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【令和最新版】続・予備校は教えてくれない刑事実務基礎の対策法

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お久しぶりです

二回試験の中日に現実逃避しているTojiroと申します。
司法修習も終わりに差し掛かるくらいになると、さすがに「予備の実務基礎科目チョロすぎ〜w」というくらいには実力が身に付いてきたことを実感します。
というか、それで二回試験への自信を付けるために、あえて予備の過去問を検討していました。
その中で、予備受験生の刑事実務基礎科目の対策法について、色々と思うことが出てきましたので、今回、この記事を書いてみようと思った次第です。

私は以前、(私が修習に行く前の時期に)刑事実務基礎科目の対策法についての記事を書いたことがあります。↓

「予備校は教えてくれない刑事実務基礎の対策法」

こちらの記事は非常に多くの方からご愛好いただきまして、noteの記事管理画面で閲覧数の数字が増えていくの見てニチャニチャさせていただきました。ありがとうございます。
この記事が目指していたのは、「出題者は、予備受験生に、どういう教材で刑事実務基礎科目の勉強をしてほしいのか」ということを明らかにすることでした。
その記事で紹介した辰已の青本や「民事裁判実務の基礎/刑事裁判実務の基礎」といった教材が有用であることは、今でも考えは変わりません。

ただ、あの記事を書いてから1年半ほどが経ち、新しい過去問や新しい学習書が出てきましたこともあり、情報をアップデートさせる必要性を感じていました。
もっと早くこの記事を書けよという話ですが、それはそうです。スミマセン。

今回、追加して紹介したい教材は、以下の2つです。

①吉開多一・緑大輔・設楽あづさ・國井恒志「基本刑事訴訟法Ⅰ——手続理解編」(2020年、日本評論社)

この基本刑訴Ⅰは、私が以前に書いた口述試験対策記事でも紹介した教科書です。これが論文式試験の刑事実務基礎の対策としても非常に有用なんです。特に、令和3年度の過去問との相性は抜群ですので、詳しくは後で紹介しますね。

②司法研修所検察教官室「検察 終局処分起案の考え方(令和元年度版)

検察終局処分起案の考え方(令和元年版)-scaled


こちらの「終局処分」は、司法修習生に配布されている白表紙で、検察科目の起案のためのマニュアル本のようなものになっています。
市販されていない本なので、あまり受験生のお目にかかることはないと思いますが、山中先生が情報公開を請求し、ブログ上で一般公開されていただいているお陰で、誰でも読むことができます。
予備試験対策が主眼に置かれたものではありませんが、使い方によっては予備試験対策に役立てることは十分に可能です。

この「終局処分」で学ぶことができるのは、刑事事実認定論です。
刑事事実認定というと、「民事裁判実務の基礎/刑事裁判実務の基礎」にも記載がある上、以前の記事で紹介した伊藤塾の「定石」もありますので、終局処分はマスト教材というわけではありません。
ただ、理解を深めるには良い教材ですし、巻末には事実認定の記載例もありますので、この分野を得意になりたいという人におすすめです。

最新の過去問から、勉強法を逆算しよう

その科目の勉強法を知るには、過去問を見るのが一番です。
令和元年度の過去問については以前の記事で紹介したところですので、今回は令和3年度と令和2年度の過去問について、この問題はどういう対策をしていたら解くことができたのかという視点から見ていきましょう。

令和3年度

設問1小問1
→弁護人として、勾留の準抗告を申し立てるにあたって添付した疎明資料について、それを添付した理由を問う問題ですね。
「準抗告を申し立てるときにどのような疎明資料を添付するのか」ということは、実務書ならまだしも、予備受験生のために書かれた教科書類にはあまり書かれていないことですので、いきなり面を食らった人もいたのではないかと思います。
しかし、過去問で何度も出題されている、勾留の要件の判断要素を理解していれば、ⓐとⓑの各疎明資料が、各判断要素との関係でどのように働くのかが、現場思考で考えられたのではないかと思います。
ですので、基本的には過去問を理解できていれば解くことができた問題だといえるでしょう。
ただ、本問では勾留の要件該当性として、罪証隠滅のみならず逃走のおそれも該当性を認めていることから、その点も弁護人として言及したほうがよかったでしょう。逃走のおそれは、たしかH25年にちょろっと出題されて以来だったので、「民事裁判実務の基礎/刑事裁判実務の基礎」で逃走のおそれの判断要素について勉強していた人は有利だったのではないでしょうか。

