予備校の短文事例問題集についてのまとめ
0.はじめに──短文式事例問題集ってなんだ
今回は、司法試験・予備試験受験生向けに、(市販の)短文事例問題集についてのお話をしたいと思います。
というのも、この短文事例問題集、各予備校からいろんなものが出ているものですから、初学者の方や受験指導から離れていた合格者の先生方からすれば、どれを選べばいいかわからないことと思います。本稿は、そういったニーズに、司法試験オタク(自称)の私がお答えするものです。
そもそも、短文事例問題集ってどんな問題集かイメージできますかね?よくAikawa先生がツイッターで言及されている印象がありますが、実は何が短文事例問題集なのかってよくわかりませんよね。そこで、本稿ではまず、短文式事例問題集の位置づけにについて説明することにします。
短文式事例問題集というのは、その名の通り、司法試験や予備試験の過去問ほどの長さのない、短文の事例問題が掲載された問題集であり、ほとんどの場合、問題文とともに解説・答案例が掲載されています(お堅い演習書であれば、問題文と解説しか掲載されておらず、答案例まで載っていないものが多いでしょう)。
この短文事例問題集というものは、多くの受験生にとって、合格の必要条件となるものです。やはり、基本的な問題を答案例を読みながら学習するという方法は、多くの人にとって合格へのコスパがいいのです。
合格者の多くは予備校の講座に付属する短文事例問題集を消化していると思われます。伊藤塾であれば論文マスターという講座で使用する「問題研究」が、アガルートであれば重要問題習得講座のテキストが、資格スクエアであれば基礎門演習のテキストがこれにあたるでしょう。Aikawa先生のいう短文事例問題集というのは、このうちの問題研究というテキストを想定しているように感じます。
ただ、高いんですよね、こういう講座は。アガルートの重問が一番安くて10万円程度です。こういう講座をポンと買ってしまえばいいのですが、少なくとも私にはそんな経済的余裕はありませんでした。
ならば、市販の(=本屋で売ってる)短文式事例問題集を買えばいいじゃない、ということです。実際、私はそうやって学習してきました。
ただ、市販のものって、クソ高い予備校講座のテキストよりも劣ってる部分が多く、脳死で市販の問題集を消化していれば勝手に合格レベルの能力が身につくというものではありません。なかなかうまくはいきませんね。
せめて、数多ある市販の短文事例問題集の中でもイイものを使いたい、自分にあっているものを選びたいと思いますよね、そうですよね?本稿は、そういうニーズに応えるものです。
それでは、私のレヴューに入りましょう。
評価事項として、「問題ソース・クオリティ」「解説のクオリティ」「答案例のクオリティ」の3つをあげ、5点満点で評価します。
1.伊藤塾「新伊藤塾試験対策問題集-論文」
まずは司法試験予備校最大手(?)の伊藤塾から出ている「試験対策問題集」について紹介します。
伊藤塾の短文事例問題集は昔から出ているのですが、表紙の色合いが赤みがかっていることから、「赤本」と呼ばれることが多いです。
ただこの赤本、いろんなシリーズがあって、初学者の方はどれを選べばいいか混乱すると思います。出版社の弘文堂のHP上で紹介されているものだけでも、3シリーズあることがわかりますね。まずは、その中でも一番新しいめの「新・伊藤塾試験対策問題集」(以下、「新赤本」と呼びます)について紹介しましょう。
この新赤本は、2020年の1月に民法が、同年6月に商法が、2021年5月に民事訴訟法が刊行されているのみで、執筆時点(2021年6月)での既刊はその3冊しかありません。
これから全科目の短文事例問題集を揃えたいという初学者の方には触手が伸びづらいかもしれません。しかし、だからといって、この新赤本を選択肢から外すべきではありません。
1.1.問題ソース・クオリティ
新赤本に掲載されている問題は、オリジナル問題と旧司法試験過去問で、どちらかというとオリジナル問題の比率のほうが多いような気がします。問題数は、民法については45問あります。少ないような気がしなくもありませんが、市販の短文事例問題集としては十分な量だと思います。
