見出し画像

山とともに ~リウカが紡ぐ優しい時間(前編)

“自分らしさとは何だろう?”あらためてそのことを考えさせられた今回の取材だった。
 水本篤志さんは“髭モジャ”で、一種独特な雰囲気を醸し出している。それに対して奥さんの瞳さんはオーガニックな装いだが、顔立ちがシュッとしていて端整。どこか都会的な雰囲気がある。お二人とも発する言葉が柔らかく、“聞き上手”で、取材に伺ったこちらの方がたくさんの話を聞いてもらってしまった。
 3歳の息子さんと猫3匹という家族構成の水本さん。住宅は当麻山スキー場を愛別方面に通り過ぎ、ちょうど当麻山の裏側に回り込んだ場所にある。「くるみなの散歩道から一番近い家じゃないですかね」と篤志さんは嬉しそうに話す。住宅は築65年というかなり年季の入った物件。リノベーションを施し、現在の形にした。元々6部屋に分かれていた1階は壁を取り払い、居間+キッチンに作業部屋2室とシンプルな構成にした。ロフトに生まれ変わった天井を見上げると柱や梁が建築当時の姿をのぞかせる。

梁や柱には建築当時の面影が残る


 居間と台所には一般住宅からは想像できない大きなカウンターが鎮座している。この住宅にはもう一つの顔がある。それは喫茶「リウカ」。アイヌ語で“橋”を意味するらしい。コーヒーやレモネード、ハーブティーなどが楽しめる。オーガニック栽培のコーヒーが出されるが、豆を挽いて落としたものではなく、お湯に溶かしたいわゆる「インスタント」。その代わり価格は全て1杯100円(!)。時間制限もなくお店を開けている時間帯であればいつまでいても良いそうだ。カフェというよりはこの場所を皆さんに開放している感覚らしい。「この場所が橋渡しの役割になったらと思っているんです。人と人をつないだり、人とものをつないだり…。セレクトショップとしての機能も持たせています」。

手の込んだものは無いが、飲み物は全て100円


 篤志さんは自宅の作業部屋でウエブデザインの仕事をこなしている。以前住んでいた札幌から続けている仕事だが、当麻に移住してからは少しづつ仕事の量とプライベートの時間のバランスをとるようにしているという。だから、たまにリウカのカウンターへ顔を出し、瞳さんとともに訪れる人との会話を楽しんでいる。

まさかここがお店だとは気づかない外観。


 篤志さんは大阪出身。大学では理工学部に所属しナノテクノロジーを学んでいた。しかし、突然思うところがあって大学を中退しフィリピンに飛んでしまう。「サブカルチャーに興味があって、イベントの手伝いやエクステの仕事などさまざまなことを経験するうちに、興味のあることに手を出
してみようという思いが強くなったんです」。その後、オーストラリアに2年、ニュージーランドに1年間住んだ。ニュージーランドでは中南米の人種が多い町に住んでいて、コミュニティにスペイン語、働いていたレストランの厨房ではポルトガル語、メニューはイタリア語、お客さんとの会話は英語というごちゃまぜ言語の生活を過ごしていたらしい。ちなみに瞳さんとはオーストラリアで出会っている。30歳直前で日本に戻り、長野県のリゾート地白馬で昼間はカナダ人が経営するヴィーガンメニューのあるカフェ、夜はオーストラリア資本のホテルでバーテンダーとして働いていた。しかし白馬での暮らしはしっくりこなく“やっぱり海外にでも…”と考えていた頃、交際していた瞳さんが北海道に住んでいたことから北海道に移住したという。
 瞳さんは旭川市出身。札幌の美容専門学校に通った後、ススキノでヘアメイクの仕事をしていた。瞳さんを追っかけてきた篤志さんの荷物はリュックと1箱の段ボールに入った荷物だけ。「何でも拾ってくるんです」と話すのは瞳さん。「捨てられていたスノーボードを持って帰ってきた時には“これどうするの?”って怒られました(笑)」とは篤志さん。
 (後編へ続く)