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新任紹介/町村敬志【都市論から考えるコロナ以後の"居場所"】

 2022年4月に東経大に着任しました町村敬志です。専門は社会学・社会調査で、とくに都市・地域を対象に、さまざまなテーマについて研究を進めてきました。

 2020年初め、突然世界を襲った新型コロナ感染症の流行は、都市を研究する者に大きな課題を突き付けました。都市は異なる人びとの集まりである。この集まりこそが都市を、新しい価値や文化、富を生み出す場としている。都市研究者はこのように考えてきました。ところが新型コロナは、都市から対面の集まりを奪う結果を招いてしまったのです。都市は死んだ。一時そのようにも言われました。

ディスタンスの風景

 しかし、つながりは途切れたわけではありませんでした。リモートワークやオンライン授業、オンラインイベントなど、インターネット上に新しい集まりが姿を現しました。いや実際には、コロナ以前から人びとはSNSなどデジタル空間で多くの時間を過ごすようになっていました。いま、流行の最先端の多くはインターネットの世界で形づくられています。以前、この役割を果たしていたのは都市のストリートでした。

ショッピングモールは都市だろうか

 変化が加速する社会にあって、リアルな都市は「遅れ」はじめている。そう言えるかもしれません。他方で、デジタル空間がいくら拡大しても変わらない事実もあります。人は誰もが身体をもっています。身体はモノであるため、デジタル空間に置くことができません。そのため人は、身体の置き場所をどこかに必要としています。孤立していても分断していても、リアルな空間が人に「居場所」を提供する状況には変化がありません。

 飲食も事情は似ています。確かに情報はスマホで入手できます。「映える」料理やお菓子はSNSの主要コンテンツです。しかし、デジタル空間がいかに拡大しても、直接の飲み食いはリアルな空間でしかできません。美容やケアなども同様です。体感重視のライブイベントもこれらに加えてよいかもしれません。いずれも身体と身体、または身体とモノの接触・対面が欠かせない活動です。それゆえ、コロナはこれらに大打撃を与えました。しかしリアル空間でしか実現できない事実は、たとえ形は変わっても残り続けます。

コミックマーケット会場を埋め尽くす人(新型コロナ前)


 都市はいま、単純に役割を縮小させているのでなく、リアルとデジタルを連接させながら新しい変化の段階に足を踏み入れつつあります。都市とは、私たちの「生」を豊かにしてくれる道具箱のようなものです。道具の種類や使い勝手は変化していくかもしれません。不足しているものは自分で作り、また新しい道具には慣れることが求められます。しかし大切なことは、私たち自身がそれらをいかに使いこなしていくか、にあります。

 大学では、演習のほか、「現代社会学」、社会調査関係の科目を担当しています。演習では、毎年テーマを決め、実際に街にでかけてフィールド調査を行い、研究の成果をゼミ論にまとめ、報告書を作成するプロジェクト型の運営をめざしたいと考えています。それらを通じ、1人ひとりが卒業後も、各々の現場で新しい課題に取り組み、その成果をもとに社会とのコミュニケーションを深められるような知の器を作り上げることをめざします。

手始めに、ゼミで国分寺を歩く

 都市には見たくない現実も存在しています。貧困や孤立、格差や差別もまた、都市の現実です。見るつもりはなくとも自然と目に入ってくるのが都市という場の特徴です。ゲームと違いリセットできない現実に直面することを、私たちは求められます。簡単な解決手段は見つかりません。しかし都市には、誰もが居場所を見つけられるぎりぎりの可能性が備わっています。そんな根拠ある楽観主義を忘れないことの大切さを、皆さんと共有していければと願っています。

(町村敬志)





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