Easy come, Easy go
今回のテーマ:友だち
by 福島 千里
吹き溜まりの街ニューヨークでは、出会いのきっかけはよりどりみどりだ。この街にやってくる人は、各々が多様なバックグラウンドを持っている。画一的でないがゆえに、他者に対しても比較的オープンで寛容。そしてなにより気さくな人が多い。もちろん、すべてのニューヨーカーに当てはまるわけではない。が、大前提の英語をあるていど解し、臆することなく相手に向き合えて、共通の趣味や関心事があれば、きっとたちどころにノリの良いニューヨーカーと知り合いになれるだろう。
出会いの場としては、文化交流会やイベントなどがポピュラーだ。スポーツ好きならスポーツ・バーで出会うのもよい。日英語のランゲージ・エクスチェンジのパートナーになるのもよい。社交的な知人友人ができれば、その人をを通じてさらに多くの個性的なニューヨーカーと知り合えることもある。これまでもそんなsocial butterfly(社交的な人)によって、時々びっくりするような人に出会う機会があった。学校も友人やコネクションを作る大切な場だ。特に厳しい勉学の日々を共に過ごした級友とは、卒業後もきっと良い関係を築けるだろう。
とにかく、きっかけや場所を意識してあるていど自発的に働きかければ、ニューヨークで知り合いを作るのはそんなに難しいことではない、と思う。でも、そこからより近しい関係になれるかどうかは、また別の話。
再三だが、ニューヨークは吹き溜まりの街だ。地方や他国の人々が、大きな夢や目的を掲げてこの街に辿り着き、そうした多様な人々によって独特の文化・経済圏が形成されている。当地にそのまま長く居続ける人もいれば、数年後には次の目的のために去っていく人もいる。出会いは簡単だが、疎遠になるのもあっけない。友人に至らず、知り合い止まり。利害を求めて近づいてくる人も実際にいるし、正直なところ、そんなドライなつきあいも多い。
加えて、絶えず流動する街では、人々は次のキャリアアップや新しい目的地を目指して動き続ける。皆、理由はさまざま。だから、せっかく友だちになれても気がつけば”さようなら”、なんてこともよくある。私自身、四半世紀近くこの都市圏に暮らし、その間、いったい何人の知人・友人を見送ってきたことか。近年はSNSで連絡を取り合えるものの、やはり本人に会えないのは寂しいし、物理的距離を超えて一定の関係を維持するためには、日本人同士の友人以上に双方の努力が必要だ。
そんなわけで、私の場合、20年以上もニューヨーク都市圏に暮らしているものの、当地で今なお友人と言える関係(度合いにもよるが)にあるニューヨーカー(元ニューヨーカーも含める)の数は実はそれほど多くない。私自身が非社交的だということも理由の1つだが、今も確実に交流できているのは留学時代に苦学を共にした級友数名と、アパートシェアで共に過ごした元ルームメイト、仕事や趣味を介し、年月を重ねながら親しくなっていった人々ぐらい。皆、私の大切な宝であり、たとえ互いが遠く離れてしまっても、ずっとよい友人関係を続けていければと願っている。
ニューヨークで誰かと知り合うのはそう難しいことではない。むしろ、時に夢のような出会いもある。けれども、その関係を維持し、さらに発展させるには、並々ならない努力も必要なのだ、と思う。
◆◆福島千里(ふくしま・ちさと)◆◆
1998年渡米。ライター&フォトグラファー。ニューヨーク州立大学写真科卒業後、「地球の歩き方ニューヨーク」など、ガイドブック各種で活動中。10年間のニューヨーク生活の後、都市とのほどよい距離感を求め燐州ニュージャージーへ。趣味は旅と料理と食べ歩き。園芸好きの夫と猫2匹暮らし
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