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40代から変わる人生「記憶の道具」34

「世間師」とロナルド・バート

 先月、NHKの100分de名著で、民俗学者の宮本常一「忘れられた日本人」が取り上げられていました。常一が見出した日本の村々にある共同体の姿は、私が持っていた固定的で閉鎖的なイメージとは違って、外部の知をダイナミックに取り込み、変貌していく動的なものでした。これ、かなりの驚きです。
 その外部の知をもたらす人を彼は「世間師」と呼びました。旅をして世間を渡り歩いてきた人たち。地域によっては、他の地域に行って生活してくることを成人儀礼として取り入れているところもあったようです。そこには、地域が生き延びるための知恵があるような気がします。

 この話を聞いて、ロナルド・バート((Ronald Stuart Burt)を思い出しました。シカゴ大学の社会学・経営戦略論の教授です。彼の提唱した重要な概念に「構造的空隙」というのがあります。「社会的ネットワークにおいて関係の不在を指す概念」と説明されることが多いのですが、これ難しいですよね。
 簡単に説明するとこうです。AとBという2つのグループがあるとしましょう。それぞれのグループ内には密な人間関係があるのですが、AとBの間の関係性は薄い。この薄い部分を「構造的空隙」と呼んだのです。要するに弱い繋がりということです。

https://www.osamuhasegawa.com/構造的空隙/

 構造的空隙にいる人は、両方のグループから独自の情報を得ることができるので、情報優位になります。常一の「世間師」のように情報の橋渡し役となり共同体の発展やイノベーションを促進する役割を果たすことができるわけですね。
 バートは、構造的空隙にいる人には、いろいろな人との関係構築とその維持のために時間と労力が必要で、ときに両方からつまはじきにされてコウモリのように孤立するリスクがあると指摘する一方で、異なるグループ間の橋渡し役となり、新たな人脈やビジネスチャンスを獲得し、ソーシャルキャピタルを築き上げるメリットがあると指摘しています。イノベーティブな人生を歩みたければ、集団にどっぷりつかっているより、構造的空隙を狙ってネットワーキングせよ! ということですね。
 そういえば、幕末の志士たちは脱藩していました。新一万円札の顔になった渋沢栄一は、西洋と日本の構造的空隙にいたとみることもできますよね。
 バートがアメリカのビジネスクールの先生らしいのは、この構造的空隙にいる人の方が収入が高いとデータを示しているところです。
 この機会に、あなたにとって役立つ構造的空隙がどこにあるのか、考えてみてはいかがでしょう?

 以前お話しした末広がりのキャリアを生きている人たちも、こういうタイプの人が多いような気がします。


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