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よく混ぜてお召し上がりにならない

「よく混ぜてお召し上がりください。」と、レストランで店員さんによく言われる。
先日はじゃがいもの冷製スープ、ヴィシソワーズの上にかかったジュレについてこう言われた。

数えたことはないが、けっこうな頻度でこう言われる気がする。
しかし、私はほとんどの場合、よく混ぜてお召し上がりにならない。分離したそれを、そのまま食べるか、数回ざっくりと混ぜる程度だ。必ず混ざっているところと、混ざっていないところの境界線を残すようにしている。

よく混ぜなくなったきっかけは、コーヒーフレッシュだった。
知り合いにコーヒーを出したとき、添えて出したコーヒーフレッシュを垂らしたものの、スプーンで混ぜずに飲んでいた。
「混ぜないんですね?」と尋ねると「この方が味の濃淡がついて美味しく感じるんですよ」とのことだった。

それから、なんとなく混ぜないで飲んだり食べたりするクセがついた。
やってみるとなかなか面白いもので、確かに味の濃淡がつく。

例えば、自由が丘に化粧品のSHIROが展開しているカフェがある。ここの「酒かすいちご×ソイヨーグルト」というスムージーがお気に入りでよく飲んでいるのだが、マーブル上のいちごソースの上に豆乳ヨーグルトが乗せられて、2層になっている。
ここでも店員さんから例のセリフを言われるのだが、やはり混ぜない。最初に上部の豆乳ヨーグルトの部分をストローで飲んで、そのあとにいちごソースの部分を飲む。
全て混ぜてしまうと、1つの味しか楽しめないが、混ぜないで口に運べば様々な味のグラデーションが楽しめる。

ある意味、貧乏性なのかもしれない。

自分の食べ方が変わっているんだろうな思っていたが、料理家の土井善晴先生と東工大の教授の中島岳志氏の対談にて、こんなくだりを目にした。

土井 (中略)それから、和食では混ぜるではなく「和える」といいます。素材を混ぜず、それぞれの存在感を尊重する。西洋には、ケーキのように液体と粉を混ぜあわせて、まったく別のものをつくりだす食文化があります。これは科学的とも呼べるかもしれませんが、和食の場合は違います。

中島 土井さんは料理番組でよく「あんまり混ぜんほうがいい」とおっしゃいますね。味にムラがあることがおいしさなんだと。

土井 混ぜたら大抵のものは汚くなります。絵具を何色も混ぜたらグレーになるように。たとえばポテトサラダでも、むやみに混ぜないで、「あ、いま美しい」という瞬間で止めるのが一番おいしい。混ぜすぎると雑味になったり、浸透圧がはたらいて水が出てきて、雑菌によって味を落としたりする。和食はとくに、いつも変化する最中の「この瞬間」を食べているんです。

https://www.mishimaga.com/books/yomu-mslive/002450.html

そうだ、土井先生の言うとおり、混ぜすぎないということは"いつも変化する最中の「この瞬間」を食べる”ということなのだ。

今まで混ぜない食べ方を自分の癖なのかもしれないと思っていたが、土井先生のお墨付きをもらえたならば、こちらのものである。
これからも堂々と混ぜることはせずに、和えて食べようと思う。


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