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秋田・五城目が完全に日本の未来だった話 #シェアウィーク2023 スタディツアーレポート

「持続可能な共生社会の未来を考える1週間」というコンセプトでシェアリングエコノミー協会が主催し、日本の未来の希望となる”シェア”を1週間で学び尽くせる『SHARE WEEK 2023』。

今年から新たに始まった全国各地での体験型スタディツアーの一つとして、シェアエコ東北支部とシェアビレッジ株式会社さんの共催で秋田・五城目スタディツアーを11月10日(金)〜11日(土)に開催しました。

【“コモンズの再発明”を巡る旅へようこそ!ラーニングジャーニーin秋田・五城⽬】と題したこのスタディツアーは、築140年の茅葺き屋根の古民家を”村”に見立てて全国の村民が共同運営をしたり、「地域資源×デジタルファブリケーション×コミュニティ」で新しい集落を作ったりしている五城目町の取り組みを体感するものとなりました。

そんな秋田・五城目が完全に日本の未来だったという話です。


【秋田県南秋田郡五城目町とは?】

今回のスタディツアーの舞台であった秋田県南秋田郡五城目町は、秋田市より車で1時間弱の距離にある、人口約8,000人の緑豊かな農村地域です。

町内中心部では500年の歴史を持つ朝市(0・2・5・7のつく日)が開かれているなど、歴史ある文化や施設が多く残る地域でもあります。

しかし、秋田県は全国の都道府県で1位の人口減少率(総務省の調査より)で、五城目町でも直近3年間で8.59%減少するなど、大きな課題となっています。

少子高齢化、人口減少が進む日本において、「これからどんな未来を作っていくべきか?」と先陣を切って課題解決に取り組む地域の一つが五城目町です。

【シェアビレッジ株式会社とは?】

そんな五城目でコモニング(=暮らしの共有化)を中心となって進めるのが、今回のスタディツアーを共催した『シェアビレッジ株式会社』さんです。

「共有生活をはじめよう。」というコンセプトでまさに”シェア”を推進する企業で、全国各地の畑や図書館、民家などの運営に全国から参加できるコミュニティプラットフォーム『Share Village』を運営したり、その中心拠点として築140年の茅葺き屋根の古民家を”年貢”を納めた全国の村民と一緒に『シェアビレッジ町村』を運営したりしています。

2014年に五城目に移住した代表・丑田俊輔さんを中心に、五城目のコモニングを推進しています。

シェアビレッジ丑田さん

【五城目スタディツアーの内容】

今回の五城目スタディツアーは、シェアビレッジ丑田さんのアテンドのもと、地域で活躍するプレイヤーのコモンズ拠点を訪問し、五城目におけるコモニングの全体像を知るものとなりました。

シェアビレッジ町村

自己紹介やスタディツアーの全体説明をした後、シェアビレッジ株式会社取締役の半田理人さんより『シェアビレッジ町村』について説明をしていただきました。

以前から集落の住民が集まる集会所だった場所で、作物が採れたらここに持ち寄って皆で分けたり、ススキを皆で束ねたりして共助の暮らしをしていた歴史があるそう。

その歴史を受け継ぎつつ、デジタル村民といった形で現代のテクノロジーを駆使した新しい形のシェアを実践している拠点です。

シェアビレッジ町村外観
シェアビレッジ半田さん

BABAME BASE(五城目町地域活性化支援センター)

廃校となった小学校の校舎を活用した広々としたシェアオフィス『BABAME BASE』は、元々教室だった部屋を入居する企業が利用し、その企業同士のコラボレーションが生まれています

