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パーティーに見るアメリカ

今回のテーマ:ホームパーティー

by 河野 洋

アメリカには、ピクニック、ホーム、BBQ、クリスマス、誕生日、結婚、レセプションなど本当に多種多様のパーティーがある。しかし、そもそもパーティーなんてものは、その昔、日本人には馴染みはなかったはずだし、僕だって子供の頃から外食することすら珍しいと言う環境に育ったので、パーティーなどという習慣というか行事を私はアメリカに来るまで知らなかった。

初めてパーティーを体験したのは1989年5月、米国横断一人旅の最初の訪問都市サンフランシスコだった。何もかもが新鮮で毎日が驚きと発見の衝撃の連続と言う頃だった。ある日、とある公園のベンチでギターを弾いていたら、通りすがり若者に話しかけられる。拙い英語でやりとりしていたら、これからパーティーがあるから一緒にいかないか?と言う。「初めて会った何処の誰かも分からない僕を家に招待するの!?」思いも寄らない展開にドギマギしたものの、旅の恥は掻き捨てと思い、のこのことついて行った。今考えると怖いもの知らずというか、図々しかったなと思うが、兎にも角にも米国のパーティーを初めて体験することができた。一番びっくりしたことは着席もせず立ちっぱなしだということだったろうか。日本では立って食べることすら行儀が悪い、食べながら話をしてはダメ、と親に注意されていたのにアメリカ人はワイルドだと感心した覚えがある。

その3年後、ニューヨークに移住するわけだが、以来、数え切れないほどのパーティーを経験した。最初の10年以上はニューヨーク郊外に住んでいたので、大人だけのものもあったが、大体は老若男女が参加できるファミリータイプのものが多かった。どのパーティーも飲み放題、食べ放題という大盤振る舞いのものばかり。ここでもアメリカ人はサービス精神旺盛だと感心したものだ。

しかし、日本人であるが故か、はたまた性格か、もちろん英語力がないこともあったが、最初のうちはアメリカ人が集まる中で、到底、会話を楽しむなんてことはできなかった。故に人間観察を楽しむように務めたが、やはり無口でいると人の目も気になるし、居心地が非常に悪い。だから少しずつだが、英語に自信がないから、おっとりとした感じの人を見つけて話しかけたり、1箇所にいると目立つので、食べ物や飲み物を取りに行く回数を増やして人の目を避けてた記憶がある。今、思うと笑ってしまう行為だった。でも、その時は自分の英語がへなちょこな上、度胸もないから、かなりパーティーを乗り切るのに必死だった。

黙っていても話しかけてくる人もいるし、話しかけても会話が続かず、離れていってしまうケースもある。だから他の人がどう思うかなんて気にせず、その場の雰囲気を楽しめば良いのだ。そして、いつからか人の目が全く気にならなくなり、優雅に客観的に遠目から傍観したり、食事を楽しんだり、時に人とも大いに話し、様々な角度からパーティーを楽しめるようになっていった。

しかし、どうしてアメリカではパーティーが盛んなのだろう?自分なりに考えてみると、それは、様々なバックグラウンドを持つ人たちが集まる社会然としたパーティーという小さなコミュニティの中で、同じ飲み物や食べ物を分かち合いながら、相手の話に耳を傾け、自分の居場所を見つけ、自己主張(相手に伝える)をする大切さを学び、社交能力や社会性を養う場を子供の頃から体験させる人間形成の訓練場として役立っている気がする。そこには身分も地位も年齢の差もない。

普段の生活でもアメリカ人は知らない人に気軽に話しかける。子供の頃からパーティを体験(訓練)しているから、誰にでもフレンドリーに話しかけることができるのかもしれない。また、日本だと目上の人に話しかける時、敬称をつけるが、アメリカでは子供でも相手が仮に大会社の社長さんであってもファーストネーム(下の名前)で呼びかける。そんな子供から大人までを一人の人間として対等に話ができる場を提供するのがパーティー。だからパーティーのホストは、ゲストが何も気にせずその空間やひと時を楽しんでもらえるように、飲み物から食べ物までたっぷりと用意して振る舞うのに違いない。それにしても、パーティー慣れしているニューヨーカーは、それほど大きくない小さな個人アパートに入れないくらいの友人や家族を招待してパーティーをしてしまうから凄い。おもてなしを重んじ、細かいことを気にしてしまう我々日本人はパーティー向きではないなと思う。

2021年9月26日

[プロフィール]
河野洋、名古屋市出身、'92年にNYへ移住、'03年「Mar Creation」設立、'12年「New York Japan CineFest」'21年に「Chicago Japan Film Collective」という日本映画祭を設立。米国日系新聞などでエッセー、音楽、映画記事を執筆。現在はアートコラボで詩も手がける。

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