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組織構造としての官僚制について

現実の大規模組織は、多かれ少なかれ官僚制的なピラミッド組織になっています。組織を考える上で、官僚制の組織について、書籍を参照しながら、見ていきたいと思います。

参考書籍

今回取り上げるテーマの参考書籍は、「経営管理」(野中郁次郎 著、日本経済新聞社)です。

本書は、経営管理論について俯瞰で捉えた書籍となっています。
経営管理を組織と表裏一体の関係にあると考え、状況適応の経営管理という見方を提示しています。
下記図表を念頭に、通しで読むと、組織と経営管理の在り方の全体像を頭の中で構築できる内容となっています。

「経営管理」p.174 図6-1改編

今回は、本書より、組織構造における近代官僚制についてみていきます。

近代官僚制の特性

合法的支配を基礎として近代官僚制は次の特性をもった組織構造です。
(1)職務担当者の機能が、規則によって規定されている持続的な組織体で
   ある。
(2)組織における職務は、規定された権限の範囲内で行われる。この権限
   は分業化された機能を遂行するための責任権限を含み、その内容と行
   使は明確に規定されている。
(3)上位の職位が下位の職位に命令するという階層と階層的権限体系が存
   在する。
(4)職務の遂行は文書によって行なわれ、文書に記録される。
(5)職務活動を遂行するためには専門的な訓練が必要である。
(6)職務上の活動は職員の当該組織への専従化を必要とする。
ウェーバーは、これらの諸特性をもつ官僚制は、近代社会のあらゆる組織にとって技術的に卓越した管理構造であると考え、完全な発達をとげた官僚制機構の他の組織に対する優位性は、ちょうど機械が非機械的な生産方法よりもすぐれているのと同じである。正確さ、スピード、明確さ、書類についての知識、一貫性、慎重さ、統一性、厳格な従属、摩擦の排除、物的・人的費用の節減、これらは官僚制的管理において最高度に達するといっています。

「経営管理」p.26-27

本書にも記載があるとおり、現実の大規模組織は、程度の差はあれ、このような特性を具備しており、多かれ少なかれ官僚制的なものとなっています。

また、現実の経営管理にたずさわっていた、テーラー(科学的管理法)、フェイヨル、アーウィック&ギューリック、ムーニイ&ライリイなどの人々によって唱導された組織構造の原則は、古典的管理論と呼ばれています。

古典的管理論の主要原則

(1)スカラー(階層性)の原則
  組織の階層的構造についての原則である。ピラミッド型の組織におい
  て、トップから作業レベルまで責任や権限を明確に規定し、それによっ
  て命令の連鎖を一貫したラインとして確保すべきである。
(2)命令一元化の原則
  組織のメンバーは、複数の上司から命令を受けるべきではない。命令は
  常に、一人の上司から一元的に行われるべきである。
(3)統制範囲の原則
  特定の上司に報告すべき部下の数には限界があり、一人の上司が監督す
  る部下には適正な人数があるとする監督範囲適正化の原則である。統制
  範囲は3人から6人ともいわれるが、上司の能力、部下の能力、仕事の性
  質、管理方式などによってきめるべきである。
(4)専門化の原則
  組織の諸活動は専門化によって効率的に行うことができ、また分化した
  仕事に集中することによって専門化が可能になる。専門化の基準には、
  例えば、①活動の目的、②活動において用いられる手段、③活動の対象
  となる顧客ないし処理される原材料、④活動がなされる場所などがあ
  る。
(5)権限移譲の原則(例外の原則)
  反復的に生じる問題の決定や処理は、定型化された手続によってルーチ
  ンとして行われるべきであり、これらについての意思決定は部下に委譲
  すべきである。上司は、重要な問題や非定型的問題についての意思決定
  に重点をおくべきである。

同著 p.28

古典的管理論の原則は、対になった相矛盾する原則の提出が同時に可能であり、その場合、どちらを採るのがよいかの指針を提供していないと、ハーバート・A・サイモンによって批判されました。たとえば、(4)の専門化の原則をおし進めていくと、組織はますます分化し、(2)の命令一元化の原則とコンフリクトを起こすかもしれないというごとくです。しかしながら、これらの原則をよく見ると、実によく組織構造の本質をついていると思います。合理的な組織構造のメカニカルな面が、はっきりとえぐりだされてまことに見事です。

同著 p.29

官僚制は、組織活動が組織目標と機能的に結びつくように、細目が明確に規定され、職務間の摩擦、衝動的行為、個人的な関係が排除された組織活動の予測性と信頼性の高い組織となります。
しかしながら、このような合理的組織の理想型としての官僚制は、プラスの結果(順機能)とマイナスの結果(逆機能)を産み出します。

官僚制の順機能と逆機能

【順機能】
①組織の成員の行動は方針、規則、手続によって整合的である。
②職務は明確に規定されるので、職務間の重複やコンフリクトがない。
③権威の階層(監督)があるので、行動は予測できる。
④採用、昇進は専門的知識技能に基づいている。
⑤組織の成員はそれぞれの職務に専門化されているので、職務の専門的知
 識・技能を発展させられる。
⑥人よりも役職が強調されるので、組織の継続性が確保される(すなわち、
 個人の特性にかかわりなく、誰でも同一の役職を遂行できる)

