果ては身体能力をグループエクササイズインストラクターに求めるフィットネスクラブが減っている(現に業務契約インストラクターの査定機会や教育機会は減る一方でした)のではないかと感じ、こうした潮流が色濃くなるなかでは私の持ち味が活かせないと一旦フィットネスクラブを離れようと思いました。時を同じくして次の時代に真に求められるだろうプログラムの追究が始まったのですが、諸々を統合・体系化して完成に至ったのが、背骨の調律エクササイズ『Sintex®』です。このプログラムを広く普及させたいと思い、起業することを決めました」。

『Sintex®』は、当時主流となりつつあった完全プレコリオ型のプログラムとは違う。基本となる複数の型はあるものの、それらをどうチョイスし、どう組み合わせ、どんな曲をあわせるのかといったことを、『Sintex®』の認定トレーナーそれぞれが目の前のお客さまにあわせて柔軟に選択・提供できる自由度があるのだ。

想像力と創造性、そして個々のお客さまへの配慮が必要となるので、ライセンス取得セミナーやその後の継続教育では、特に参加者全体を観察するスキルと臨機応変指導力の向上、および認定トレーナーとしての動作力向上に重きを置くことにしたという。その後の広がりは、どうだったのか?

「幸いなことに、フィットネス業界のなかでも独自のポジショニングをとっていたエグゼクティブ向けフィットネスクラブとのご縁に恵まれました。顧客に最適なSolutionを提供できるパーソナル視点を有するグループエクササイズ指導者を求めているようなクラブと順次法人契約を交わして、認定インストラクターを派遣できるようになっていったのです。認定インストラクターにとっても、学びを活かせる場所ができたことは、喜ばしいことでした。

直近では、健康経営に熱心な一般企業などにもこの『Sintex®』を届ける機会が増えてきましたので、さらにプログラムと認定トレーナー陣の質を高め、個々人のニーズに対応したソリューションにすべく努力を重ねているところです」。こう、井上氏は、答える。時代の要請にも、フィットしたのだろう。


『Sintex®』とは、Sebone(背骨。英語でもSpineで頭文字がS)とintegrated(統合という意味の英語)とexercise(エクササイズ)を併せた合成語で、既述の通り継続的なプログラムの品質改善の末に、現在は次の3種類のラインナップとなっている。


(1)「Tone(回復プログラム)~眠れる体づくり」~運動が苦手な人からの支持も高い、脱力を促すコンディショニングプログラム

(2)「Reborn(改適プログラム)~動ける体づくり」~股関節痛や腰痛の改善効果や、運動パフォーマンスの向上効果の高いボディワーク

(3)「Cardio(燃焼プログラム)~痩せやすい体づくり」~上記(1)(2)をベースに運動の原理原則を統合したエアロビクス

デジタルやオンラインなどのテクニカルな手法を語る前に、基軸となるコンテンツに本質的な価値があり、それを現場で参加者に届ける認定トレーナー陣に相応のマインドとスキルが備わっていなければ、市場・顧客を捉えることはできない。これは、「リアルとデジタルの融合」以前に重要なことと言えよう。井上氏のプログラムを開発・改良していく力と人材育成への熱意、リーダーシップの賜であろう。


●企業からのリモートでのレッスン要請が、きっかけに

2020年に入って「Sintex®」の認定インストラクターも全国規模で増え、130人を超える規模となり、エンドユーザーを増やすべく活動しようと思っていた矢先に、新型コロナウイルス禍の影響を受けることになる。デジタルやオンラインを活用する取り組みにいち早く着手したきっかけを含め、オンラインフィットネスサービス導入までの経緯を訊いた。

 「コロナ禍の影響を受ける前から、スカイプやZOOMを活用したオンラインミーティングの機会はかなり増えており、業務を効率化できるメリットを実感していました。またプログラムのプロモーションやイベントの告知などに動画を活用する企業や個人が増えてきていることも認知しており、当社もオンラインを活用したサービス強化に注力しようと動き始めていましたが、主力事業にするような考えは当時はまだ持ち合わせていませんでした。
 最初のきっかけは、法人契約先の企業からのリモートレッスンへの切り替え依頼でした。
これまで健康経営サポートの一環として法人契約先の各企業に出向いてレッスンを提供していたのですが、コロナ禍が深刻化し始めた3月に某企業から『社員を在宅勤務にすることにしたので、フィットネスレッスンもリモート化してもらえないでしょうか』と相談されたのです。」

「実は、それまでオンラインでのレッスン指導経験は全くなかったのですが、テスト通信も含め実践的に全て教えてくださるとのことで、私自身『これはチャンスだ!』と思い、二つ返事でお引き受けしました。まずは私が先頭を切って自宅からレッスンを配信していきましたが、幸いにしてご好評をいただき、レッスン本数を増やしてほしいとのご要望を頂くことができました。そこで、Sintex®教育チームメンバーを巻き込みながら、オンラインレッスンを担当できるトレーナー仲間を増やすアクションに移りました。」