ここで、伊藤塾の講座テキストである問題研究との比較をしましょう。私も伊藤塾の本科生ではないのでよくわかっていないのですが、おそらく、問題研究には、旧司法試験の過去問を中心に、一部オリジナル問題が掲載されているものと思われます。この問題研究がすごいのは、旧司法試験過去問のほとんどを掲載しているという点です。どうやら、最近は旧司法試験の一部は削除されてしまったらしいですが、その代わり、予備試験過去問まで問題研究に掲載されるようになったらしくて、とってもボリューミーになったみたいですね。詳しくないので、間違ってたらごめんなさい。少なくとも、問題数で言えば問題研究のほうが多いはずです。
1.2.解説のクオリティ
新赤本の解説は非常に丁寧で、クオリティが高いです。初学者が事例問題を解く際の思考過程から解説するものも少なくなく、図表を多く用いながら、事例問題に関連する知識まで補充されています。
ただ、解説の丁寧さは問題によってまちまちで、図表なし1ページ弱の解説しかない問題もあれば、図表ありで3ページにわたって解説がされている問題もあります。できるものなら、全問題3ページ解説くらいの丁寧さが欲しかったように思えます。
1.3.答案例のクオリティ
予備校の問題集の答案というと、表現が冗長で、文章にメリハリがなく、当てはめが薄いものが多い印象があります。
しかし、新赤本は違いました。論理が明確で、論証も長すぎず短すぎず、当てはめについても学ぶことが多くあります。まさか伊藤塾がこれほどの問題集を出してくるとは思いませんでした。
評価
★問題ソース・クオリティ → 4/5点
★解説のクオリティ → 4/5点
★答案例のクオリティ → 5/5点
2.伊藤塾「伊藤塾試験対策問題集-予備試験論文」
(憲法、民法、刑法、行政法、商法、民訴法、刑訴法、民実、刑実)
本書(以下、「予備赤本」と呼びます)は、2016年から2017年にかけて初版が刊行されたシリーズで、実務基礎科目を含めた全科目が揃っている点で他の短文事例問題集と異なります。
そして、2020年に入ってから、既刊のうち、民事実務基礎・民法・商法・民事訴訟法・刑法・刑事訴訟法について第2版が発売されました。他の科目についても改訂版がでればいいですね(仮に改訂するとしたら、最近の予備試験過去問の解説の補充が主な目的になるでしょう)。
さて、本書は書名で予備試験向けであることを謳っていますが、どういった点で他の赤本と差別化が図られているのでしょうか。
第一に、予備赤本からは、7法以外にも民事実務基礎と刑事実務基礎の(短文?)事例問題集が刊行されています。とはいっても、実務基礎対策に予備赤本だけでは不十分なので、これさえ買えばというものではありません。民事実務基礎対策についての詳細はこちらを、刑事実務基礎対策についての詳細はこちらを御覧ください。
第二に、予備赤本は、掲載されている問題のセレクトに特徴があるのですが、この点は次節で述べます
2.1.問題ソース・クオリティ
予備赤本は、基礎編と応用編の2部構成からなっており、基礎編はオリジナル問題のみが20問、応用編では予備試験過去問・旧司法試験過去問・オリジナル問題が10問掲載されており、合計で30問の問題集となっています。
特に、予備試験過去問は、試験制度が始まった平成23年度の問題から掲載されており、2020年4月に改訂されたばかりの民法第2版では、平成23年度から令和元年度まで8問もの予備試験過去問の解説が掲載されています。このように、予備試験過去問を科目毎に一気通貫して解説する本はあまり無く、強いていえば後述するえんしゅう本がそうしていますが、解説や答案例のクオリティは予備赤本のほうが上であることが多いです。
2.2.解説のクオリティ
解説の丁寧さは、基礎編と応用編とで異なっています。
基礎編の場合、解説は非常に薄く、論点の理解は答案例を読んで理解してねというパターンです。
一方で、応用編の方はしっかりとした解説がついています。概ね2〜3ページ程度ですね。私も予備試験の過去問演習をするときは、予備赤本を活用していました。辰巳のぶんせき本とかだと解説が薄かったので重宝していました。
ただ、解説もある程度が詳しめに書いてありますが、完全解とはいえません。予備赤本民法第2版に載っていた令和元年度の問題ですが、ちょっと論理が雑すぎてちょっと……。平成30年度の問題もね……。オリガ先生ェ……。
2.3.答案例のクオリティ
こころなしか、答案例のクオリティは基礎編と応用編で差があるような気がします。基礎編の答案が悪い意味で予備校答案っぽくて、応用編の答案は実践的な答案だと感じます。とはいえ、基礎編の答案も、次に紹介する旧赤本の予備校答案と比べればマシっぽいので、やっておいて損はないですね。
