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MIT Climate & Energy Prizeについて(後編)

私がMIT留学中にManaging Director(運営責任者)として過去1年弱運営してきたMIT Climate & Energy Prize (CEP) 2024について書きたいと思います(CEP概要・歴史や私が運営責任者に挑戦した理由は前回記事をご参照ください)。


CEP2024の結果

史上初となるグローバルなプログラムへ拡大

欧州・アジア・中東・アフリカの大学機関と提携を行いつつ、CEPの周知を図った結果、世界44カ国・94大学から大学発スタートアップ160社超から応募がありました

次に、CEPの元手となる資金ですが、特に日本企業からは非常に多くの関心が寄せられ、結果として日本企業4社を含め、17の企業等からCEP史上最大となる総額28万ドル(4千万円超)を調達することができました。前回記事でも触れたこれまでにCEPを卒業していったスタートアップ企業が大きく資金調達に成功して世の中にインパクトをもたらしてきたことや、後述の大学発スタートアップとの"接点"を多く持つことができる点が多くの企業に評価されたのではないかと考えます。

参加したスタートアップには、ベンチャーキャピタルやCVC・大企業の専門家と連携してメンタリングサービスも提供し、最終選考に進んだスタートアップ計8チームに対し、賞金・渡航費(各チーム1名の航空券・宿泊費をフルカバー)を含め、合計約23万ドル(3千5百万円超)の資金提供を行いました

MIT CEP 2024スポンサー企業一覧

世界44カ国・94大学から160以上のスタートアップが参加


最終選考は、米国、スウェーデン、スペイン、シンガポール、インドから8チームが参加し、各チームのビジネス・技術・チーム等をプレゼンテーションを通じてベンチャーキャピタル・研究者等に評価してもらいました。非常に多数の興味深い技術・ビジネスがありましたが、ここではCEP2024の総合優勝、準優勝、第3位のチームを順に簡潔にご紹介したいと思います。

MIT, Helix Carbonチーム

MIT発・Helix Carbon(優勝):二酸化炭素の回収・利用(CCU)分野のスタートアップ。両面テープのように物体をくっつける性質を持つ”DNA鎖”を利用して、従来より高い効率でCO2由来の合成ガス(メタノール等の原料)を製造でき、ラボ環境では既存の合成ガスの約1/2のコストで製造が可能。

コネチカット大学発・Andros(準優勝):次世代燃料として注目されるグリーンアンモニアを製造して肥料・燃料として活用することを目指すスタートアップ。アンモニアは製造過程で大量のCO2を排出する産業の一つですが、問題となるハーバー・ボッシュ法と呼ばれる製造方法に代わる、CO2排出を伴わずかつ低温・低圧環境下(=低コスト)で製造が可能な革新的なアンモニア製造方法を研究開発。

スウェーデンKTH発・Agteria Biotech(第3位):温室効果がCO2の約80倍あると言われるメタンを世界で最も輩出しているのは実は牛の「げっぷ」なのですが、その牛を"脱炭素化"するため、げっぷを抑制する飼料を研究開発し、欧州大手畜産メーカーと牛さんサプライチェーンの脱炭素化に向けた共同実証中のスタートアップ。

残念ながら日本の大学からの応募には至りませんでしたが、日本の現役大学生から「次こそは応募に挑戦したい!」という熱い意気込みや、参加した日本企業・投資家からは、これらの欧米スタートアップとの協業に向けた協議を始めているケースも出てきており非常に嬉しい展開となりました。

メンター制度や大企業リソースの活用による"接点"づくり

実は今回、資金提供以上に注力したのが、質の高いメンターの確保、そして、Climate-tech分野のスタートアップ成長の鍵となる大企業等との連携機会の創出です。

まず、メンター制度について。CEP2024では、上位16チーム(Semi-Finalists)に残ると、60名以上の専門家・実務家・投資家等から選定されたメンターをつけることができ、約2ヶ月の間、定期的にフィードバックの面談を行う等、密にメンターからアドバイスを受けることができます。
メンターは、MITの卒業生や過去CEPに参加・関与した方々などを中心に、投資家・大企業・スタートアップと所属も様々ですが(下図参照)、CEPのようなスタートアップエコシステムに関わり続けたいという熱い意志を持った方々がボランティアで対応しています。我々運営側からもメンター候補を積極的に探しますが、「過去にCEPにスタートアップとして参加しメンターに支援してもらったので恩返しをしたい」、「若い起業家と話して新しいことを学びたい」といった様々なモチベーションからメンターに名乗り出る方々の層が厚いのもCEPの特徴です。

