見出し画像

予備校は教えてくれない予備試験会社法の対策法 〜設問1対策編〜

★司法試験/予備試験受験生向け記事まとめはこちら★

注意(R2年11月10日加筆)

 本稿は令和元年度までの試験傾向に基づく分析として書かれたものでしたが、令和2年度の試験問題を見たところ、本稿の分析がそのまま通用するというものではありませんでした。
 本稿の役割が失われたとまでは思いませんが、改めて令和2年度の傾向分析をした記事を書こうと思っているので、私に元気を分けてください……。

1.はじめに

 予備試験受験生の皆様、おげんきですか。
 論文式試験を目前にした皆様、正気を保っていますでしょうか。

 前回、刑事実務基礎科目の対策についての記事を書きましたところ、たくさんの方に見ていただいたそうで、大変嬉しく思います。
 似たような記事をまた書きたいなと思ったのですが、そういえば、予備試験論文式試験における会社法のメタ戦略って、あまり語られてないよな〜ってことで、今回は会社法について取り上げることにします。

 受験生の皆様は、予備の商法(会社法)の論文過去問の問題をご覧になったことはありますでしょうか。見たことある方ならわかると思いますが、イヤ〜な問題を出してくるんですよね。
 基本的な典型論点だけ聞いてくれるわけじゃなく、聞いたことのないような応用的論点が毎年のように問われています。
 そのような出題の中でも、私が最も度肝を抜かれたのは平成29年度設問1ですね。
 この問題を読んだことないという方は、こちらのリンクからご覧になってください。

 (以下、当該問題のネタバレを含みますのでご注意ください。)



 この設問で問われていたのは、デット・エクイティ・スワップ(DES)というスキームについての知識・理解です。
 受験生の皆様、DESって聞いたことありますか?
 私が初めてこの用語を知ったのは、学部4年のときにこの平成29年度の問題の解説を読んだときでした。つまり、この問題を見るまで知らなかったのです。
 このスキームは非常に実務的で、予備校の基礎講座等ではほとんど取り上げられることはなかったのではないかと思います。
 また、(平成29年当時の)会社法の基本書でも、DESにはそもそも触れていないものがあったり、触れていたとしても詳述されているものはほとんどありません。
 だったら、当時の受験生はどうやって勉強して、この問題に備えるべきだったのか。そう、タネ本を読めばよかったのです

 ここ数年、予備試験会社法のタネ本となっているのは以下の本です。

前田雅弘・洲崎博史・北村 雅史「会社法事例演習教材 第3版」
                      (有斐閣、2016年)

 この本は、京大ローを始めとした数々のロースクールで教科書として指定されている演習書で、会社法の「京大本」とも呼ばれています。
 難易度は非常に高く、この本に載っている問題の中でも、これはさすがに試験に出ないだろうというような問題がいくつも掲載されています。
 とはいえ、少なくとも平成29年度以来、この本は予備試験会社法のタネ本となっていることが伺えるので、予備試験受験生はできれば目を通しておきたい一冊となっています。

 しかし、この本は、必ずしも多くの予備試験受験生に読まれてきたとは言い難いのではないかと思われます。
 なぜならば、本書の事例問題に対する解説が本書には掲載されておらず、参考文献や参考裁判例しか載っていないので、独学では学習しづらいからです。
 本書を教科書として使っているロースクールの講義を受けていれば、その講義などで先生から一応の答えが示されるので、なんとか本書を使うことができるのですが、そういったものに頼れない独学派や学部生の受験生には辛いものがあります。
 ヤフオク等に本書の解答例と称するものが売られていることがありますが、クオリティはあまりよくありません。「ひとりで学ぶ会社法」313-314頁も、「巷には「解答」なるものが出回っているようだが,前に見たものには誤りもあったので,要注意。」と指摘しています。(そういった解答例を使うこと自体を批判していないところはやさしさ感じますね。)なお、以前BEXAで販売されていたM氏の解答例はクオリティが高かったのですが、今は公には販売されていないそうで残念です。


 ただ、そういった解答例を使わずとも、本書を活用することはできます。
 本書には、解説が掲載されていない「設例」のほかに、簡単な解説が掲載されている「演習問題」も載っているのですが、この「演習問題」は独学派の受験生も役立てることができるのです。
 この「演習問題」は、「設例」と全く関連性がないわけではありません。本書の「第3版はしがき」によると、この「演習問題」は京大ローの定期試験の過去問を寄せ集めたものだそうで、「設例」で学んだことを前提として作成された確認問題的な立ち位置にある問題であるといえそうですね。
 もちろん、「演習問題」では「設例」で取り上げられた論点のすべてを触れているわけではありませんが、予備試験の過去問と照合する限り、会社法事例演習教材で取り上げられている論点の中でも、「演習問題」に書かれている論点の中から予備試験の問題を作るということが意識されているみたいです。
 では、具体的にどういった対応関係があるのか見ていきましょう。

