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上司に覚悟がないのならマイナス査定はしない方がいい【人事評価の話し】

マイナス査定をするなら、上司の覚悟が問われる、そんなことを最近考えていたので、備忘録として残します。

最近、20代で年収2000万円も可能に、という記事が出ていました。

三井住友銀行が新たに打ち出した「年功序列を廃止する」などの異例ともいえる人事制度改革だが、一体どんなものがあるのか詳しく見ていく。

まず、デジタル部門など専門分野の人材には、年収5000万円前後の提示する。さらに、実績によっては20代でも年収2000万円も可能となる、年齢にとらわれない昇進も行うという。

https://news.yahoo.co.jp/articles/914904a013e2e5d2705eab4f520b2b46a70b106c?page=1

年功序列の廃止、中高年社員の一律減給廃止は、業界を超えて、従業員の処遇の変化のトレンドとなっています。

少子高齢化による採用難に直面する中、優秀な人材を確保するために、各企業が試行錯誤を繰り返しています。

優秀な人材に高い給料を払うためには、給与原資が増えない前提の場合、一定の割合の従業員の給料を減らすことが必要となります。

人事査定において降格・減給を制度として組み込む場合、取り扱い注意です。


✅分配の在り方が変化している

まず評価と査定が異なるという前提で話しを進めていきます。

上記記事で個人的意見を記載しておりますが、

私の考えでは、査定は、組織が向き合う「労働市場(採用市場)」からの調達コストをどのように考えるかだと認識しています。

「人事制度における評価と査定の違い」

今後は、限られた給与原資を
労働市場からの調達コストが高い人に対して優先的に分配し、
残りを調達コストが低い人で分ける形を取らなければ、
組織の生産性が維持できなくなります。

労働者の年齢分布の変化、
中途採用市場の出現と常態化、
AIを始めとした技術的な変化により、
労働市場からの調達コストが変わってきています。

調達コストが高い人は、若くて、かつ、変化に対応できる人材
調達コストが低い人は、老齢で、かつ、変化に対応できない人材

です。

よって、老齢で、かつ、変化に対応できない人材については、給与を減らさざるをを得ない状態です。

✅年配社員の理屈ではない感情

最近、政府主導の企業改革や賃金上昇、人的資本への投資などの対策が進んでいますが、それにもかかわらず何かが足りないと感じます。若いころは薄給でしたが、「おまえもいつかは給料がぐんと上がる」と言われて、サービス残業や休日出勤も我慢してこなしてきました。そこそこの昇給はしましたが、50代以降の私はかつての先輩たちの境遇と比べるとはるかにレベルが低いです。

 会社としては若い社員を厚遇し、新卒社員の初任給は毎年のようにどんどん上がります。まだ社会人になりたてで何もできない人に好条件を出す。一方、長く勤めてきた私に対して、心ない役員が「おまえは給料が高い」と言ってきました。定年後の再雇用制度はありますが、もちろん給料は下がります。副業も認めてもらえません。数十年間に及び会社に尽くしてきた時間は何だったのかとむなしくなります。世代によって割りを食う人たちが出てくるのは仕方がないかもしれませんが、どうも納得できません。どのように考えて生きていけばよいのでしょうか。

「昔は薄給に耐えたのに、年を取ったら若手厚遇……納得がいきません」より

『自分たちは、若い頃に薄給で働いた分、歳をとった今、高い給料を貰うことは、当然の権利だ。』

このように考えている年配社員の方は多く、
時代の変化に、年配社員の意識はついていくことが出来ていません。

✅マイナス査定=受け入れがたいもの

変化に意識が追いついていない年配社員に限らず、
会社がどんなに説明を行ったとしても、
喜んでマイナス査定を受け入れることができる社員はいません。

いかなる理由であっても、自分の給料の金額が下がることについて、ポジティブに受け止められる方、成長の機会だと素直に捉える方はいらっしゃらないのが現実です。

私はこれまで、50社以上の人事評価制度構築に携わってきましたが、

額面で5000円の昇給は、従業員にそれほどポジティブな影響を与えない、(上がって当然だと考える方がほとんど)

一方で

額面で500円の降給は、従業員の方に、かなり大きなネガティブな印象を与えます。(なぜ、こんなに頑張っているのに、今までよりも給料が下がる!)