なお、予備赤本には、新赤本にはない優秀答案(受験生が実際に書いた答案)も掲載されています。答案をたくさん読むのはいいことですが、掲載されているのは伊藤塾のやり方の染まった答案ばかりなので、模範答案との違いがあまり無く、面白みに欠けるものが多いですね。それでも、予備過去問の優秀答案は合格の相場観を測るのに役に立ちますけどね。
評価
★問題ソース・クオリティ → 3/5点
★解説のクオリティ → 3/5点
★答案例のクオリティ → 3/5点
3.伊藤塾「伊藤塾試験対策問題集-論文」
続いて、絶版になっていない(?)伊藤塾の赤本のうち、最も古いシリーズの赤本(2011年〜2012年頃にでていたもの。以下、「旧赤本」と呼びます)について紹介します。
この一番古い赤本、もう絶版になってもいいと思うんですけどね。答案例つきの事例問題をたくさん解きたいというのなら止めませんが、今は他にいい本がありますし、オススメはしませんね。
3.1.問題ソース・クオリティ
確か、全問オリジナル問題であったと記憶しています。
このオリジナル問題というのも、出版当時の(新)司法試験というものをイメージした作問になっていて、今見ると違和感があるかもしれません。例えば、民法なんかだと要件事実の知識をゴリゴリに聞いてくる設問があったと記憶しています。確かに、今でも要件事実の理解は重要なのですが、平成27年頃からの傾向として、民法の中では要件事実の知識を正面からは問わないようになっているので、今とは傾向がずれていることになります。てゆうか、民法は債権法改正に対応してないので選択肢に入りませんね。
3.2.解説のクオリティ
解説は相当薄かったと記憶しています。せいぜい答案作成上の注意点程度くらいしかありません。答案例を読んで理解しろということなんでしょう。
3.3.答案例のクオリティ
あまり出来はよくありません。できの悪い予備校答案というのは、まさにこういうものかと思います。無機質なんですよね。
評価
★問題ソース・クオリティ → 3/5点
★解説のクオリティ → 1/5点
★答案例のクオリティ → 1/5点
4.辰巳法律研究所「Newえんしゅう本 [改訂版]」
司法試験予備校の老舗である辰巳から出ている短文事例問題集です。私の母校が辰巳と提携しているからか、周りにはえんしゅう本を利用する人がよくいました。
既に全科目の問題集が発売済みであり、民法については債権法改正・相続法改正に対応しています。全科目とも2019年に改訂されたばかりであるというのも良い点でしょう。
ひとつ難点というか特徴をいえば、この本には科目によってクオリティに差があります。私なりに各科目ごとのクオリティに序列をつけるとすると、以下の通りになります。
行政法 > 刑事訴訟法 > 商法 ≧ 民事訴訟法 ≧ 刑法 > 民法 > 憲法
行政法のえんしゅう本は非常にいい本で、まさに行政法の基本に慣れるのにはもってこいです。反対に、憲法のえんしゅう本は微妙ですね。憲法の答案というのは、判例と学説の双方の顔色を伺いながら書くことを強いられるものなのですが、えんしゅう本の答案にはこういった繊細さがみられません。そもそも、予備校の憲法の本なんてたかが知れてるんですけどね。合格思考憲法や後述する実況論文講義という例外を除いては、ですが。
4.1.問題ソース・クオリティ
えんしゅう本の問題は、旧司法試験過去問と予備試験過去問(H30年までのもの)を中心に、それに数問のオリジナル問題を加えたものから構成されています。過去問の比重が多いという点で、伊藤塾の講座テキストである問題研究に近いのですが、えんしゅう本は旧司法試験過去問の掲載数が少なすぎる点が微妙です。
単に問題数だけをみれば、民法は41問、刑法は48問もあったりして、他の市販されている短文事例問題集と比べても優秀な部類なのですが、ここ最近の過去問を見る限り、えんしゅう本ではかゆいところに手が届かない場面というのが多く見られます。令和元年度司法試験の民事訴訟法の設問1では意外なアレが出たわけですが、それでもかつて旧司法試験での出題実績があったわけです。しかし、えんしゅう本はそういった問題を掲載していない。
