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鉱物スノードームのひみつ

明後日からいよいよ年に一度の個展(中野・ギャラリーリトルハイにて)が始まります。

…というこんな朝にのんびり記事を書いていていいのかという気もしますが、むしろこの時期は頭の中身を整理するつもりで文章にした方が楽なのです。寝不足で文章がおかしいかもしれませんが、よろしければお付き合いください。

今回の個展では多数の鉱物スノードームを展示することにしました。

これは私が独自に開発して制作したオリジナルスノードームなのですが、これを販売までこぎつけるのは本当に長い年月と大変な努力が必要でした。

もともと私の製作活動が鉱物ブログ発祥であることは最初の記事でお話ししましたが、この鉱物ブログで鉱物標本単体ではなく、鉱物を使った制作物を作ったのは実はジオラマではなくスノードームが最初です。

もともと私は閉じられた世界が好きです。

特に、ガラスの中に閉じ込められているがゆえに空想の広がりを見せるスノードームは、音もなく雪の舞う景色の多様さと、そのシンプルな美しさが限定された文字数で表現される短歌の世界のように感じられて、幼いころからとても好きでした。

お土産物として比較的買い求めやすい価格で売られていることもあり、あちこち旅行に行くたびに買い集めており、結婚するころには結構な量になっていたのですが、残念ながらほとんどのコレクションは3.11東日本大震災で失われてしまいました。

当時は転勤族で茨城県にいたのですが、自宅の周りにひどい被害が出て、津波に流された方々もいたりしたのでスノードームのコレクションが失われてしまったことは残念でしたが喪失感に浸るまでの余裕はなく、数年が過ぎました。

千葉の今の自宅に転居し、鉱物ブログを始めてしばらくたったころ、実家から引き取った婚前の荷物の中に、初めての海外旅行、大学卒業記念のロンドン旅行で買い求めた古いスノードームを見つけました。

それはセントポール寺院とロンドン塔のおみやげもので、古びて、水は減り、濁って、いかにも打ち捨てられたおもちゃの様相を帯びていましたが、私にはむしろその姿が、時を経た美しさに感じられたのでした。

再燃したスノードームへの憧憬を胸にいくつかのお店で行われていたスノードームワークショップを体験し、徐々に私は趣味の鉱物スノードーム作りにのめり込んでゆきました。

ワークショップでは組み立て方や水の入れ方等は教えてはくれるのですが、そこから先は完全な独学と実験の世界です。なにしろ一からスノードーム作りを本格的にやっているプロの方が存在しないのですから自分で試行錯誤してみるしかありません。

膨大な量の失敗を重ね、その制作過程や完成作品を逐一ブログに掲載しました。その記事を読んでくださった方がぜひ展示をしてほしいと呼びかけてくださって、イベントに出展するに至りました。

できればそのままスノードーム作家になっていたかった、と今でも思うことがあります。

が、それがかなわぬ夢だったのには理由があります。

スノードームは、基本的に経年劣化してしまう保存性に優れないおもちゃだということ。

また、どんなに清潔な環境で気を付けて封入しても、一般家庭の環境で作っている限り水の腐敗が避けられないということ。

この二点において克服はほぼ不可能で、またコストがかかりすぎることもあり、店舗常設型の販売にはむかなくて、私はイベントでの鉱物スノードーム販売を一時休止し、同時進行していた鉱物ジオラマへ力を入れることを決意しました。

プロのスノードーム作家が存在しないのにはちゃんと理由があったのですね。

つまり「安定した品質で制作し、継続した販売で利益を上げることができない」ということ。

ですが、私はどうしてもここであきらめることができませんでした。

鉱物ジオラマである程度資金を得て、どうにか、何年かかってもまた、鉱物スノードームを作りたい。自分の原点を忘れないでいたい。

そんな気持ちから、7年越しで完成したのが今回の個展にもお持ちする水封入型の鉱物スノードームです。

まず、経年劣化と腐敗を少しでも減らすため、自家での封入を一切取りやめて、滅菌室での注水を行ってくれる工場を探すところから始めました。

色々と打診しても、鉱物の形状が一定でないがために固定が難しく、また作品として一つ一つ違うものを作るのにはコストがかかりすぎたため断られ続けて、私のスノードームの先生ともいえるクールラッシュの伊達さんのご紹介でなんとか引き受けてくれる工場を見つけました。

スノードームの生産は基本的に海外でしか行われていないため、輸送コストや生産ロスが大量に出ることがわかりましたが、それを抑えてでも販売できるよう、ロットを大きくとって、そのために必要な「大体同じくらいのサイズの、同じランクの水晶を300個集める」ところから始めました。

それに土台を作ってフィギュアを配置し、さらにそれを特殊加工して水に強くし、工場と往復のやりとりをしながら作品を仕上げます。

さまざまな苦労をしてやっと作り上げた鉱物スノードーム…なのですが、なんと、300のロットのうち半数にエラーが出てしまい、実際の販売に耐えるものは150余りに。

こうなると価格をあげなければならなくなりますが、ものは経年劣化必至のアイテムであるだけにご理解のある環境でしか販売ができません。

価格が上がった分、専用箱と作品証明書をつけ、アートピースとして販売することにしましたが、以上の理由から常設店舗への納品はほぼ不可能なので、現在もイベントや個展でのみの販売となっています。

さらに、実はこの後も鉱物の種類をいくつか加えて継続して制作していく予定だったのですが、なんと海外の工場が閉鎖され、一からまたいろいろ手配をして企画せねばならなくなり、今手持ちのスノードームが尽きたら次のご準備は今はありません。

そんな状況ではあるのですが、完全なハンドメイドの作品から7年かかっても実現した経験から、今後もまだまだあきらめず時間をかけてじっくり、また挑戦していきたいと思っている次第です。

新型コロナウィルスの関連で、海外の工場とのやり取りが難しい昨今ではありますが、粛々と普段の制作を続けることでまたいつか第二弾のスノードームを作れるよう、これからも頑張ってゆきたいと考えています。

今回の個展では新作の額やジオラマのほか、売り切れるはずもない数のスノードームを一挙にありったけ展示しますので、もしご興味をお持ちになってくださったかたは、どうぞお気軽にお越しください。

私もまたいつか、思うままのスノードームを思いっきりつくる夢を抱えて、また今できることの精一杯をご準備して、皆様のお越しをお待ちしております!

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9月は中野と相模原の2箇所で展示販売会を行っています。
ぜひお立ち寄りください!

頂いたサポートはすべて、確実に作品制作に充てさせていただきます。 (作品展示のご高覧、ご声援だけでも十分ですのでご無理なく!)