シェアオフィスと聞くとIT系の企業が利用しているイメージがありますが、美容院やドローンスクール、病院の診療室など地域のインフラ的な企業も入居しているのが特徴。

また、五城目町は東京都千代田区と姉妹都市で、千代田区の子供が一定期間五城目の学校に通える「教育留学」の仕組みについても説明いただきました。

都会と地方、それぞれで学べることがあるので、それができる仕組みがあるのは素敵なことですね。

ポコポコキッチン

BABAME BASE内にある地域食堂『ポコポコキッチン』では、「ポコポコ」というここでしか使えない通貨によってシェアの循環が生まれています

例えば、収穫した野菜をお裾分けしたおばあちゃんが「ポコポコ」をもらい、その「ポコポコ」でコーヒーを買うなど、お金をもらうことに抵抗がある人も「ポコポコ」を介して気持ち良く物々交換ができる仕組みになっています。

また、所有するポコポコを大人が寄付し、それを使って子供が「ありがとう」というメッセージを書いて飲み物などを買える制度もあり、「貨幣を介さないことで生まれるシェアの形がある」と学んだ時間でした。

ちなみに、「ポコポコ」はBABAME BASE事務室のおじさんの発案とのこと。

独自通貨「ポコポコ」(日本円より価値が高い値段設定)
子どもたちからの「ありがとう」メッセージ

ただの遊び場

ボルダリングかハシゴでしか辿り着けない『ただの遊び場』は、有休不動産をリノベーションした「大人も子どもも没頭して遊べる自由空間」。

木を打ち付けたり色を塗ったりしてもOKな壁や、登ったり滑ったり本を隠したりできる本棚、デジタルものづくりができる設備など、年齢問わず「遊び心」を解放できる場所になっています。

管理人で、町の議員も務める松浦真さんは、子どもたちが学校以外の地域やコミュニティなどで興味のあることを探究する学び方「ハイブリッドスクーリング」を推進しています。

『ただの遊び場』で遊び心を育んだ子どもたちが学びと実地を行き来して、中学卒業までに仕事を獲得する人材になるとか。

森山ビレッジ

2024年1月開業予定のネオ集落『森山ビレッジ』は、デジタルファブリケーション(デジファブ)を生かした住民参加型で作る新しいコミュニティ拠点。

秋田県産の杉を、デジファブによって建築人材でなくても加工することができ、組み立て方さえわかれば誰でも施設の施工に関わることができます。

5棟の小さな住宅を大きな屋根一つで繋いだ作りで、かつ「月の◯%だけ住む」というそれぞれのライフスタイルに合わせた住まい方が可能です。

建設プロセスにも入居にも「シェア」を実装しているこの森山ビレッジは、2023年春に実施したクラウドファンディングで600万円以上を集めてサクセスしています。

秋田県産杉

下タ町醸し室 HIKOBE

1688年創業で、五城目町の中心に佇む森山からの水で醸す「福禄寿酒造」の日本酒と風土を楽しむ交流拠点がこの『下タ町醸し室 HIKOBE』。

日本酒も販売しているカフェで、コーヒーなどの他に甘酒も提供しているなど、ほのかに酒蔵の香りを味わえる”ならでは”のカフェです。

隣接する「福禄寿酒造」は見学可能で、その歴史を知ると日本酒の味わい方も変わりそう。

日本酒の飲み比べもでき、夕食までしばらく時間があるのに日本酒に手が伸びる人が続出していました。

参加者が誘惑に勝てなかった日本酒飲み比べセット

湯の越温泉

参加者の宿泊場所でもあった『湯の越温泉』は、一般家庭にお風呂が浸透していなかった時代から地域の人のお風呂として存在していた歴史ある温泉。

2020年に一度閉業しましたが、温泉が町から減ることの衝撃や熱烈なファンが多かったことから、地域の有志が中⼼となって出資し合い合同会社で運営を引継ぎ再開しています。

ちなみに、その再開プロジェクトの中心人物で合同会社の代表となった女子高生社長(当時)は、このプロジェクトについてプレゼンした結果アメリカの有名大学に合格して、現在学業に励んでいるそうです。

