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読書リハビリ:ハンチバック

読書習慣を取り戻しつつあるぼくの読書リハビリ。
相変わらずスキャンした文學界のエッセイなどを中心に読書をしている。
そして自宅で働いているため通勤がなく、家で本を読むと言う習慣はなかなか作れていない。

そこで最近は出かけた時に読むようにしている。
特に娘を稽古事に送ったとき。
以前は送り届けて自宅に戻っていたのだけど、あえて自宅に戻らずにどこかで読書するのだ。

「ハンチバック」市川沙央

これは文學界2023年5月号に掲載された、文學界新人賞を受賞した作品で、
生きるために壊れていく身体を持った女性の日常と衝動の話です。

なんとなく開いたところ冒頭から引き込まれてしまい、結局最後まで読んでその後の審査員の批評も拾い読みしてしまいました。
決して読後感のいい話ではないのだけど、衝撃をなんとか和らげたいというか、気持ちを整理するためにも全部読まなくては落ち着かない作品でした。

主人公は筋疾患先天性ミオパチーにより両親が残してくれたグループホームで介助を受けながら生活している。
折々にネットライターのバイトをしつつ、通信制の大学にも通っている。
あまりにもリアルな筆跡で、結局最後まで読了させられたのでした。
医学用語と並ぶネットスラング、硬軟織り交ぜた言葉が、グループホームの一室という空間に漂っています。

私は29年前から涅槃に生きている。成長期に育ちきれない筋肉が心肺機能において正常値の酸素飽和度を維持しなくなり、地元中学の2年2組の教室の窓際で朦朧と意識を失った時からずっと。

「ハンチバック」市川沙央 文學界2023年5月号

涅槃、酸素飽和度が低くなり、意識を失う。
コロナ禍で聞かなければ、多分まだ知ることのなかった酸素飽和度。

私は紙の本を憎んでいた。目が見えること、本が持てること、ページがめくれること、読書姿勢が保てること、書店へ自由に買いに行けること、
5つの健常性を満たすことを要求する読書文化のマチズモを憎んでいた。その特権性に気づかない「本好き」たちの無知な傲慢さを憎んでいた。

「ハンチバック」市川沙央 文學界2023年5月号

読書が特権的なものであることにも気づかなかった。
失わないと気づかない自由がそこにあった、のだ。
そして電子化万歳。自炊業者を排除したのはやはり問題だ。

で、話はこの後展開していく。
平穏だった日常から漏れ出していた、衝動が他者の知るところとなり、その衝動を実現するに至る。
前半、丁寧に状況を知っているためか、急展開というわけではなく、自然とその流れを受け入れられてしまう。
何よりもその衝動について、ぼくらは知っているのかも知れない。
20数ページの作品を気付けば一気に読了していました。
これはとても良い作品に出会えたなと、文學界を継続して購入していて良かったと思うのでした。

物語の主人公と同様に、作者の市川沙央も同様の障害とともに生きている。願わくば、今後も多作であることを。また発表された小説を読みたいと思う作家ができて嬉しい。

追記:その1(2023年05月29日)

ハンチバックが書籍化、そしてインタビューが掲載されていました。
ここに至るまでの投稿履歴がなかなか面白かった。
書籍化された際に修正される箇所があるのかも気になるので、結局書籍も購入してしまうのだろう。

追記:その2(2023年05月29日)

文學界のnoteにて、冒頭が公開されていました。
ああ、文學界のnoteがあることすら知らなかった。
これは便利。


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