2.平成29年度設問1

 この年には、既に触れた通り、デット・エクイティ・スワップについての出題がされたのですが、これについて会社法事例演習教材では以下の通り触れられていました。

 ・「設例」第Ⅱ部 設例1−1
 ・「演習問題」演習18

 ただ、「演習問題」を読んでいれさえいれば完全答案を書けたかというと、そうとは言い切れませんでした。平成29年度の設問で問われている、金銭債権を募集株式発行において利用するスキームとしては、①払込金額と金銭債権を相殺するスキームと、②金銭債権を現物出資するスキームの双方があり、解答にあたってはその双方に触れる必要がありました(「出題の趣旨」を参照)。
 しかし、「設例」では双方のスキームに言及されているものの、「演習問題」では、②のスキームしか触れられておらず、必ずしも「演習問題」を読めればよいとは言い難いものでした。ただ、現物出資のスキームはともかく、相殺のスキームは現場思考で思いつくことは不可能とまではいえませんし、会社法208条3項を試験中に見つけ出して現場思考で解釈することも無理ではなかったでしょう。現物出資のスキームについて知れるだけでもめっけもんです。
 会社法事例演習教材を読んでいれば有利に立ち回れたことは確かです。
 (ただ、平成29年度当時は、まさか会社法事例演習教材がタネ本となるとは思いもしなかったわけで、当時の受験生はこの本を読んでいればよかったと、手放しに評することはできません。もっとも、この問題には他の元ネタがあるのですが、これについては別の機会に……。)

3.平成30年度設問1

 この年も会社法事例演習教材に載っている論点から出題されました。ただ、「設例」では言及がなく、「演習問題」にしか載っていない論点からの出題だったので、ちょっと不意打ち気味だったかもしれませんね。
 出題の元ネタとなったと思われるのは、「演習27」の小問(2)です。
 もっとも、この問題の解説も詳しくは書かれていないので、これさえ読んでいれば完全解を書けたかというと、これもまた微妙なんですね。ただ、問題意識を知れるという意味では、論点落としのリスクを回避することができるため、有用だったといえるでしょう。
 ちなみに、ここまで言っておいてなんですが、私はこの年の試験を受け、会社法事例演習教材に頼らず、現場思考のみで答案を書き、A評価をとることができました。未知の論点ではあったのですが、問題文の事情をジリジリと読み込んで問題意識に気付き、条文の趣旨をでっち上げて規範を定立し、それを当てはめればよかったので、あえて本書を読む必要まではなかった問題であったかもしれませんね。

4.令和元年度設問1

 この年でも会社法事例演習教材が活きた出題がなされました。
 令和元年度設問1で書くべき論点として、①取締役会決議が無効となる場合の規範、②取締役会の招集通知に記載のない議題についてされた決議の有効性、③特別利害関係取締役についての論点がありましたが、これらについて、以下の通り、会社法事例演習教材に記載がありました。

 ・「設例」第Ⅰ部2−3
 ・「演習問題」演習2

 「演習問題」を読んでも十分に対応できる問題でしたね。上記①〜③の論点のうち、①と③は典型論点ですが、②については少し影の薄い論点ですので、書けなかったという人もいたみたいですから、会社法事例演習教材を読んでいれば有利に立ち回れたといえますね。
 なお、令和元年度設問1に近い出題として、予備試験平成23年度設問1があり、この問題を解いていたという人も有利だったかもしれません。このように、予備試験過去問からの再度の出題にも警戒すべきでしょう。

5.まとめ

 以上に見た通り、平成29年度以来、商法の設問1では会社法事例演習教材に記載のある問題をベースにした出題がなされるという傾向が見て取れます。
 これはもはや、会社法事例演習教材に取り組むということが、商法の考査委員から受験生に向けられた宿題であるといってしまっても過言ではありません。
 そもそも予備試験は、ロースクール修了と同程度の能力があるかを図るための試験であるところ、予備試験でローの定期試験で出題した問題の類題を出し、ロー修了と同程度の能力があるかを試すというのは、なるほど筋が通っていると思いませんでしょうか。
 タネ本を意識した試験対策は宜しくない考えている人もいるとは思いますが、このような考査委員からのメッセージを無視する訳にはいかないでしょう。

 もっとも、タネ本があるからといって、これを読めば満点を取れるという問題は本番で出題されません。「演習問題」の解説がそもそも丁寧でなかったり、論点の視点を変えて問題が作られることがあるからです。
 会社法事例演習教材に取り組むのは、論証集記載の論証が頭に入っていたり、短文事例問題集をこなしたり、過去問演習が済んで、会社法の基礎が身についた後のほうがよろしいと思われます。
 他方で、既に基礎が身についていて、これからラストスパートをかけるという受験生には、会社法事例演習教材の「演習問題」をオススメします。これだけなら1日あれば読み通せるでしょう。

 ちなみに、設問2についても出題の元ネタがあるのですが、私が眠くなってきたので、これについてはまたの機会に。


★司法試験/予備試験受験生向け記事まとめはこちら★

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?