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『銀花の蔵』感想文

羽田椿です。



遠田潤子さんの『銀花の蔵』の読書感想文を書きます。



その前に、記事の後半を有料にした理由を。



読書感想文は個人の見解で、なにを思おうと書こうと自由だとは思います。けど、もしかしたら、このひとりよがりな感想を目にして、不愉快な思いをする人がいるかもしれません。



なので、無制限に人目につく状態にするのはちょっと怖いなと思いました。



だったら公開しなければいいんですけど、こういうふうに自分の考えを文章にまとめたのははじめてのことで、誰にも読まれなくても、形として残しておきたかったのです。

よろしければ、前半だけでも読んでいってくださいませ。

ではまず、作品の紹介から。





(注意)最初から盛大にネタバレします。




舞台となる時代

昭和三十年代、大阪万博を再来年に控えた年の夏からはじまります。

最後は2018年までです。





次は、登場人物の紹介です

登場人物・銀花

なにか特徴を書こうと思ったのですが、これといってないかもしれないです。

健気で一途な、ふりまわされる系主人公。主人公界にはよくいるタイプ。

自称「へらへら」ですが、そうは見えませんでした。

父の実家の醤油蔵で、当主にしか見えないといわれている座敷童を見てしまいます。

醤油蔵の杜氏の息子、剛のことが好き過ぎです。

登場人物・尚孝(銀花の父)

絵描き(志望)。

銀花とは血がつながっていません。

銀花いわく、おみやげの天才。出かけると必ず素敵なおみやげを持って帰ります。

父(銀花の祖父)が亡くなり、家族で実家に帰って醤油蔵を継ぐことにします。おそらく、これまで父が母(銀花の祖母)に内緒でしていた生活費の援助がなくなり、立ち行かなくなるためだと思われます。

実家に帰ってからも「ほんとは醤油なんか作る気はない」とか言ってますし、絵で成功していたら継がなかった可能性が高いと思います。

なのに、銀花が座敷童を見たとわかると、何年か経った後でも、酔っぱらって土手で泣き、「僕は最低や。資格がないんや」と叫び、お気に入りの曲を歌い出したりします。

さすが芸術家、なかなかエキセントリックです。

気に食わないことがあるとすぐぼーっとしたり、目が濁ったりして怖いです。

銀花が中学生の頃、母(銀花の祖母)と喧嘩して家を出ていき、そのまま川で亡くなり、長い間自殺と思われていました。

登場人物・美乃里(銀花の母)

料理が上手で、尚孝を好き過ぎです。

銀花と尚孝と三人で暮らしているうちは、母親っぽい言動もあったりしますが、尚孝の実家に帰ってからは周囲に怯えて子どものようにふるまいます。

空襲で孤児になり、松島(遊郭)で育ち、十九歳で銀花を産みました。お客の子どもということだと思います。

銀花が赤ん坊のうちに尚孝と出会い、結婚しています。

窃盗癖があり、銀花を苦しめますが、亡くなった後、窃盗病という病だとわかります。

家事しかできないと思われていますが、仕事を頼めばゆっくり丁寧に、きちんとこなしてくれます。

登場人物・多鶴子(銀花の祖母)

醤油蔵を守る使命感の強い厳しい方。

美乃里(銀花の母)は怯えています。

まだ五十二歳ということで、銀花は「おばあちゃん」ではなく、「多鶴子さん」と呼ぶことにしました。

夫(尚孝の父、銀花の祖父)は婿養子で、『顔を一度見て、次の瞬間には忘れてしまうような影の薄い男』だったそう。作中でもマジで存在感なし。

尚孝はこの影薄男の子どもで、娘(桜子)は不倫相手(イケメンでロマンティスト)の子どもです。尚孝はあくまでも夫の子どもで、母になどなりたくなかった、と言っています。