特に、これまで減給が制度上なかった企業にとって、
減給を制度として導入し、
実際に減給を行うことは、
従業員からすると「人格否定された」ぐらいのインパクトがあります。

そのため、評価制度について、変更段階については、説明も必要ですし、減給制度を導入する際は、事前のシミュレーションや、テスト運用を繰り返し、1年ぐらいかけて導入することが望まれます。

✅業績ダウントレンドの際は慎重に

人事評価制度と等級制度、報酬制度を連動して変更する場合、
人事評価制度をどんなに精緻に作ったとしても、
報酬制度で、給料が下がると、従業員からの不満は必ず出ます。

逆に言えば、

大雑把な人事評価制度であったとしても、
従業員が何となく公平であると認識し、
なおかつ自分の給料が上がれば
変更時点での
従業員から制度に対する不満は出ません。

そのため、業績が下降し、給与原資が減る中で、
過半数の従業員の給料が減る形で、
評価制度と報酬制度を変更することは、
どんなに精緻な制度を作り、説明を尽くしたとしても、
従業員から不満が出ないことはあり得ないです。

そのため、特に報酬制度を変更する際には、
給与原資が従前よりも増やせるタイミング
(ベースアップとセットで実施する等)
で変更することが望ましいですし、

逆に、給与原資が従前よりも減るタイミングで変更する場合、
従業員の離職を想定し、
それでもこのタイミングで制度変更に踏み切るか否か
を検討することが求められます。

よって、マイナス査定を報酬制度に組み込む際の注意点は、以下の2つとなります。

✅注意点1:離職の可能性を考慮すること

これまで減給の仕組みがない中で、
報酬制度改定により減給の仕組みが導入され、
減給が発生した場合、

減給となった従業員は辞める可能性があります。

特に、従業員の側から見て、
減給の理由が、
自身の働きではなく、

「市場が悪い」
「会社の戦略が悪い」
「自部門以外の部署が足を引っ張っている」

といった他責に由来すると認識している場合、

自分の給与がこれから更に下がり続けるという発想となり、
離職に繋がる可能性が高まります。

これを回避するためには、
今後の勝ち筋をマネジメント側が明確に示すことが不可欠です。

それが『経営側の自責』と繋がります。

✅注意点2:経営側の自責

当社は赤字が続いているので、今回、皆さんの給料を減らします。
赤字なのは、皆さん一人一人の働きが、給与に見合っていないからです。
皆さん、危機意識をもって、この難局を乗り切りましょう!

このような発言をされる経営者の方はいないと思いますが、
万が一いたとして、
これを聞いた従業員はこう思うはずです。

現場は、上の指示に従って、朝早くから夜遅くまで頑張って働いている。
赤字なのは社長や幹部の経営手腕の問題だろ!

業績が低迷している原因を
経営と現場で擦り付け合っていても何の解決にもなりません。

大切なことは、これからどうするか?

という視点に目を向けることです。

そのためにも、まずは、経営側が自責で捉え、

これまで経営側は何を目指してきたのか?
そのためにどのような施策に取り組んできたのか?
結果として、その施策は、なぜうまくいかなかったのか?
これから、どこをどう修正しようと考えているのか?
そのために、メンバーには何を期待するのか?
その期待が果たされた時、経営側は、どう応えるのか?

これを明確に伝えることで、
会社のメンバーが同じ方向を向けるようにしなければなりません。

✅まとめ

環境の変化によって、
組織内の報酬における分配の在り方が変わります。

これが
プラスに働く人、
マイナスに働く人、

どちらもいるでしょう。

プラスに働く人とマイナスに働く人との間で、
分断が起こってしまったら、
組織は上手く進みません。

変化は必要です。

変化に上手く対応するために、
組織は制度を変更します。

この制度変更の際、
経営側は、
これまでの振り返りと、
あらたな方向性を指し示し、

その先に、どのような未来を描いているか、
ビジョンを共有することが求められます。

人事のトレンドに影響されて、
人事制度・報酬制度のみを変えることは、
組織の崩壊を招くことに繋がります。

これまで経営側は何を目指してきたのか?
そのためにどのような施策に取り組んできたのか?
結果として、その施策は、なぜうまくいかなかったのか?
これから、どこをどう修正しようと考えているのか?
そのために、メンバーには何を期待するのか?
その期待が果たされた時、経営側は、どう応えてるのか?

未来のビジョンを共有すること。

物事が上手くいっているときは、難しくないことですが、
物事が上手くいっていない時、ビジョンが共有できているか、

これは、組織が永続する上で、重要なポイントです。

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