CEP2024のメンターが所属する企業例

実際、CEP2024に参加した起業家が、自身のスタートアップについたCEPのメンターについて「業界知識が豊富でアドバイスが的確であるだけでなく、更に別の人を紹介してくれたり、惜しみなくリソースや人的ネットワークを提供してくれて非常に助かった」と言っていたのが印象的でした。

もう一つ、今回CEP2024で新たな試みとして注力したのがスポンサー企業とスタートアップの「接点づくり」、具体的には、「Industry Insithts」と称し、各分野のスポンサー企業と組んで、スタートアップ(起業を志す学生)を参加対象者としたイベントを行いました。テーマは企業の関心に合わせて夫々ですが、例えば、「R&Dから事業化に至るまでどのように企業がリソース配分しているか」「スタートアップと大企業がどのように連携していくべきか」「大企業側の目線からスタートアップの何に期待しているか」「スタートアップが活用できる大企業のリソースは何か」といったものです。三菱重工業、IHI、米国の資源大手Chevron、北欧最大のエネルギー企業Equinor、ノルウェー最大インキュベーターStartuplab、米国の弁護士事務所DLA Piperと各々イベントを行い、学生起業家・起業に関心がある学生250名以上が参加しました。1つのイベントで協業機会を作ることはできませんが、参加者・企業からも好評で、少なくともこうした接点やきっかけ作りはできたと思います。

スポンサー企業・投資家の声

実際にCEP2024に参加した企業等からの声も一部ご紹介します。

過去CEPに参加したスタートアップとは現在に至るまで定期的に面談を行なっている。今後スタートアップ企業の資金調達が進むにつれ、投資の検討や、ゆくゆくは自社の取り組むプロジェクトにサプライヤーとして参画してもらうなど事業提携の機会を模索している。

MIT CEP 2023 - 2024スポンサー(米国の事業会社)

CEPと共催したIndustry Insightsのようなイベントは自社としても海外大学とコラボレーションする初の試み。本社から役員クラスをボストンに派遣して臨んだ。現地のエコシステムに入り、現地の優秀な学生との接点や、最先端のテクノロジーの理解をする上で、CEPのような取り組みを支援できた意義は大きい。

MIT CEP 2024スポンサー(日本の事業会社)

MIT CEPは、アーリーステージの技術・起業家と、投資家・大企業等のClimate-techエコシステムを繋ぐ重要な役割を担っている。

MIT CEP 2024スポンサー(日本のCVC)

海外の大学にスポンサーという形で協賛するのは初の試みだったが、得られる最新技術・スタートアップ等の情報、非常に本社でも評判が良かった。

MIT CEP 2024スポンサー(CVC)

MIT CEPへのスポンサーを通じて、MITのみならず、ボストンを中心とするClimate-techエコシステムにアクセスすることができた。MIT CEPの運営チームの助けもあり、自社にとって戦略的に重要なスタートアップ、共同投資家候補等との接点だできた。

MIT CEP 2024スポンサー(VC)

世界トップクラスの大学発ベンチャーとの接点ができ、それを様々な形で活用しており、例えば、CEP2024参加スタートアップを自社が運営するファンドのLPに紹介するといったこともできた。

MIT CEP 2024スポンサー(VC)

最後に


Sally Kornbluth MIT学長(左から3番目), Bill Aulet教授(左端), Tod Hynes氏(左から4番目)

最終選考イベントには、米国東西からベンチャーキャピタルなどの投資家や企業人総勢200人超が集い、MITのSally Kornbluth学長、起業学のBill Aulet教授といった方々も駆けつけ激励をいただき、改めてボストンを中心とするClimate-tech ベンチャーエコシステムの深さに感銘を受けました。Deep-tech / Climate-techの分野での新しい技術が次々と生まれてくる波を肌で感じつつ、超優秀な起業家の方々、技術探索・商業化に本気で取り組む企業、さらには投資家と色々な方々と繋がることができ、非常に充実した1年間でした。

最後に、今回CEPの過程で、ご支援・アドバイスをいただきました皆様、本当にありがとうございました!
今後は新たな運営メンバーに引き継いで次のCEP 2025を見守る立場となりますが、もし「CEPにスポンサーしたい」、「何らか関わりたい」という方がいましたらお気軽にコンタクトいただければと思います!

なお、余談ですが、CEPの発起人であるTod Hynes教授が新たに立ち上げたスタートアップ(アーリーステージおよびレイターステージ)と顧客・投資家・パートナー候補をつなげるプラットフォーム「Great Global Innovation Challengeの手伝いもしております。こうした新たな気候変動関連の取り組みが次々と生まれてくるのがMIT・ボストンの面白いところだと改めて感じております。このGreat Global Innovation Challengeのスタートアップ応募は2024年5月26日まで可能ですので、ご興味ある方は是非ご応募ください(応募フォーム)!


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