設問1小問2
→準抗告を棄却すべきという結論が固定されてはいますが、基本的には小問1と同様、過去問と「民事裁判実務の基礎/刑事裁判実務の基礎」が理解できていれば解くことが出来る問題です。
ポイントとなるのは、どれだけ具体的に罪証隠滅の対象を捉えられるか、疎明資料によってその可能性を拭いきれないのはなぜかについて、説得的に説明できるかどうか、というところでしょうか。

設問2
→検察官目線から、目撃者の供述の信用性を判断するという、事実認定問です。
最近の過去問を見ていると、刑事実務基礎科目における事実認定の出題は、検察官目線から問われていることが多いので、本記事で紹介した「終局処分」が有用なのではないかと思った次第です。
供述の信用性判断をするにあたっては、その判断要素を知っておくことが有用です。「終局処分」では、14頁〜15頁にかけて紹介されています。
具体的には、「終局処分」が挙げる①、②の各観点につき、問題文中に挙げられている他の証拠を参照しつつ論じるというのでいいでしょう。
ちなみに、一般論として、「終局処分」が挙げる①〜⑤の各観点は、番号の早いものが特に重要な観点であるという趣旨で並べられていると聞きます。
「民事裁判実務の基礎/刑事裁判実務の基礎」でも、供述の信用性評価について記述があるので、こちらも目を通しておいたほうが良いです。

設問3
→論文式試験としては初めての、証人保護という分野からの出題です。
私がかつて受験した口述式試験の方では出題されたことがあり、全く勉強の手を付けていなかったこともあって、そのせいで不合格になったという苦い思い出が……。
令和3年度の受験生も、まさかここが問われるとは思わずあたふたしたのではないかと思います。
論文式試験では条文を見ることができますので、こういうときは焦らず条文を探してみましょう。(とはいえ、試験用六法の刑訴法には見出しがついていないので、探すのも一苦労ですね。)
この問題について、事前にインプットしていたという受験生は多くなかったとは思いますが、基本刑事訴訟法Ⅰなら、証人保護制度への言及もバッチリです(329頁以下)。
ただ、刑訴法の条文に辿り着けたとて、すぐに本問の答えが出てくるわけではないので、難しい問題ではあったでしょう。
傍聴人との遮蔽は、人前で緊張するからという理由では足りず、被告人との遮蔽はWの要望や人的関係から認められ得るも、ビデオリンクまですると弁護人の証人尋問権との関係で行き過ぎだろうということを答案に書けばよいという気がしますが、ここまで現場思考で考えるのは大変でしょう。
とりあえず、令和3年度時点では、正確に条文とその文言を指摘して、それっぽいことを言えれば合格答案になるとは思うので、そこまで気を重くしないでくださいね!

設問4
→この問題も、設問3と同様、刑事手続についての出題でしょうが、条文を見ればすぐわかる問題というのではなく、自分の頭で考える必要があるので、少し大変ですね。
「民事裁判実務の基礎/刑事裁判実務の基礎」や基本刑訴Ⅰの230頁あたりを読んで、刑訴規則199条の12第1項などの条文の存在を知っていれば、なんとなく思いつくのではないでしょうか。
これらの制度趣旨についても、基本刑訴Ⅰの229頁に書いてあるので、このあたりを理解しておけば完璧です。

令和2年度

設問1小問(1)
→検察官目線の事実認定問です。
証拠の推認力が限定的であるということの理由を問うているものですが、ここで必要なのは「反対仮説」を想定する意識です。
「反対仮説」ってなんぞ?という人は、「終局処分」の16頁を読んでみましょう。
ちなみに、設問文中の「推認力は限定的である」という言い回しは、「終局処分」の15頁に登場するものです。
受験生に終局処分を読んで欲しいのか……と私はこの部分で感じました。

