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シェリーの哀愁

**シェリーの哀愁**

都⼼のとある狭い路地にひっそりと佇む古びたバー「Nostalgia」。中に⼊ると、落

ち着いた照明のもと、経年変化した⽊材とレトロなジャズが迎えてくれる。

ある⽇の深夜、30代の男がバーのドアを押し開けた。彼の⽬は疲れており、顔には

何かが訴えるような哀愁が漂っていた。彼はカウンターの席に腰を下ろし、ジント

ニックを注⽂した。

サーブするなりそれをぐいっと飲み⼲すと、彼はバーテンダーに

「オススメのお酒ある?」と尋ねた。

バーテンダーは少し考えてから、古い⽊箱からシェリー酒を取り出した。「これ

は、スペイン産のシェリー酒、"Fino En Rama"という銘柄。古い⽊製の樽で熟成さ

せたため、他のシェリーにはない深みとコクが楽しめます。」

男は興味津々にそのシェリーを注⽂した。⼀⼝含むと、彼の顔にはほんのりとした

笑顔が浮かんだ。そして、彼は⾔った。「そういえば、シェリーって歌があったよ

ね。」

バーテンダーもが少し記憶を巡らせてからうなづいた。

「あの歌、⻘春時代の多くの⼈たちにとって特別な思い出があると思います。」

男はシェリー酒を⼿にしながら遠くを⾒つめていた
「⻘春時代、何もかもが輝いていた頃、あの歌に胸を打たれて…」と、彼の⽬から

は懐かしさと共に少しの涙がこぼれた。

夜の静寂が深まる中、ジントニックを飲み⼲した男はバーテンダーに再度シェリー

を注⽂した。

「あれは⼈の名前だけど、ね」と、彼は少し笑って話し始めた。

「桜⼦、⾼校時代の彼⼥の名前なんだねど…彼⼥はあの歌と同じくらい、俺の特別

な存在だった。」

男はしみじみと話を進める。

「彼⼥と出会った時、俺は若かった…ロックバンドを組んで夢を追いかけていたん

だ。毎晩のように練習に明け暮れ、デビューを夢⾒ていた。でも、現実は⽢くな

く、当時の俺たちは⾦もなく、何を追い求めているのかさえわからない⽇々を過ご

していた。ステージでの⼤きなミス、仲間との対⽴。そんな中、彼⼥はいつも俺の

⽀えだった。桜⼦はいつもそばにいて、俺をしかって、そして強く抱きしめてくれ

た。彼⼥の愛が、どんな困難な時も乗り越えていく⼒をくれたんだ。」

彼はバーテンダーの⽅を向き、⽬を閉じて⾔った。「でも、⼤学を卒業すると同時

に、彼⼥は突然姿を消した。」

男はシェリーを⼀⼝飲んだ。

「そんな事があったのですね」

「ああ…あまりにも突然で。何年も彼⼥の事を⼈づてに聞いたり気にしていたのだ

けど、なにも解らず…。彼⼥のいないその後の俺の⼈⽣は、まさにその歌の通り、

転がり続ける⽇々だった。⽬的もなく、ただ前に進むことだけを考えていた。」

深く息をついた男は、シェリー酒のグラスを持ち上げ、もう⼀⼝飲み⼲すと、店を

出た。

どこまで転がり続けるのだろう

転がり続けて…どこかに辿り着けるのだろうか

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