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一人目
そこは延々とThe Beatlesが流れる薄暗い地下一階の店である。
「どんな場所って、そら日本の中心やわなあ。」
京都がどんな場所かを訊かれた彼は、困ったように、そしてさも当然というようにそう答えた。
私が京都に越してきて、初めてこの店でこのマスターと話した時も、
「東京から出てきたんか、大変やなあそんな田舎から」
と言われたので、彼にとっては本当にそうなのだろう。
「勘違いしたらアカンで。"上京"言うんは"京都に上ってくる"ことや。東京に向かうんは"東下り"や。」
そういうマスターは、私にとっては生粋の京都人である。
「そらお前、カワイイ子が来た時に決まっとるやろが。」
仕事で楽しい時がどんな時かを話す彼の瞳は、"ニターッ"という表現がこれ以上ないほどに当てはまるような笑い方をしているのがサングラス越しにでもよく伺える。
「それ以外の時間は流しでやっとるわ。」
そう言い放つ彼であるが、本当はとても気さくで話しやすいことを、誰よりもここの常連たちがよく知っている。
窯で焼き上げたピザを頬張りながらマスターと他愛もない話をしていると、閉店までの時間と瓶ビールの減りはやたらと早く感じる。
「俺が店継ぐことになってもう45, 6年かな、その頃はもうバンドもやってなかったわ。」
マスターのバンドはその昔一世を風靡し、NHKの密着取材なんかもあったそうだ。すでにだいぶ顔なじみになった後でそんな話を聞かされた私が、どうしてそんな面白い話今までしてくれなかったんですか、と問うと、
「そんなもんお前、昔の話ばっかしたってカッコ悪いやんけ。」
と、面倒臭そうに吐き捨てた。
当時のバンドメンバーが飲みに来ていた夜の一幕であるが、青春時代を楽しそうに振り返るマスターは、いつもより一層若く見えたのをよく覚えている。
https://www.instagram.com/p/C6lgN5fyrIx/?igsh=NTc4MTIwNjQ2YQ==
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