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一点もの人生を生きる

今回のテーマ:これぞニューヨーカー

by らうす・こんぶ

ウィキペディアによると、ニューヨーカーとは「ニューヨーク州、またはニューヨーク市生まれの住民の呼称」だそうだ。でも、日本のメディア、特にファッション雑誌や女性誌などが「ニューヨーカー」というときは、ただ単に「ニューヨークで生まれた人」という意味では使っていない。時代の先端を行くような、または個性的でかっこいいライフスタイルを持っている人など、雑誌の読者が憧れる対象として「ニューヨーカー」を登場させている。

とにかく「かっこいい」がニューヨーカーのキーワードらしい。だからこそ、ニューヨークに憧れる人が多いのだろう。私もニューヨークの、またはニューヨーカーのかっこよさーーたとえそれが幻想だったとしてもーーに惹かれてニューヨークを訪れた。

今回「これぞニューヨーカー」というテーマを設定して、じゃあ、どんな人がニューヨーカーと呼ぶのにふさわしいか、ニューヨーカーという人たちの共通項とは何かと改めて考えてみた。そして、私が出した結論。

これぞニューヨーカーなんて人はいない。

江戸っ子の定義として、「江戸っ子は三代続いて江戸生まれでなければならない」(ウィキペディア)というのがある。「ニューヨーカーはニューヨーク州、またはニューヨーク市生まれの住民の呼称」というのは、この江戸っ子の定義の仕方に似ている。客観的な定義なのでわかりやすい。

ただ、落語や時代劇の影響でか、江戸っ子には「宵越しの金は持たない」とか、「喧嘩っ早い」、「情に厚く涙もろい」、「粋でいなせ」などというイメージがあるが、ニューヨーカーのイメージはよくわからない。

さっき、ニューヨーカーのキーワードは「かっこいい」”らしい”と書いたが、これはメディアが作り出したイメージだろう。もちろん、ニューヨークにはかっこいい人もいるし、かっこいい場所もあるし、かっこいい文化もあるし、かっこいいライフスタイルもある。でも、それは東京だって同じだし、そもそも「かっこいい」かどうかは主観的なもので、客観的な基準ではない。ニューヨークやニューヨークに全く関心がない人だってたくさんいる。

ただ、ニューヨークが東京と違うのは、ニューヨーク市は世界中で最も人種や民族、生き方の多様性が進んだ街であるという点。そう考えると、江戸っ子気質のようにニューヨーカー気質というようなことばでニューヨークに住む人たちを一括りにするのはそもそも無理がある、ということになる。だから、

これぞニューヨーカーなんて人はいない。

それでこそニューヨークであり、ニューヨークの魅力なんじゃないだろうか。思い出せる限りのニューヨーク在住の友人知人を思い出してみた。ニューヨーク生まれニューヨーク育ちの人もいるが、大多数は生まれが他州だったり外国だったり。職業もさまざま。人種もさまざま。家族の形態もさまざま。異性愛者もいればLGBTもいる。ファッション雑誌に取り上げられそうなライフスタイルを実践している人もいれば、伝統的な価値観や習慣を大切にしている人もいる。宗教を大切にしている人もいるし、無宗教の人もいる。大金持ちも住んでいるし、路上生活者も多い。変な人も多いが、それは自分を「変じゃない人」と仮定すればの話。

この人たちの共通項はなんだろうか。結局、ニューヨークに住んでいる、という事実しか残らないんじゃないだろうか。日本の女性誌がニューヨーク特集を組むときの「ニューヨーカー」と、ニューヨークで発行されている雑誌「ニューヨーカー」の描くニューヨーカーはかなり違っているだろう。どのメディアに触れているか、誰と付き合うか、どこに住むかによってニューヨーカーのイメージは変わる。だから、いわゆるニューヨーカー、これぞニューヨーカーというのは幻想であって、探せば探すほど見えなくなっていく。

しかも、日本人は他の人たちと同じであることに安心感や心地よさを見出すところがあるが、ニューヨークの人たち(もしかしたら、アメリカ人一般?)は、他の人と違ってナンボ、みたいなところがある。ますます一括りにできなくなる。そこで、私はニューヨーカーをこう定義したい。

「ニューヨーカーとは、ニューヨークに住み、ニューヨークを愛し、オートクチュールのスーツやドレスのように1点ものの人生を生きる人の呼称である」

逆に言えば、流行のファッションを好み、雑誌に紹介されているようなライフスタイルを実践し、他の人と同じような考えを持ち、他の人と同じように行動し、出る杭にならないような生き方を選ぶことはニューヨーカーらしさとは対極にあると言えるのかもしれない。



らうす・こんぶ/仕事は日本語を教えたり、日本語で書いたりすること。21年間のニューヨーク生活に終止符を打ち、東京在住。やっぱり日本語で話したり、書いたり、読んだり、考えたりするのがいちばん気持ちいいので、これからはもっと日本語と深く関わっていきたい。

らうす・こんぶのnote: 

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