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独裁者のパラドックス:社会の《大きさ》と《不安定さ》が小さいと社会性の高さが重要視され、大きいと独裁者が生まれる

注意

※この記事はなんの専門家でもない、生物学、特に進化学が大好きな一般人が書いています。
※科学的に正確な記述を心がけていますが、作者の無知・勘違い等で間違いが含まれる可能性も大いにあります。

テーマ

人間の社会では一般的に《社会性が高い》ことが重要である。
社会性が高いと他者に好かれやすく、他者の助力が得られやすく、社会的地位が上昇しやすく、個人の生活が安定し繁殖に有利になり幸福度が上がる。
《社会性が高い》とは、私の考えでは《適切な利他的行動を効率よく行える》ということと同義である。また、利他的行動の範囲、つまり個体が利益を与える集団の大きさも重要だと考える。集団内では所属メンバーの社会性の高さを厳しくチェックし、社会性が上がるようにする圧力が存在する。それが結果的に集団内の所属メンバー個人全体の利益を大きくするからである。

しかし、社会における大規模集団のリーダーには《独裁者タイプ》が多いように思われる。
独裁者は自己中心的であり、所属集団に利益を与えるよりも利益を毀損する《フリーライダー》的性格を持っているように見えるのに、なぜか所属集団のメンバーは独裁者をリーダーとしてその指示に従っているようである。
なぜこのようなことが起こるのだろうか?

考察

上記のパラドックスのポイントは社会集団の《大きさ》と《不安定さ》ではないかと思う。

『ダンバー数』という概念が示すように、ヒト個体が所属できる社会集団のメンバー数には上限があると言われている。

これはヒトが大脳皮質で認知しておける個体数には限りがあるという話であり、所属集団のメンバー数が多すぎると相手との互恵的相互作用が難しくなる。つまり本来、相手がただ自分と同じ集団に属するというだけでは親切にする動機が生まれにくく、相手に対してなんらかのエピソード(あの人はよく知っている等)を持っていないと親切にしあう関係になりにくいということである。
しかし、ユヴァル・ノア・ハラリが『サピエンス全史』で提起したように、ヒトは《虚構》の力でこの問題をのりこえ、より大きな互恵的社会集団の形成に成功してきたのである。

※このことについて《前頭極》の進化に焦点をあてたSF小説を書いているので、読んでいただけると嬉しいです。

ダンバー数よりも小さな集団であれば《社会性の高さ》が個人の資質として重要視される。しかしそれ以上の集団を形成する場合は《虚構》の力―神話、宗教、英雄譚など―が必要となる。このような虚構の世界においては、その虚構を象徴する存在として自己中心的な資質が求められるのではないだろうか?
自己中心的な人は自信満々で断定的に話すという特徴がある。客観的な認知が苦手なので自分の思考が世界で唯一であり、それが間違っているかもしれないという可能性は考えないためである。
このような特徴は他者から見ると自分よりも物事を理解しているから自信があって断定的なのだと判断されやすい。
個人がある大きな集団に所属していて、その集団内のメンバーの全員についてはよく知らない場合、自己中心的な人が自信満々で断定的に自分の虚構の世界観を語り、所属メンバーがその虚構を信じることで社会集団がまとまる、という現象がこれまでの歴史上で見られてきたのではないだろうか?

また、集団の《不安定さ》も独裁者を生み出す要素として重要だと思われる。
私の考えでは、ある集団がどれだけ個人の生活に根ざしているかでその集団の《安定性》がはかられる。
親族や地域社会(ご近所さん)や自分が働く会社は個人にとって安定性の高い所属集団である。なぜならそれらは個人の生活に直結し、個人が生きるのに直接的に寄与しているからである。
このような集団内では独裁者の出る幕は無い。逆に自己中心的な人は徹底的に嫌われるだろう。なぜなら、このような生活に根ざした集団には虚構の力が必要ないからだ。
スケールが小さく生活に根ざした集団では、所属メンバーはお互いの互恵的行動における損得勘定がわかりやすいので、より社会性の高い人が得をするように圧力が働く。だから独裁者は必要とされないし、排除される方向に動くだろう。

しかし、社会が不安定になり、所属する集団で何をすれば集団の利益を高められるのかが個人にとってわかりにくい場合は、集団が大きい場合と同じ理由で独裁者が生み出す虚構の世界観が求められるのではないだろうか?

結論

まとめると(タイトルに書いてるけど)、ハラリが言うような虚構の力でダンバー数を超えた大きさの集団を作りだすことでヒトはこの世界を生き残ってきたが、そのような大きな集団を維持するのに必要な虚構の力は自己中心的な独裁者が集団を支配することを有利にする。
反対にヒトの実際の生活に必要な小集団では社会性の高さが重要視される。そのような小集団内では自己中心的な独裁者は所属メンバーの利益を損なうため、独裁者を排除するような圧力が存在する。
このようなヒトの社会の《大きさ》と《不安定さ》によって変わる要素を『独裁者のパラドックス』と名づける。
※この最後のドヤりをしたかっただけ!

タイトル画像:"Abstract painting of a cat in a flock of pigeons" by Stable Diffusion Online

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