五城目の”シェア”精神を感じながら入浴した筆者も、「温泉って何千年もの歴史があるシェアだよなあ」と再認識したのでした。

トークセッション&ネットワーキング

このように五城目のコモンズ拠点を訪問した後はシェアビレッジ町村に戻り、シェアビレッジ丑田さんとシェアリングエコノミー協会代表理事の石山アンジュ、同じく協会代表理事の上田祐司によるトークセッションを開催。

2023年8月に著書”多拠点ライフ”を出版した石山は「シェアが実装されたこれからの社会の形」について、丑田さんは五城目の取り組みを引き合いに「シェアが進んで物事の境界線があいまいになることの魅力」などについて、上田は「AIなどの技術が発達したからこその"土着な"生き方の魅力」について話しました。

五城目の地域の方が話す時間もあり、日中に地域を巡って感じたことをトークセッションの内容が結び付き、シェアの解像度が上がる時間となりました。

シェアリングエコノミー協会代表理事 石山アンジュ
シェアビレッジ丑田さん
シェアリングエコノミー協会代表理事 上田祐司(写真右)

トークセッション及びネットワーキングは、秋田名物「だまこ鍋」を囲んだアットホームな雰囲気で実施。

地域のプレイヤーの方々も集結し、秋田の味覚を堪能しながら、それぞれの活動や半生などを聞く交流の場となりました。

「家族全員の身長が近いから服を全員でシェアしている」「地域の皆に子どもをあやしてもらっている」などの面白いシェア話も飛び出すなど、盛り上がった夜も名残惜しく閉幕。

昔の人たちはこういう場所に集って皆でご飯を食べていたのかな」と、遠い過去の”シェア”を想像できるような時間でもありました。

【参加者&協会メンバーの感想】

このスタディツアーの参加者及び協会メンバーからは、以下のような感想をいただきました。

共助の上に成り立つ経済があると分かった。現地の人の葛藤も知って、来ないとわからないことが多かった。
(東京&秋田で2拠点生活をする参加者より)

このような原風景がなくなっていくのは寂しいと感じた。帰っておばあちゃんの家の障子を張り替えようと思った。
(青森在住の参加者より)

お金じゃない形の気持ち良いシェアがあると分かった。「相手の気持ちをどう汲み取るか」を自分の仕事でも探求したい。
(東京在住の参加者より)

地方出身で地元でも何かしたいと考えており、魅力をどのように伝えるかを考えるきっかけとなった。
(東京在住の参加者より)

【まとめ】

シェアリングエコノミー協会東北支部発の秋田・五城目スタディツアーの様子をお届けしました。

このレポートだけでは伝えきれない感覚や気持ちも正直ありますが、五城目のシェア文化が少しでも伝われば幸いです。

シェアは「最新の概念」というよりは、「世の中に古くから根付いていて、現代的な生活の中で人々が忘れかけている気持ちの拠り所」であると筆者自身感じました。

かつ、元々人類に備わっているシェアを五城目の人々は楽しんでおり、ここに前向きな「日本の未来」があるように思います。

高い割合で人口減少が進むなど社会課題も多い東北だからこそ、そこに住む人が気づかず自然に取り入れているシェアがある気がしたので、それを発掘し広めていけるよう東北支部で活動していきたいと改めて感じたスタディツアーでした。

【シェアリングエコノミー協会とは?】

シェアリングエコノミーとは、インターネットを介して個人と個人・企業等の間でモノ・場所・技能などを売買・貸し借りする等の経済モデルです。

モノ、スペース、スキル、時間などあらゆる資産を共有する「シェア」の考えや消費スタイルが日に日に広がりを見せています。

これからの日本経済の発展につなげられるよう、シェアリングエコノミー協会では、法的な整備をはじめ、安全な市場環境の整備に取り組んでいます。

詳細及び入会はこちらから:https://sharing-economy.jp/ja/city/council


文・写真:角田尭史(シェアリングエコノミー協会東北支部事務局長)

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