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あなたの知らない10ドルの楽しみ方

今回のテーマ:あなたの知らないニューヨーク

by 河野 洋

今回のテーマは「あなたの知らないニューヨーク」なのだが、知っているものとばかり思っていたことが、気づかぬうちに新しくなっていた、なんてことがざらにある、知らないことばかりのニューヨーク。季節や景色と同様、お店や人の移り変わりも本当に早い。それだけ時間が早く流れている証拠だろう。

NYへ移住してきた90年代初頭、コーヒーなんかは屋台デリカテッセンで買ったりしたものだが、スターバックスの出現により、スタイリッシュなコーヒーやティーのお店が、じわじわと増加した。アメリカには日本で言うところの喫茶店がなく、コーヒーといえば、ファミレスに当たるダイナーが人々の交流の場だったように思う。そのスタバがニューヨーク市に1号店をオープンした1994年4月以来、241店舗(2019年4月統計)まで増えたというが、それを上回るのがダンキン・ドーナッツ。なのに、なぜかスタバの方が多いイメージがあるのは効果的なブランド戦略が理由だろうか。ちなみに全米には今や15,000店舗のスタバがあるらしい。

ニューヨークは物価が高い。観光客もついつい散財しがちだが、意外に重宝するのが99¢(セント)ストア。日本で言う100円均一ショップだが、私が住むクイーンズにも沢山あり、日用品を始め、食料品も取り揃えていたりするので、ほとんどの日常生活品が揃ってしまう。私が知る限り、*こうしたお店のオーナーの多くは面白いことに中国人だと言うこと。どこに行っても中華料理店があり安価で空腹を満たして食えるし、日々の生活で中国人に受ける恩恵は多い。*クイーンズにはインド人経営者が多い地域もある(らうす・こんぶ談)

中国人で思い出したが、行きつけのコイン・ランドリーも中国人が経営している。日本にはないと思うが、Wash & Fold(ウォッシュ&フォールド)といって、サンタクロースが担いでいるような大きな袋に溜まった洗濯物を持っていくと、お店の人が洗って畳んでくれ、数時間後には取りに行くだけという、忙しい人には嬉しいサービスがある。洗濯機、乾燥機、洗剤に加えて、洗濯にかかる約2時間を自分が労働した時の時給に換算すると、非常にお得なサービスだと思い、いつも活用している。ちなみに費用は7kgくらいで15ドル(約1,700円)ほど。このお店はオーナーが真面目だし信用しているが、以前、通りかかった洗濯屋で従業員がポテトチップスを食べながら洗濯物を畳んでいるのを見てギョッとしたことがあるので、衛生的に問題のないお店かどうかは、確かめてから利用してもらいたい。

長年のニューヨーク生活でこれまで一度も入ったことすらなかったのが占い師のお店。霊媒、手相、タロットカード、クリスタルで、未来を教えてくれるビジネスだ。ニューヨークにはチャイニーズフードやスタバのように、至る所にある。友人曰く、この手のビジネスはルーマニアのジプシーが多いと言う。ということで、物は試しに近所の占い師を訪ねてみた。入り口で値段を見ると10ドル〜と書いてあるので、それを試そうと思いドアを叩く。カーテンを開けて中から顔を覘かせるのは小さな男の子。占い師の息子さんなのだろう。お母さんを呼びに行ったのか、その後、ずんぐりむっくりの女性が顔を出したので、「占って欲しい」と言うと面倒臭そうに中に通してくれた。

中に入ると、小さな子供が6人くらい、まるでペットの猫のように部屋の中を歩いたり、ソファに座ったりしていて遊んでいる、占い師も子育てで大変なのだな、と生活感丸出しの占い師に親近感が湧いてしまう。さて、肝心の料金を聞くとクリスタルやカード占いやらで45ドル、65ドルと値段の高いサービスばかりを勧めてくる。そんなお金はないから、看板に出ていた10ドルのをお願いしたら、片手なら10ドルだが、両手の20ドルもあるわよ、と商魂たくましい。

ウィズコロナならではだが、まずは手指消毒液を出され、右手を消毒。次に3つの願い事を決めて2つを心に留めて、最後の1つを私に教えなさい、と言うので、その通りにすると手のひらを開いて手相で僕の過去、現在、未来を話し始めた。理由はわからないが、基本的にどれも当たっていて感心してしまった。そして未来のことになると自分にとっても大きく関わってくることなので、あれこれ聞いてアドバイスをもらう。基本的に悪いことは言わないのだが、注意した方がいいことは教えてくれる。

最後に忠告されたことを、改善するにはどうすればいいのかを聞くと、「スピリチュアルのトレーニングをすることね。準備ができたら、また来なさい」とやはり最後まで占い師は営業を忘れなかった。7分程度のセッションを終え、約束の現金10ドルを渡し、「占い師にはルーマニア人が多いって聞きましたが」と話を切り出すと「私は違う」といとも簡単に否定された。

部屋の中を縦横無尽に歩き回る子供たちを横目で追いながら店を出たが、初体験の占いは、思ったより楽しく、愉快だった。これが10ドルでできるなら、また近いうちに別の占い師にも未来を見てもらってもいい。10ドルくらいなら、当たらない宝くじを買うより、当たるかもしれない占い師の助言を聞く方がずっといいじゃないか、と思いつつ、今日、占い師に言われた自分の未来について、あれこれ考えながら、家路を急ぐのだった。

2021年12月12日

[プロフィール]
河野洋、名古屋市出身、'92年にNYへ移住、'03年「Mar Creation」設立、'12年「New York Japan CineFest」'21年に「Chicago Japan Film Collective」という日本映画祭を設立。米国日系新聞などでエッセー、音楽、映画記事を執筆。現在はアートコラボで詩も手がける。


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