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6月の信州湯治①【旅の始まり 温湯を追いかけて】

 「痛ぇ、、」

 早朝、誰もいない部屋。ベッドで上肢を持ち上げると、鳩尾みぞおちの辺りから絞り出すように呻吟する。梅雨に入り、長患いの持病が全身を傷める時節。御多分に漏れず、見事に喰らってしまった。

 不眠、頭痛、激痛、倦怠感・・・例年よりも激しい、そして、早い。
寒暖差と乱高下する気圧、身体はその変化に対応できない。雨雲が近づくと左のこめかみのあたり、青い筋が浮かび上がり、指を当てると「ドクンッ、ドクンッ」と不整脈を打つ。

 年々酷くなる気象病、病院通いを続けても尚症状は治まらない。
次第に出不精になり、激痛に耐えられず部屋に籠る。食欲は下がり続け、酷い時はこのまま病院に担ぎ込まれ入院を命ぜられるケース。

 このループを止める方法が一つある。
里山の安閑の地、緑の清冽な空気を吸い、温湯に長く浸かる。標高は高い方が良い。数日間の滞在で、見違える様に体調は回復する。
 
 夏至を前に、私は再び、信州沓掛くつかけ温泉を目指した----

 
 藤岡から上信越へ、左右に屹立する名峰を眺めながらのドライブ。私にとって、この道はストレスフリーのはずだった。
 西部劇を想念させる左の「妙義山」、築山の如き殊勝「浅間山」。両名山はこの日、積乱雲に隠れてしまった。あまつさえ、横川PAを過ぎると工事のため車線規制。トラックを先頭に連なる高速道路を、時速50キロで西進する。

 あれっ、噂には聞いていたが、某釜飯がまた値上がりしているではないか。何とも気骨が折れる走行だった。

 軽井沢を超えるとようやく雲間から陽が差し、到着したのは小諸城址。
こちらで、以前から気になっている店があった。蕎麦大国長野県において、盛と味が良いことでその名を馳せている「草笛くさぶえ」。私はここで過去に一度食逸をしていた。

 小諸城址懐古園こもろじょうしかいこえん併設のこの店。隣地に5台分の無料駐車場を設けているが、人気店のため満車のことが多いようだ。公園内には巨大なパーキングがあるが、こちらはゲート式で500円を投金することになる。
 700円のもりそばに対し、駐車料金が500円では間尺が合わない。1年ほど前だったか、店の前まで来て踵を返したのだ。

 11時前、この日は無料Pに空きがあった。余裕を持った昼食、食が細り気味だったが、蕎麦なら行けると大盛を注文。桶に盛られた蕎麦、想像以上にデカい。大盛をオーダーしておいて残すことはさすがに良心が痛む。ベルトを緩め、何とか完食。

 食傷気味の生活から解放され、ここでやっと旅に来た実感が湧いてきた。ここから、治療が始まるのだ。
 

 続いて向かうのは、道中の伴侶となる湧水の採水へ。
小諸駅近くの「弁天の清水」は小高い丘の中腹、どこにでもある住宅街の中で静かに顕現した。浅間水系唯一の軟水だというこちらの湧水処。まず驚嘆したのは人の数。

 車両3台分ほどの駐車場、県内ナンバーで綺麗に収まっている。
入れ替わり立ち代わり訪れる客は連綿と途切れることなく、間隙を縫い全景の写真を撮ろうと試みるも、とうとうそのチャンスは来なかった。

 奥に2本の湧水口から放たれる清水。手で掬い喉に流し込む。良く冷えており、食道を伝い胃に落ちていくのが分かる。いつもの様に20ℓを給水し、本旅の飲水を確保。

 
 上田市鹿教湯かけゆ温泉方面から緑陰の狭路を北へ進むと、やがて小さな集落が見えてきた。共同浴場に本旅の根城「叶屋旅館」、そして食堂「千楽」。この小さい街が異常に心地よく、衰残の心身を快復へと導いてくれる。

 到着は14時。チェックインまでの1時間は共同浴場「小倉の湯」に沈む。35度と39度の2本の源泉をかけ流し、夏場は加温はない。いつまでも疲れが来ない温湯は、細かい湯の花が舞い、長湯をしていると泡が付く。1時間はあっという間だ。

 15時と同時に宿へ入ると、いつもの様に館主が帳場で待っていた。

 「今回も、よろしくお願いします」   

                          令和4年6月18日

草笛 小諸本店
ざるそば大 凄いデカさだ
弁天の清水 2本の湧水口から放たれる
透徹の水流 量・質ともに素晴らしい
ネコと沓掛温泉
囲まれた!!

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<過去の叶屋旅館の記事>

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