とはいえ、その問題が載っていないのは他の市販の短文事例問題集も同じなので、えんしゅう本だけを責められませんが、同書のように過去問を中心に問題を掲載するとなると、どうしても穴ができやすくなります。その穴を塞ぐために、より多くの過去問を掲載しようとしてるのが問題研究であり、オリジナル問題も掲載することで穴を減らそうとしているのが新赤本であったり、後述する実況論文講義であるのです。
また、短文事例問題集は、いわば論文式試験の入門に用いられることが想定されているのですが、その素材に過去問を多く採用するのは不適切ではないかということがいえます。初学者が解くべき短文事例問題というのは、基本的なレベルの問題であることが望ましいのですが、過去問として出題された問題の多くは、基本的な知識を応用させる問題である場合がほとんどで、論文式試験の入門に向かないことが多いです。確かに、殆どの人にとって過去問を解くというステップは合格の必要条件であるのですが、それは基本的なレベルの短文事例問題を解けるようになってからの話です。資格スクエアの講座設計だってそうなっているようです。
(伊藤塾の問題研究も、えんしゅう本と同様、過去問を中心に掲載しているわけですが、問題研究の場合は昭和に出題された古い過去問(=平成に出題された問題よりも基本的な問題が多い)も掲載しているので、入門レベルからでもとっつきやすいという点がよいのではないかと思います。)
ちなみに、行政法は旧司法試験の試験科目ではなかったため、過去問がなく、その代わりにオリジナル問題や新司法試験過去問(改題)が挿入されています。もっとも、オリジナル問題といえど、予備校の創作事例ではなく、重要判例の事案のほぼママの問題が載っているのです。これはとても勉強になります。
他の科目のえんしゅう本が、過去問を中心に取り扱っていることから、初学者がとっつきにくくなっているのと対照的に、行政法のえんしゅう本は、重要判例を素材にした事案を掲載することで、法律学習者がまず抑えなければならない基本中の基本を押さえることができるようになっているということです。他の科目もこういうコンセプトで作られればいいのにと思うところです。
4.2.解説のクオリティ
問題にもよりますが、1〜4ページ程度の解説が加えられています。ページ数だけみれば比較的多いように思いますが、新赤本や後述する実況論文講義のように、答案の書き方を手ほどきするようなやさしさはありません。無機質に論点解説をするというイメージです。
その分、各科目のえんしゅう本の冒頭では、答案の書き方が紹介されています。そこまで目からウロコなことは書かれていませんが、ないよりは書いててくれて嬉しいというようなことが書かれています。
4.3.答案例のクオリティ
科目によるのですが、微妙なのが幾らかみられます。行政法と刑事訴訟法の答案例は一定の水準がみられていいのですが……。他の科目の答案例だと事実の評価がよく抜けていたりして、なんかマヌケな答案が多い印象です。
ただ、行政法と刑事訴訟法の答案は良いような気がします。なぜだかはわかりません。多分、その2科目を担当したスタッフの方が有能だったのでしょう。(そんな行政法も、平成30年度の予備過去問の答案はクソでしたねェ…)
評価
★問題ソース・クオリティ → 3/5点
★解説のクオリティ → 3/5点
★答案例のクオリティ → 3/5点(行政法は5点で刑訴法は4点)
5.アガルートアカデミー「実況論文講義」
アガルートは、2015年頃に設立された司法試験予備校で、他の伊藤塾や辰巳よりも比較的新しめの予備校です。本書は、そのアガルートの講座である「論文答案の「書き方」」の内容を書籍化したものであると言われています。
法律基本科目である7法について既刊となっているので、実況論文講義だけで揃えることも可能です。
(憲法・行政法・民法・商法・民事訴訟法・刑法・刑事訴訟法)
5.1.問題ソース・クオリティ
掲載されている問題は、オリジナル問題を中心に、一部旧司法試験の過去問も掲載するというもので、伊藤塾の新赤本に近いです。オリジナル問題の問題としての質は高く、新赤本のオリジナル問題よりもオーソドックスでとっつきやすいといえるでしょう。
ただ、問題数は新赤本より少ないです。民法について比べると、新赤本には45問も掲載されているのに対して、実況論文講義には25問しか掲載されていません。
というのも、前述の通り、実況論文講義はアガルートの「論文答案の「書き方」」という講座を書籍化したものなんですが、同講座は短文事例問題を通じて典型論点を広く習得することを目的とするものではなく、あくまで、論文答案を書けるようになるためのウォーミングアップ的な位置付けにあるようなのです。