同著 p.29-30

【逆機能】
①訓練された無能:行動を標準化し統制するための規則の使用は、規則の一
 人歩きをもたらし、意思決定に当たってきまった型をますます使うように 
 なり、その結果変化した状況に対応できないという「訓練された無能」を
 示すことになる。
②最低許容行動:規則は処罰をまぬがれる最低水準の行動を規定するので、
 規則が詳細にわたるにつれて、組織のメンバーは最低許容行動を知るよう 
 になる。確実性が高い場合には、規則はあらゆる状況をカバーするのでま
 だ効力を発揮するが、不確実性に直面した場合や特別な努力が必要な場合 
 に、規則はいわれたとおりやっていれば、非難されることはないという口
 実を与える。
③顧客の不満足:人間関係の非人格化を強調するため、個人のニーズや状況
 を配慮しないで一般的規則の適用を図ることになり、顧客中心のサービス
 を発揮できない。
④目標置換:目標置換は、元来最終目的達成を意図した手段としての活動や
 価値それ自体が目的となってしまう場合に起る。それが発生するプロセス
 は次のとおりである。
(a)反応強化行動=特定の規則が反覆使用され、それが成功して報償され
  ると学習反応となり、規則はそのために存在する目的とかかわりなく目
  的自体となる。
(b)非難の恐怖=組織のメンバーが、規則や手続きに従わないと非難され
  るという恐怖から、目標置換が起ることがある。
(c)部門目標=組織が部門に分割された場合に、部門のメンバーは、組織
  全体の目標より自分の部門の目標を主観化する。
⑤個人的成長の否定:効率を追求するための過度の分業と専門化の強調は、
 個人的成長と成熟したパーソナリティの発達を十分に許容しない。
⑥革新の阻害:この点はすでに以上の点に示唆されているが、(a)官僚制
 志向は保守的であり、新しい解決策は脅威である。したがって、組織の目
 標達成よりも組織内部のパワー、地位の配分に汲々とする。(b)革新に
 必要な建設的なコンフリクトは、トップ・ダウンの構造から正当と認めら
 れにくい。(c)効率のみを重点的に追求していくと、革新に必要な自由 
 資源の蓄積を許さない、
などである。

同著 p.30-31

組織についてどう考えるべきか?

官僚制の持つメリットとデメリットについて把握し、状況に応じて両者の巧みなバランスをとりながら、組織の成果を上げることが求められます。
このバランスは技術や市場などの環境によって大きく左右されます。

実証研究の結果から、組織変数と環境不確実性の関係は、
(1)環境が安定するほど組織の構造は公式化する
(2)組織の管理者は環境に対応する目標と時間志向を発展させる
(3)組織の業績は環境の要求する分化と統合を同時に達成することと関係  
   がある。
・・・(中略)
組織は環境との相互作用を通じて生存するオープン・システムであり、環境の要請に適合した組織構造を設計することによって、環境に適応する。ただし、環境の要請は、個々の組織によって異なるので、官僚制や古典的管理論のような組織構造の普遍妥当な原則はないといって、コンティンジェンシー理論という名前を普及させました。

同著 p.40

上記について、「(3)分化と統合を同時に達成すること」の部分について、組織を機能で分化した際に発生する部門に関する統合の構造アプローチについても本書に記載があるので、見ていきましょう。

①規則と手続きについて、事前に部門間の統合を決めておくこと。
②部門間に共通する階層(上司)を利用すること。
③部門間にタスク達成に結びつく目標やターゲットを設定するなど、計画に 
 よる調整を利用すること。
④問題に関与する管理者間での直接コンタクトを活用すること。
⑤相互に接触頻度のひんぱんな二部門間に連絡役割(リエゾン・ロール)を
 つくること。
⑥多部門に影響する問題を解決するタスク・フォースをつくること。
⑦部門間に常時発生する問題に対しては、恒常的な集団ないしチームを採用
 すること。
⑧統合部門を設置すること。
⑨マトリックス組織構造を採用すること。
・・・(中略)
以上の組織戦略は、①から⑨に移行するにつれて、組織の情報処理能力を加算的に増大させていくわけです。それは同時に、官僚制的(機械的)な統合戦略から、非官僚制的(有機的)な統合戦略への移行でもあります。

同著 p.159-161 一部抜粋

組織の構造的なアプローチとしては、環境に適応するため「古典的管理論の主要原則」をベースに、官僚制の順機能と逆機能を踏まえて組織を構築し、部門間統合については、統合の構造アプローチを段階的に導入していく。

本書における組織構造から見た経営管理について、上記流れで認識しています。

経営管理(マネジメント)を考える際、従業員のモチベーション、価値観、パーソナリティーといった個人属性やリーダーシップ、コンフリクトの解消といった組織過程をメインに置いてしまうことが多いのではないでしょうか。

組織構造は、個人属性、組織過程に影響を及ぼす要素となること、そして、そこには一定のロジックがあることを知ることで、環境に合わせて組織構造を調整しながら、個人属性、組織過程の相互作用の中で産出された組織有効性と、そこからの各要素へのフィードバック効果を観察し、常に変化させていくことが組織の継続において求められる、ということで今回のまとめとさせて頂きます。

本書における、組織構造、個人属性、組織過程の相互関係が理解しきれるまで本書を読み込むことが私自身出来ていないため、個人属性、組織過程の要素についても、別の機会にあらためて見直していきたいと思います。

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