 井上氏自身が仲間に業界の未来予想図を示しながら、オンラインレッスンへのチャレンジを促し、それぞれが担当するオンラインレッスンにも立ち会いながら改良のためのアドバイスを続けていったとのこと。4月に入る頃には、教育チーム全員がオンラインでのレッスンを難なく指導できるようになったという。

 しかし、オンライン業務に携わる時間が増えるにつれ、井上自身が不調を感じるようになる。「当初は自宅のWi-Fi環境が十分ではなく、便利な撮影ツールの情報にも疎く、準備を含めオンライン業務に向き合う時間がついつい長くなり、体内時計と自律神経のリズムが崩れてしまったのでしょう。体調を崩してしまいました。いち早くオンライン化に動き出したインストラクターやトレーナーからも同様の声が届くようになりました。」

 そこで同氏は、自分自身が開発したSintex®『Tone~眠れる体づくり』を就寝前に自ら時間をかけて習慣化することにし、睡眠の確保に重きをおくようにしたところ、体調がすぐに戻り、改めてプログラム効果を実感できたという。「これは、同じようにリモート化への急激な切り替えで体調を崩しているインストラクターや、ストレスを抱えながらリモートワークをしている方々にニーズがあるに違いない!しかも音楽不要で強度難度も低いのでオンラインでも提供しやすいはず!」と直感的にひらめき、自身が運営していた予約~配信サイトを利用して、30分間1,000円のクラスを設置してオンラインレッスンを提供することにした。すると毎回20~30人もの申し込みがあったという。

「レッスン前後の時間を含めても、45分間で2~3万円の収入になる。これなら、相応のインストラクターなら集客ができるはずなので、実力のあるグループエクササイズインストラクターが新しい働き方と新たな収入源を得られる時代がくる!」そう確信し、Sintex®認定トレーナーらにも広く、「これからオンラインでもレッスンを提供できるようにしていきましょう。」と声がけをし、認定トレーナー向けに無料の『ZOOM』勉強会を繰り返し開催していく。

この働きかけで、組織の連帯感が高まったこともあり、ライブにオンラインレッスンの在り方を体験する場づくり・地域差なく『身体と動作と心』を学べるコミュニティづくりを目指し、月額制の『アージュオンラインフィットネスLABO』(以下、オンラインLABOという)を始めることになる。そうした経緯もあり、現在もユーザーには全国の認定トレーナーをはじめ、グループエクササイズインストラクターが多いという。

⁂アージュオンラインフィットネスLABOとは↓


●Sintex®認定トレーナーを中心にチームとしてオンラインレッスンを提供

オンラインLABOを作った理由は、既述したように、外出自粛要請期間中でも生活リズムを整え、コンディションを維持できるような場を作りたいという思いが最も大きかったという。この時点で『今までクラブで指導していたレッスンをオンラインで届けよう』という類の動機とは異なっている。

〝いまだ運動習慣のない人たち、自力では運動を継続できない大多数が何かのきっかけでフィットネスに関心を持ち、それを生活の中に自然に取り込むことで、予想以上の効果を実感し、やがて習慣化していく〟というビジョンが井上氏にはある。グループエクササイズ指導者がその職業的価値を高めていくには、上記のような世界観を明確にし、それを実現できる機会を自ら増やし、多数を相手に動機づけできる仕事をしているという自覚の元でレッスン指導をしていくことが重要である。オンラインコミュニティは、それを実現するのに最適な「場所」になると同氏は考えたのだろう。

またこの頃、いわゆるサブスク型でオンラインレッスンを配信する動きが多く見られるようになっていた。単発都度払い制から月額定額制に移行することで、提供プログラムや時間設定を多様化できる。更にはユーザーの定量・定性のデータを分析すれば、オンラインレッスンを好まれるターゲットやそのニーズをもう少し正確に把握できるのではないか、更にはそのことが既存顧客の満足度向上や新しい顧客創出に繋がるのではないかと考えたそうだ。

とはいえ、井上氏一人のレッスンをオンラインでLIVE配信するだけでは、その後の集客や多様性をもったコミュニティの広がりは難しくなるだろうと予測、やがて行き詰ることが容易に想像できたとのこと。

そこで、自身の労務負担を減らしながら、オンラインLABOのブランド力を高めるようなチームでのコミュニティづくりを目指すことにした。〝『調子がよい!』と感じる日を増やすコンディショニング〟をコンセプトに、指導力と集客力に優れた人柄のよいインストラクターやトレーナーに声をかけ、10人ほどの講師陣でチームを組み、1週間に約13本のレッスン配信をスタートさせた。

しかしながら初月は、わずか34名でのスタートだった。


⓶の後編に続く。

後編は、オンラインコミュニティメンバーが増えた現在に至るまでの取り組み(失敗を含む)や、オンラインレッスン指導者の選定基準、オンラインレッスンコミュニティの運営を考えているフィットネスインストラクターへのアドバイスなどが盛り込まれています。

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