他方で、典型論点を広く習得することを目的とした重要問題習得講座の問題数は、1科目あたり40〜70問もあるそうです。市販の短文事例問題集とはダンチです。悔しい…ですよね。
まあ、典型論点を広く習得したいのであれば、問題演習としてではありませんが、市販のアガルートの論証集(民法・商法/民事訴訟法・刑法/刑事訴訟法)があるので、こちらでなんとかできなくもないですね。
5.2.解説のクオリティ
実況論文講義の解説については、新赤本と互角か、それ以上に丁寧です。初学者のための答案の書き方や思考方法から書かれているうえ、論点についての解説も比較的丁寧に書かれています。また、新赤本には載っていない答案構成例(=答案を書く際の下書き的なもの)についても掲載されています(答案構成例なら予備赤本の基礎編にも載っていますね)。
5.3.答案例のクオリティ
やはり、答案例についても出来が良く、文章としての読みやすさ(論理の明確さ)を備えているうえ、答案のどの記述が論証であるかが網掛けされているため、初学者がどの部分を暗記すべきなのかが一読了解できるようになっています。
さらに、実況論文講義にしかない特徴として、模範となる答案例の他に予備試験合格者が書いた答案についても掲載されています。内容的に正確性が詰められている訳ではありませんが、答案の書き方のバラエティを知る上で有用です。
評価
★問題ソース・クオリティ → 4/5点
★解説のクオリティ → 5/5点
★答案例のクオリティ → 5/5点
6.早稲田セミナー「スタンダード100」
一言で特徴をいえば、「質より量」。
書名に「100」とあるので、一冊に100問もの問題が載っていて大変だと思うかもしれませんが、実際は、100問以上載っています。百選みたいですね。
ただ、問題数が多い分、一問一問の質が……。
6.1.問題ソース・クオリティ
スタ100の最大の特徴は、旧司法試験・新司法試験・予備試験の過去問のほぼ全てを掲載していて、さらに、過去問未出題分野についてはオリジナル問題が掲載されているという点に求められるでしょう。圧倒的物量……ッ!
また、毎年改訂されていて、そのたびに新しい過去問が追加されています。正直、旧司過去問を見る用だったら古いのを中古で買うんでもいいとは思いますがね。
ここまで旧司過去問を載せている本は他にないので、過去問の問題文を探すための辞書として利用することもできるでしょう。
6.2.解説のクオリティ
ただ、問題数が多い分、解説は非常に薄く、解答のポイント的なものが数行書かれているだけです。論点の理解については答案例を読んでね、というパターンの問題集ですね。
6.3.答案例のクオリティ
もっとも、その頼みの綱である答案例の出来は微妙です。不正確な記述が随所に見られるからです。
そういえば、このスタ100だけで予備試験に上位合格したって人がいましたよね。一般論として、スタ100だけで予備合格できるというのは言うべきではないと思いますが、せめてスタ100やっていれば本番の試験で致命傷は防げたというシチュエーションもありうるので、全く役に立たないわけでもないかもしれません。
評価
★問題ソース・クオリティ → 5/5点
★解説のクオリティ → 1/5点
★答案例のクオリティ → 2/5点
7.早稲田セミナー・新保義隆「論文基本問題 120選」
スタ100と同じく、早稲田セミナーから出ている短文事例問題集ですが、こちらは絶版になっています(民法は改正未対応、商法も厳しい)。編著者の新保先生がもう受験指導をされていないからなのでしょうか。
しかし、私は、論文基本問題120選を絶版にする早稲田セミナーの経営判断が信じられません。この本はとてもいいものなんです。
私もリアルタイムで見知っていたわけではないのですが、かつて早稲田セミナーも隆盛を極めていた時代があるらしいのですが、本書の編著者である新保先生はまさにその時代の早稲田セミナーを支えた講師の一人かと思われます。新保先生は本書の他にも、デバイスネオというインプット用テキストを市販していました。私もローの図書室で読んだことがありますが、今でもある伊藤塾のシケタイなどと比べても出色の出来でした。他の予備校講師やスタッフに比べて勉強熱心なんだと思います、新保先生は。(←偉そうな物言いだな!)
