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アパートまで我慢できないっ!

今回のテーマ:私の一押しニューヨーク

by  らうす・こんぶ

東京ではできないけどニューヨークではできたこと。いや、東京でもやろうと思えばできるかもしれないけど、やってる人を見たことがないのが歩きながらコーヒーを飲むとか、歩きながらバナナを食べるとかいうこと。

ニューヨークに住み始めたばかりの頃は、手にコーヒーカップを持って歩いている人を見かけただけで驚いていた。地下鉄の車内でスーツを着た紳士がアタッシュケースからバナナを取り出して食べ始めた時は、映画の撮影でもやっているのかと思った。東京ではそんな光景を見たことがなかった。公園や遊園地ならあるけれど、通りでは見かけない。お行儀が悪いということなのだろう。

でも、20年もニューヨークに住んでいれば、次第にそんな光景も当たり前になってくる。私もいつしか、マンハッタンを歩きながらバナナやチップスを食べるようになった。仕事のスケジュールが立て込んでいて食事をする時間がない時は、ストリートベンダーでバナナやポテトチップスを一袋買って、歩きながら食べる。

そこここにゴミ箱があるので、こっちの角でバナナを買って、1ブロック歩く間に食べ終わって、次の信号の角にあるゴミ箱でバナナの皮を捨てる。でも、バナナやチップスの歩き食べは必要に迫られてやっていただけだった。

さて、私がいちばん好きだった歩き食べ。私はニューヨークのクイーンズに住んでいた。アパートからお散歩がてら20分も行けばジャクソンハイツで、そこは通称インド人街。きれいなサリーを纏った人やターバンを巻いた人も見かけるようなところで、もちろん、インディアンレストランもたくさんある。

その中にインド料理のお惣菜を売る店があって、揚げたてのサモサが売られていた。私はたまにお天気のいい日にジャクソンハイツまで歩いて行って、中身がカレー味のコロッケみたいなサモサとスパイシーな野菜の天ぷらみたいなもの、そして野菜の春巻きみたいなものを買ってきた。ビールにとってもよく合う。しかも、それだけ買ってもたった3ドル!ただ、さすがに帰国の1年前くらいにはサモサはひとつ1ドル50セントに値上がりしたけど、それでも安い。

揚げたてのサモサは本当においしかった。アパートに戻るまで待ち切れなくて、私はときどき熱々のサモサをかじりながら家に向かって歩いた。お天気のいい日は人通りの少ない道をお行儀悪くサモサをかじりながら歩くのは気分がよかった。ビールを飲みながらサモサを食べたいところだが、それは無理。揚げたてのサモサを頬張る楽しさと、家に戻ってからサモサを食べながらビールを飲む贅沢と、いつもそのふたつの選択肢で迷うのだった。

ということで、私のニューヨークのいち押し歩き食べはこれ。

天気のいい日にジャクソンハイツで揚げたてのサモサを買って、歩きながら熱々を頬張ろう!


らうす・こんぶ/仕事は日本語を教えたり、日本語で書いたりすること。21年間のニューヨーク生活に終止符を打ち、東京在住。やっぱり日本語で話したり、書いたり、読んだり、考えたりするのがいちばん気持ちいいので、これからはもっと日本語と深く関わっていきたい。

らうす・こんぶのnote: 

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「ことば」、「農業」、「これからの生き方」をテーマとしたカジュアルに考えを交換し合うためのプラットフォームです。



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