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もういいから銃を貸せ!と言いたくなる小説、マリアビートルを読みました

こちらの記事では部分的に大まかなネタバレ、それに対する感想が綴られております。

ただ小説本編がかなり面白い為、私の感想を読んでもなお、読む価値があると思います。よろしくお願いいたします。


『マリアビートル』を読み終えた。本当に壮絶で最悪でラスト150ページは、もうやめましょうよこんなこと、の気持ちでいっぱいだった。

伊坂幸太郎の描く殺す殺さない生かす死なさない等から始まる様々な暴力表現は、淡々と画かれる。そこに感情などなくて、事実を述べるように殺しのシーンが始まる。

前作、『グラスホッパー』もそうだったけれど、その表現が本当に上手いと感じる。人の死を美化させない言葉選び、殺し屋にとっての日常を私たちに理解させる画き方。

今のところ、死って儚くて、死んじゃった人のことを考える時間って感動的だよね、みたいな表現をする物語が私はあまり好きではないため、伊坂幸太郎の書く戦闘シーンとその後の表現がかなり好きだ。

後半にて唐突にバンバンメインキャラクターが死んでいくから、その辺で気持ちはがっつり落ち込んだ。殺し屋小説だと分かって読んでるのに、やっぱり400ページも彼らと向き合っていると情のひとつも湧く。

そして最後にくじ引きで3等を当てる七尾。そのシーンで救われた。檸檬と蜜柑に情を注いじゃった読者へ救いのある展開をありがとう。

前作で鈴木が生き残ったのは本当に個人的に不服で、ほぼみんな死んでるのに?!?!お前何もやってないだろ!!とキレながら読み終わったことを思い出した。

そして今作では天道虫。天道虫の活躍はカッコイ〜と終始盛り上がっていたのだけれど、蜜柑の首をへし折った点は個人的に許せず、しかしこの許せない!の感情の矛先を向けるのが天道虫で良いのか否かも分からない。

直前に檸檬がやられただけに、檸檬が復讐に燃える描写を期待したのだけど呆気なく天道虫に首を折られて私の心も折れた。ソファから転がり落ちて脱力し、一緒に落ちては閉じた小説と、取り残されたままのしおりを見ては、大きなため息が出た。

外見が似たもの同士で数年バディを組んでいたこの果物2人だったけれど、語られた檸檬の過去、そしてお互いにお互いを理解し合おうとしていた信頼関係。

これが全て含めても10行程度で語られてる。相当凄いことだと思う。多くを語らず、ただその表現に多くの読者は心を乱され頭を掻きむしった事だろう。

『グラスホッパー』にて、蝉がアサリの砂抜きを眺めていた描写を思い出す。あれも一瞬だったけれど、勢いで生きているような彼が、ぷくぷくと砂を吐くアサリを眺める繊細な描写にかなりときめいた。

そして最後に語るべきはやっぱり王子。木村が撃たれるまでは、頭のいい美形中学生、ふーん、悪くないな。と
、思ってみていたけれど檸檬を殺したシーンから耐えられず、こんな事になったなら私が王子にやり返す!!銃を貸せ!!と思ってしまうくらい情緒がかき乱された。

そして彼の悪巧みに気が付かない天道虫にうんざりしながら、木村茂とのやり取りを眺め、東北新幹線に乗り込んでくると思っていた槿はしっかり押し屋としての仕事を全うし、物語は幕を閉じた。

私は子供だから許される、というエンタメが大嫌いなので、中学生サイコパス王子は良い意味で本当に心に刺さったし、王子視点でたっぷりと、あざとくしてたらバレないし、頭いいからボロは出ないよ♡と舐めプしてる様子を見させてもらって最高に気分を害し、この小説ホントに面白いぞと強く感じた。

本気の嫌悪感を抱かせるキャラクターを画ききってくれて清々しいし、最後に木村茂の手によってどのような形勢逆転が起こったのか、それがAXで語られるのか、続編に対する期待も高まる終わり方で、かなり楽しかった。

もしこれから『マリアビートル』を読む方がいたら、胸が痛い!と思うところで読むのを辞めると本当にしんどくなるため、胸が痛いと思ったところからもう少し先まで読み進めることをおすすめする。

そうすることで次のトラブルが発生し、1人の死から1度気持ちを切り替えることが出来る。感情移入せずに読めれば最高のエンタメだけれど、気持ちを持っていかれると地獄と化す可能性がある。

現在ハリウッド映画化し日本に上陸したばかりで何かと話題の作品だけれど、映画ならではのアレンジに伊坂幸太郎も満足しているようで期待が高まっている。私も早く見に行きたい!

危ない橋を渡りたい、とにかく人生にスリルが足りない、小説とはいえスピード感が欲しい、バディが連携する物語が好き、生意気でサイコパスな子供が好き、アル中が好き、東北新幹線、「はやて」が好き、そんな方にオススメの小説。『マリアビートル』の感想でした。


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