7.1.問題ソース・クオリティ
120問前後ある問題はすべてオリジナル問題ですが、ほとんどが旧司法試験過去問を改題したものとなっています。他の短文事例問題集と比べ、旧司法試験過去問の掲載数が多く、伊藤塾の講座テキストである問題研究にも匹敵するものと思います。
7.2.解説のクオリティ
解説については、問題文含め2ページの見開きの中でされているので、そこまで詳細に渡っているわけではありません。ただ、それでも一応解説をしようとしているので、スタ100よりはマシです。
7.3.答案例のクオリティ
掲載されている答案例は旧司法試験時代の遺物感が漂っているので、答案の実践的な書き方が身につくとは言い難いかもしれませんが、それでもインプット教材として優秀ですす。実践的な答案の書き方は、新司法試験過去問や予備試験過去問を別途解く中で身につければいいのです。
評価
★問題ソース・クオリティ → 4/5点
★解説のクオリティ → 3/5点
★答案例のクオリティ → 4/5点
8.LEC「新・論文の森」
LECという一応大手の予備校から出ている短文事例問題集です。私が学部生の頃は、この本を使っている人をチラホラ見たような記憶がありますが、今はどうなんでしょうか。
というのも、この本、最近はほとんど改訂されていません。2011年から2013年頃にかけて各科目の改訂がされた後、なぜか2017年の末に商法と行政法だけ改訂されたっきり、音沙汰はありません。民法なんかも改正対応していないので、選択肢には入ってこないでしょう。
改訂された商法と行政法には、予備試験過去問の答案例が追加されたんですけど、立ち読みした感じ微妙でした。
そもそも私は論森を一冊も持っていないし、今どき論森は古いように思うので、レヴューは省略します。
★科目別・オススメ短文事例問題集まとめ(忙しい人向け)★
①憲法 = 実況論文講義 or/and 読み解く合格思考憲法 改訂版
各予備校が出している憲法の問題集に微妙なものが多い中、アガルートの実況論文講義は一定の水準を保っており、オススメできます。また、ここまでにしっかりと紹介できていませんでしたが、「読み解く合格思考 憲法 改訂版」(辰巳法律研究所、2020年)もオススメできます。同書は、厳密には短文事例問題集ではないのですが、似たような位置付けにある本なので、ここにならべました。
②行政法 = えんしゅう本
行政法といえば、辰巳のえんしゅう本しかありません。下手にオリジナル問題に走らず、判例そのままの事案をモデルにした問題を掲載しているというのが強すぎます。また、予備過去問や新司過去問(改題)も外していないというのも、やはり素晴らしい。過去問解説で少し微妙な箇所はありますが、そこは他の過去問解説書で補充すればよいのです。えんしゅう本を使わない理由にはなりません。
③民法 = 新赤本 or/and 実況論文講義
どちらとも一長一短ありますが、債権法改正後の短文事例問題集として、どちらもクオリティが高く、オススメできます。えんしゅう本やスタ100はちょっとねぇ……別に悪くはないかもしれないけど……。
とはいえ、新赤本や実況論文講義でも典型論点のカバー率が高くないので、論証集との併用は必須ですね。
④商法(会社法) = 新赤本 or/and 実況論文講義 or/and えんしゅう本
正直、結論が出せずにいますが、強いていえば新赤本がオススメです。私は新赤本が一番扱いやすいように思いますが、人それぞれ好みがあると思いますので、この3冊を書店で手にとって自分が好きになれそうか確かめてみることをおすすめします。そのような大型書店が生活圏にないのであれば…新赤本でいいと思います。
⑤民事訴訟法 = 論文基本問題120選 or 新赤本
まず、絶版ではありますが、論文基本問題を推します。旧司法試験過去問(類似問題)を広くカバーしている短文事例問題集が他にないためです。カバー率で言ったらスタ100があるのですが、あれを他人に勧めるのは勇気がいるので……。
なお、予備試験過去問をやりたいというのであれば、予備赤本やえんしゅう本を併用するとよいかもしれません。 (メルカリ等での入手をおすすめします)
また、近時出版された、伊藤塾の新赤本民事訴訟法も評価が高く、短文事例問題集はこれで済ませるというのでも
⑥刑法 = えんしゅう本
これは消去法ですが、えんしゅう本がいいと思います。予備赤本は内容的に不正確な点があると耳にしたことがありますし、実況論文講義は昔ちらっと読んだときにコレジャナイ感があったので...。
まあ、刑法の基礎固めにえんしゅう本で旧司法試験過去問をやるのはよろしいのですが、補充のため、大塚裕史先生が受験新報(絶版残念…)で連載されている「演習教室」を読むことをオススメします。旧司法試験過去問や予備試験過去問の解説がされており、水準としても非常に高いので参考になります。
⑦刑事訴訟法 = えんしゅう本 or 実況論文講義
刑訴法のえんしゅう本はそこそこ良いので、この本で良いと思います。また、実況論文講義でもよいでしょう。予備赤本は、予備試験過去問に取り組む際にこれらの本と併読するのならよいかもというレベルです。
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