唐揚げと酔っ払いのSDGs大作戦
唐揚げが一つ、皿にぽつんと残っている。
関西ではこれを「遠慮のかたまり」と呼ぶらしい。みんなでシェアする料理の最後の一つを「食べるべきか、譲るべきか」とみんなが気を使う——そんな思いやりの心が生んだ、なんとも奥ゆかしい言葉だ。
その唐揚げを、友人が「SDGs、SDGs」と唱えながら箸でつまみ、ひょいと口へ運んだ。
私が初めてSDGs(持続可能な開発目標)を意識した瞬間だった。
金曜夜の居酒屋。最近、会社の会議でSDGsが話題に上ったこともあり、「環境」とか「サステナブル」という言葉が妙に頭にこびりついていた。
唐揚げを頬張る友人は「SDGs目標その12!『つくる責任 つかう責任』だよ。つまり、フードロス削減!地球環境のため!」と言いながら、生ビールをグイっと流し込む。
最後の唐揚げを取られたが「SDGs」を盾にされると、なんとなく反論しにくい。
しかし、私は負けない。
「SDGs目標その10!『人や国の不平等をなくそう』だよ! 私が2個で、あんたが3個。これ、不平等でしょ!」と切り返す。
「じゃあもう1皿頼むからこれでチャラでしょ」と友人はタブレットで「唐揚げもう一丁!」と追加注文しようとするが、私は「ちょっと待った!」と止めた。
「SDGs目標その3! 『すべての人に健康と福祉を』だよ! つまり、食べ過ぎは健康に悪い!」と真顔で訴えると、同僚はスマホを取り出し、こう反撃してきた。
「SDGs目標その2!『飢餓をゼロ!』 つまり、今めっちゃお腹空いてる!」と怪しい呂律で反撃してきた。
結局、唐揚げと生ビールを追加することになったが、私はここでさらなる反撃を試みた。
「SDGs目標その6! 『安全な水とトイレを世界中に!』 お酒の飲みすぎはよくないから水を飲んで!」と言い放ち、友人のビールを水にチェンジ。これには友人も渋々従い「水、おいしー」と飲めればなんでもよかったらしい。
飲み会が終わり、帰ろうとすると外は雨だった。寒い風が吹きつけ、コートの繊維の隙間から刺さるようだ。
「これ、SDGs目標その13だよね? 『気候変動に具体的な対策を』ってやつ」と友人が言った。
「まあ、それは私たちの手に負えないからタクシー呼ぶか」と私。
結局、私たちはタクシーを呼び、互いの家の中間地点で降りて割り勘するという平和的解決策を選んだ。
「これぞ、SDGs目標その16!『平和と公正をすべての人に!』」と二人でハモる。
タクシーの中で私たちは少しだけ眠りながら、SDGsについて思いを馳せた。未来のために私たちができる小さな行動。
「いつか、一台のタクシーを二人で割り勘した私たちが、遠慮のかたまりという奥ゆかしい言葉を深く理解する日が来るのかもしれない」と呟きながら、私は明るい未来の夢を見た。