設問1小問(2)
→同じく検察官目線の事実認定問ですね。
Cの供述の信用性が問題となっていますが、さらに進んで、「秘密の暴露」というものが問題になっています。
このあたりは、「終局処分」の19頁を読んでみて下さい。
(Cが耳にしたAの発言を証拠にするというところが難しいですね。信用性は要検討です。)

設問2小問(1)・(2)
→類型証拠開示請求についての問題ですね。
過去問で既出の分野ですので、そこまで難しくはないと思います。
もちろん、「民事裁判実務の基礎/刑事裁判実務の基礎」や、基本刑訴Ⅰにも、類型証拠開示については記載があります。
ちなみに、「民事裁判実務の基礎/刑事裁判実務の基礎」は、出版が古い関係で、公判前整理手続に関する近時の法改正が反映されていないところに注意してください。基本刑訴Ⅰはちゃんと反映されています。

設問3
→伝聞証拠該当性の話ですね。
刑事事実認定についての理解がなければ難しい問題ですが、設問1小問(2)で問われていることが理解できていれば、この問題も自ずから結論が見えてくるとは思います。

設問4
→あまり難しくはないでしょう。
基本刑訴Ⅰの127頁、128頁を読んでいれば大丈夫な問題です。

最近の過去問を検討した感想

やはり、現場で考えなければならない問題は毎年出題されているものの、現場思考をするために必要な基礎知識は、以下で紹介する教材をマスターできていれば万全なんじゃないのかな〜と思います!

令和最新版・刑事実務基礎対策はこれをやれ!

★★★「司法試験予備試験 法律実務基礎科目ハンドブック2 刑事実務基礎〔第5版〕」

まずは論文過去問をやってみよう。
いきなり教科書類を読み始めてもよいが、まずは本試験でどんなところが出題されているのかを実感した上で教科書類の通読に進んだほうが、やりやすいと思う。
もちろん、いきなり過去問を検討することから入ると「なんじゃこりゃ」となるかもしれないが、そういうときは、その都度、下記の教科書類を参照すればいいでしょう。

★★「民事裁判実務の基礎/刑事裁判実務の基礎」

出たのが2014年という、少し古い本。なのに、2022年になってから増刷が決まったという不思議な本。司法研修所の中にある本屋でも、ポップ付きで本書が紹介されていた。それだけ、受験生には意識してもらいたい本なんじゃないかなと思います。
「講義1 令状審査(勾留・保釈)」と「講義4 事実認定」が特に重要だけど、他の章にも良いこと書いてある。
過去問で学んだことの理解を深めるために読むことができれば理想的です。

★★「基本刑事訴訟法Ⅰ——手続理解編」

刑事手続について理解を深めるのにうってつけの本。
というか、出題者側もこの本を意識して作問をしているんじゃないかと疑いたくなるレベル。他の本では替わりがきかない。
この本の頭からケツまで通読するのは大変だとは思うけど、実は刑訴の短答対策としても有用だし、口述式試験にも繋がる勉強なので、気合い入れてやってもいいかも。
読むときは、出てきた条文を見ながら読みすすめると理解が深まると思われます。

★★「検察終局処分起案の手引」

検察終局処分起案の考え方(令和元年版)-scaled

修習生向けの白表紙だが、刑事事実認定について理解を深めるのに有用な本。
ただ、あくまでも司法研修所での検察起案のために作られた本であるため、書かれていること全てが予備試験に役立つというわけでもない。
そのあたりの「終局処分の読み方」については、別の機会に記事を書くなりできたらいいな……。

★その他の本

正直、上記の4つの教材さえマスターできていれば十分で、それ以上は要らないと思う。
「定石」とか持て囃されていたけど、中途半端なのよね……。

おわりに

数時間後には二回試験を受けているというのに、俺はなんてことをしているんだ。
かなりパッパと書いた記事になりましたが、参考になれば幸いです。

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