カツ丼

病院につくと
泣き崩れた母と
下を向く父がいた。

母は会ってきなさいと、
父はショックを受けるから見なくていいと。

私は母と共に兄の元に行った。

冷たく、もともと白い肌はより白く

本当に寝ているようだった。

母と共に洗髪、死後の処置を行った。

待合室にいると警察が来て
私たちのメールを全部確認され
写真を撮られた。
どうやら事件性がないか
殺人を疑われているらしい。

そこからは兄の友人、親戚、葬儀社
全てに連絡した。

葬儀社が来たのは
深夜3時を過ぎていただろうか。
棺はどうするか
花はどうするか
葬式の時の音楽はどうするか
弔辞は誰にお願いするか
今思えば、まるで結婚式のようだ。

両親は一番いい棺を、
兄の好きだった百合で
いっぱいにしたいと言った。
燃やしてしまえばなんの価値ない。
生前になぜ好きなようにさせなかったのか、
そんなことを問うたら残酷だろう。

これも悲嘆の過程だと、何も言わず両親の好きなようにさせた。

その日は、
そのまま葬儀場で遺体と共に眠りについた。

翌日、遠方から親戚、友人が来て
一通り挨拶を済ませ
わたしは丸1日何も口にしていなかったことに気がついた。

葬儀場は出前が取れる。
カツ丼を頼んだ。

食べた瞬間、涙が溢れた。
わたしはここで初めて泣いた。
緊張の糸が切れてしまったのだろうか、
泣きながら食べたあの味は今でも覚えている。

泣きながらご飯を食べたことがある人に
悪い人はいない。

昔、誰かに聞いた言葉が
初めて意味を持った。

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