思いがけずお花見
今回のテーマ:桜
by 茂山薫子
ニューヨークにも桜の名所は沢山ある。セントラルパークにもチェリーヒルなど桜の咲くエリアがいくつもあるし、ブルックリン植物園やルーズベルト島など「ソメイヨシノ」だけでなく「オカメザクラ」や「カンザン」など数種類の桜を楽しめる場所がいくつもあり、桜の開花を知らせるニュースは3月末ぐらいからチラホラ目にするようになる。ワシントンの桜も有名なので、ニューヨークに住む日本人の中にはワシントンまでお花見に行く人もいるらしい。ただ、日本にいる時からお花見に行く習慣があまりなかった私には少し縁遠い気がしていた。東京では街を歩いていると家の近くの公園や川沿いなど身近なところにソメイヨシノが咲いていたので、お出かけのついでに目にすると春を感じたものだ。
そんな私を思いがけずお花見にいざなってくれた場所がある。ニューヨークの街中のレストランだ。フラットアイアンにあるそのお店はミシュラン1つ星の懐石料理のシェフが手がけるレストランで、アートギャラリーで展示を見ながら食事を楽しむ、というコンセプトのお店だ。名前もその名の通り、「THE GALLERY」。アートに親しみ深いニューヨークの街らしい。
4月も半ば、友人とのランチでレストランを訪れた私は「おや?」と思った。以前店に来た時と様子が違うのだ。毎月レストラン内の展示が変わるのでそれはそうなのだが、雰囲気が少し違うのだ。この日は京都の老舗「祇園 ない藤」の展示を行っていて、洗練されたデザインの下駄や草履、それらをはいたモデルさんたちのスタイリッシュなパネル写真や下駄をモチーフにした展示などが席を囲む。それに加えて、店内に溢れる花、花、花。桜の枝ぶりを生かしたフラワーアレンジメントがお店のあちこちに飾られていた。
シェフの方曰く、ちょうどこの3日間はとある企業さんのイベントが重なったためにフラワーアレンジメントを特別に飾っているそう。このお花はポピーかな?アネモネかな?模様が珍しいけど赤いのはチューリップ?真ん中の大きいお花は芍薬かしら、なんて、お花の知識も浅いのについ口に出しながら眺めてしまう。桜は花びらがふわふわと広がる八重桜。丸いぼんぼりみたいな形がなんとも愛らしい。気持ちが浮き立ち、銀鱈のハンバーガーとソフトシェルクラブのハンバーガーという、つい冒険的なメニューを注文してしまう私たちだった。満開の桜に囲まれ、久しぶりのガールズトークにも花が咲く。
そして極め付けはデザート。サクサクの香り高い最中からはみ出す桜のアイスクリーム。こしあんのクリームと一緒にいただく味は優しい甘さで、こんな日本的な味がニューヨークの街中でいただけるなんて、と感動すら覚える。シェフの計らいで添えていただいた酒粕カヌレはピリリとアルコールの風味が効いた大人の味で口の中を引き締めるし、桜のマカロンはお味もさることながら濃いピンクの桜のクリームと薄いピンクのマカロンの生地、ころんとしたフォルムがいつまででも見ていられる可愛さ。と言いつつ、あっという間に平らげてしまった。
スタイリッシュで落ち着いた雰囲気のギャラリーでいただく、繊細な日本の味。束の間の非日常を楽しんで、午後の仕事に戻る私の足は軽かった。
プロフィール:
茂山薫子 東京暮らし33年。それなりに学校に行きそれなりに社会人をしてそれなりに幸せだったけど、幼少期からの夢があきらめきれず急に渡米。自分も周りもまだ驚きが冷めやらぬ中、日々ニューヨークの楽しさと厳しさを噛み締めながらマンハッタンの片隅で生息中。