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京都府京都地下都市迷宮通下ル

 ラットハンターは手にした10ゲージポンプアクションショットガンを下ろすと、体長1.8メートルのネズミを蹴った。
 ガスマスクが汚れて狭まった視界をごしごしと拭く。ネズミは4匹目でおしまいのようだった。
 ラットハンターは鉈を取り出し、分厚い刃でまだ散弾で爆ぜていないネズミの頭をぶち割ってその中を探った。分厚い手袋をはめた手が、やがて銀色をした固まりを見つける。小さい――ラットハンターはマスク越しにくぐもった舌打ちをした。
 地下の怪物たちは頭の中に"銀"を作る。この銀はハンターの通貨であり、そして生命線だ。銀の弾丸が残り2発きりになっていることもあり、これは弾丸に直さないといけない。ネズミのような相手にはいいが、アカジタのような怪物には銅の鹿弾では効きが悪いのだ。
 ラットハンターはかつての町屋の朽ちかけた壁にもたれ、溜息を付く。小休止を取りたかった。
 足下のアスファルトを見ながらラットハンターは思う。京都がある時陥没し、その中から訳の分からないものが現れ始めたのは、ラットハンターがまだ物心つくかつかないかの頃だった。京都御所を中心点に深いクレーター状になったかつての京の街は怪物がうろつく迷宮となった。迷宮を攻略する者は、始めは国家。それから民間団体。そして、ハンターのような野良が引き継いだのだ――。
 思考のせいで、ハンターの反応が遅れた。碁盤の目になった通りの辻に己がいるのに、気を緩める失態。遠くから聞こえてきた歌が、ぐんぐんと近づいてくる。サソリと平安絵巻の牛車が混じったようなものが、子供じみた歌声と共にこちらへと駆けてきた。オンバグルマ! こんな浅い場所にいるはずがないのに!
 ハンターは慌てて不動明王真言で巻かれた銀弾を取り出す。だが、装填よりもオンバグルマの近づいてくるのが早い。牛車の中から現れたハサミが、剪! と振るわれ、ハンターのショットガンを切り飛ばした……!
【続く】

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