見出し画像

オンガクロース

今回のテーマ:クリスマス

by 河野 洋

アメリカでは感謝祭が終わると一気にホリデーシーズンが始まり、街のイルミネーションは華やかに、観光スポットのロックフェラーセンターやブライアントパーク、あらゆる場所にクリスマスツリーが顔を並べる。しかし日本に生まれ育った私には、30年近くアメリカに住んでいてもクリスマスやホリデーシーズンというのはピンと来ない。

中でも近年、違和感すら覚えてしまうのがサンタコンである。1994年にサンフランシスコに始まり、98年にニューヨークへやってきたというお祭りだが、遠目に見れば赤と白のサンタの衣装に身を纏った大衆は華やかに見えるが、これは飲み会の口実のようなもので、バーの前でワイワイ騒ぎ行く手をさえぎるサンタや地下鉄で嘔吐する醜いサンタまで、プレゼントを心待ちにしている子供たちの夢を壊しかねないサンタクロースは頂けない。


私にとってクリスマス・シーズンを特別なものにしてくれるものは、奇しくも12月8日に他界したジョンレノンの「Happy Xmas (War Is Over)」という名曲だ。私は小学校6年生の時、ジョンが亡くなる前年8月13日に軽井沢の万平ホテルの前でジョンとヨーコと対面した。(ジョンとの出会いは以前にも書いたのでこちらをご覧いただきたい)

ジョンの名曲「ハッピークリスマス」が発表されたのは今から50年前の1971年。愛と平和を訴え続けたジョン・レノンが、戦争のない世界を呼びかけた同曲は今も私の心に響き続けている。そのジョンがファンの銃弾に倒れたことは運命の悪戯としか言いようがない。ジョンはこの世を去ったが、彼は音楽に魂を宿し、メッセージを残し、今もなお多くの人々の心の中に生き続けている。

そんな彼の志を引き継いで私は、2008年に世界エイズデーである12月1日にチャリティソング「All I Want For A Christmas Day」というシングル盤を自社レーベルからリリースした。これはシンガーソングライターTANGAのオリジナル曲で、彼の日本語の歌詞に私が英詞をつけたものだ。録音にはブラジル人、日本人のミュージシャンが参加し、プロデューサーはスコットランド人という国際色豊かな面々によるクリスマスソングとなり、ジョンが唱えた世界平和へ願いが少なからず現れている。余談だが、この曲には、もう1つ思い出深いことがある。それは、このジャケットに写っている小さな女の子が私の娘だということ。娘はすっかり大きくなり、現在は大学生だが、私の仕事を手伝ってくれる貴重な右腕となりつつある。

日本では師走、12月は忘年会シーズンだが、ニューヨークでもホリデーパーティーがあちらこちらで開催される。そして私は、ほぼ毎年どこかのパーティーで音楽アーティストを手配する仕事をする。一年の労をねぎらい、楽しく歓談する光景は微笑ましい。そんな場所で自分が大好きな音楽を通して、アーティストを派遣し、参加者の心を和ませることができるのはこの上ない幸せだ。そう考えると私にとってのクリスマスは、サンタクロースというより、オンガクロースなのかもしれない。ジョンレノン が歌ったように、何の恐れもない新年が迎えらえることを願うばかりだ。ハッピークリスマス。

2021年12月18日

画像1

[プロフィール]
河野洋、名古屋市出身、'92年にNYへ移住、'03年「Mar Creation」設立、'12年「New York Japan CineFest」'21年に「Chicago Japan Film Collective」という日本映画祭を設立。米国日系新聞などでエッセー、音楽、映画記事を執筆。現在はアートコラボで詩も手がける。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?