過去、母と二人で弟(妾の子)を殺しており、罪悪感からそれを座敷童だとして、当主にしか見えないという言い伝えを捏造。跡継ぎである息子の尚孝にもくり返し言い聞かせています。そして、話が広がっていくうちに、嘘だということを忘れてしまったと言っています。

厳しくてきちんとした人かと思いきや、なかなかクレイジーです。

それでいて、娘には婿を取れと言い、銀花の結婚にも反対します。


登場人物・桜子(一歳上の銀貨の叔母)

性格のきつい美人さん。銀花に「叔母さんて呼ばないで」と言います。

お兄さん(尚孝)は大好き。

美乃里(銀花の母)の作る洋食をよろこび、万引きにも理解を示します。

自分が母親の不倫相手との子どもだと知っています。死期の近くなった父親本人が、母(多鶴子)との約束を破って会いにきたのだそうです。勝手な男です。

母親(多鶴子)に反発し、中学生くらいから夜遊びをはじめ、暴走族のマスコットになります。銀花を夜遊びに連れ出し、醤油蔵の杜氏の息子、剛と、結果的には引き合わせます。

尚孝の三回忌の後、多鶴子に婿を取るよう言われて家出をしますが、三十手前くらいで子どもを連れて戻り、またすぐにいなくなります。

置いていかれた子どもたちは銀花の子どもとして育てられます。

登場人物・剛(醤油蔵の杜氏の息子、銀花の夫)

子どもの頃、父親に頼まれ、醤油蔵の座敷童のふりをして尚孝に目撃されるはずが、銀花に見られてしまいます。尚孝に当主としての自覚をもたせたかった父親は、剛のミスを許さず、親子の関係は悪化。剛はグレて暴走族に入ります。

悪い仲間が万引きをネタに美乃里(銀花の母)を強請るのを止めようとして、その仲間を死なせてしまい、少年院に入ります。
少年院を出た後、しばらく孤独に暮らしていますが、銀花が訪ねてきて、あれやこれやで結婚に至ります。



この後、あらすじを書こうかと思いましたが、もうだいたいわかる気がするので感想に入ります。




感想・筆力という力技

興味のないジャンルの本なので、どうかなあと思いつつ読みましたが、さすが直木賞候補というか、すらすら読み進めることができました。情景描写などは最小限で、起きた問題を地の文で説明して、解決を会話文でするという印象。これは終盤で顕著です。

話自体は独自性のあるものではなく、こうなるだろうなという方向に流れていくのに、飽きずに読める。これが筆力というものかと思いました。ただ、剛が座敷童の正体だったというところでは、「そうきたか!」と思いました。上手い。


感想・うん?

序章はないほうがいいなと思いました。あと、第五章はダイジェスト感がすごいです。

感想・あれ?

座敷童に期待していた身としては不思議要素がなくて残念でした。



感想・醤油蔵は書き割り的

帯を見て、醤油蔵が舞台の一代記という感じで、朝ドラかな? と思いましたが、醤油造りは添え物で、あくまで銀花と周りの人々のドラマがメインです。この後読む予定の『雲を紡ぐ』も手仕事を扱った作品ですが、こちらはその手仕事を丁寧に書いていそうなので、対比するという意味で読むのが楽しみになりました。



感想・文章について

文章は説明的でわかりやすいし、読みやすいです。読者に誤解なく理解させるという感じで、想像を掻き立てるとか、行間でなにかを感じさせるような文章ではありません。情緒的な文章が好きな方にはものたりないと思います。入り込めないんじゃないかな。けど、これがエンタメの文章なんだろうと思います。



あと、「~やよ」「~やの」っていう方言がめちゃくちゃかわいいです。





この先は有料です。作品や作者さんのファンの方にはおすすめしません。けなしているわけではありませんが、仮に褒めていたとしても、読解力のない人間のフィルターを通した、ひとりよがりな作品観が気に障る可能性があるからです。



死ぬほどネタバレしてます。



そして長いです。




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