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募金活動の経験はあるものの

今回のテーマ: 寄付
by  萩原久代

「私は、名誉にかけて神と国とに対するつとめを行い、いつも他の人々を助け、ガールスカウトのおきてを守るようにいたします」

私は小学校高学年から数年間だけガールスカウトだった。当時のガールスカウトの「約束」は深く記憶に刻まれている。(現在の約束文は当時と少し違う)

土曜日午後に近くの教会敷地内で活動があった。フォークダンスなどの娯楽のほかには、キャンプのためのテント張りやカマド作りの練習や、手旗信号の学習など、今思うとサバイバル研修みたいだった。そして、年に2回は街角に立って募金活動をした。

学校が休みの日曜や祭日だったと思う。3人ほどのスカウトのチームに大人のリーダーひとりがついて、駅やショッピング街で、赤い羽根共同募金の手伝いをした。ガールスカウトの制服を着て、首から募金箱を下げ、寄付金を入れてくれた人に赤い羽を胸につけてあげる。チームメンバーに負けずと、大きな声で「募金をお願いしまーす」と叫んだ。時々、1000円札を入れる人がいると、赤い羽を1つだけなく、もっとつけてあげたくなったりした。

子供だった私は、集まった募金額がどのくらいで、どこに行くのかも知らなかった。でも、自分も募金箱にお小遣いから200円を入れて、赤い羽根を制服につけて募金活動に精をだした。きっとどこかで人々を助けているのだろうと思って胸を張った。

高校受験を前にガールスカウトをやめてからは、募金活動や寄付には関係なくなった。ただ、赤い羽募金をしている子供を見れば、かつての自分の姿と重ねってみえて、少額を募金箱にいれるくらい、といった学生時代と社会人生活を送った。当時の日本には今ほど様々な慈善団体やNPO法人がない時代だったから、日常的に視野には入らなかった。私の意識も非常に低かった。

1990年代半ばにアメリカに住み始めて、寄付が身近にあることを実感した。日本に比べるとアメリカの個人寄付額は圧倒的に大きい。日本ファンドレイジング協会の「寄付白書 Giving Japan(2020年)」によると、日本の個人寄付総額は1兆2,126億円、GDPに占める割合は0.23%だった。一方、米国は34兆5948億円、GDP比1.55%だ。

https://jfra.jp/wp/wp-content/uploads/2021/11/GJ2021_infographic.pdf

しかし米国の人口は日本の3倍以上だから、34兆を単純に3で割ってみる。人口規模でみれば、日本も11兆円くらいの個人寄付がないと米国と肩を並べることはできない。とはいっても、米国の大金持ちの桁違いの寄付額が総額を引き上げている。そういう意味では日本の大金持ちがもっと頑張らねばならない。

ニューヨークの私のまわりの体験的な話だが、友人らは美術館や、文化・芸術関連団体、慈善団体などに寄付をしている。支援したいテーマや活動を選んで寄付先を決めるので、動物保護団体支援に熱心な友人もいるし、社会的テーマに取組む団体へ寄付する人もいる。アメリカのNGO団体数は150万近くあり、これら団体への寄付は所得税からの寄付額控除を認可されている。加えて宗教団体も色々とあるし、選ぶ対象が多くて選ぶのも大変だ。

さて、小さい時に募金活動を経験した私だが、実はあまり寄付に熱心ではない。何をどう支援したいかが自分の中ではっきりしないのが一因だ。

結局、自分の好みでちょっとした見返りのある寄付だけになった。そしていつまでも存続してほしいと思う場所、例えば、美術館や博物館の会員になることだ。年間会員費の一部が寄付だからだ。メトロポリタン美術館の場合、一番安い年間会員費が110ドルで、そのうち63ドルが寄付金扱いとなり、所得税からの控除対象になる。しかもいつでも美術館にゲスト一名を連れて無料で入館でき、ギフトショップの買い物は15%オフとなる。エビでタイを釣るような寄付である。

もうひとつはPublic Broadcasting Service (PBS)「公共放送局」のニューヨーク地区テレビ局(WNET)への寄付だ。公共とは言っても、連邦・地方政府の補助は全予算の3割以下しかなく、あとは一般個人寄付と企業・法人からの寄付で成り立っている。政府補助金は、つまり米国納税者の負担である。これが納税者当たり、年間約1.6ドル(約300円)になるという。PBSを応援したいのは、一部の議員らが公共放送事業への政府補助金中止のための運動をしているからでもある。こんな微々たる補助金額なのに。

もちろん、NHKのような視聴料徴収は全くない。まあ、資金力のあるNHK とは違って、PBSには大河ドラマといった大作や様々な語学教育や趣味の番組もない。が、調査・分析力のある報道番組やドキュメント作品、提携している英国BBCドラマなどを放映している。年間60ドルの寄付は全額控除額となり、過去の番組もほぼ見ることができて、おまけにニューヨーク地区の一部の美術館などの割引制度もある。民放と同じように、寄付しなくても当然、PBS放映を観ることはできる。ただ、過去の放映番組視聴は制限されている。

そんなわけで、エビタイの寄付ばかりになっている。
ああ、「他の人々を助け」のガールスカウトの約束が果たせていない。


萩原久代
ニューヨーク市で1990年から2年間大学院に通い、1995年からマンハッタンに住む。長いサラリーマン生活とフリーを経て、のんびり隠居生活を開始した。ニューヨークを本拠にしながらも、冬は暖かい香港、夏は涼しい欧州で過ごす渡り鳥の生活をしている。

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