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愛が付き纏う

 ドラマ「グッド・オーメンズ2」の個人的な感想です。ネタバレあり。


 観葉植物を買った。ドーナツをやけ食いするために入ったショッピングモールで、安くてお洒落な雑貨屋さんを見つけたから。これで僕も人間になれるかもしれないと思った。せめて少しでも人間のふりを出来れば良い。

 そのおかげでドーナツをやけ食いする気は無くなり、フラペチーノと観葉植物を手に家へ帰った。甲斐甲斐しく世話をしてやるつもりだったが、彼はあまり水を欲していないらしかった。それで居心地の良さそうな場所を探し、ひとまず彼のことを忘れることにした。

 少し人間らしくなった心は、まだ観ていなかったドラマのことを思い出した。好きだったドラマのシーズン2。制作が発表された時から楽しみだったのに、いつの間にか人間らしく振る舞うのを辞めた僕は再生ボタンを押すことすら億劫になっていた。しかし今の僕は違う。意気揚々と再生を始めた。

 オリジナルストーリーだが原作のエピソードも盛り込まれているようで、僕は満足だった。少し文句があるとすれば、お目当てのバンドの曲があまり流れなかったことだろうか。しかし僕はショスタコーヴィッチも好きだ。

 僕は人間ではないのかもしれないが、天使でも悪魔でもない。永遠の命や信じるものやあるいは絶対にやらないことがある方が過ごしやすいのだろうか。よく分からない。何かの信念はあった方が良いような気はする。そして、ひとりくらいの良き友も。

 人間が作ったものの中には素敵なものがたくさんある。音楽や小説。僕は食べ物にそれほど興味があるわけではないけれど、それでも美味しいものは好きだ。特に酒は好きだ。酔わなくても色々な味が楽しめる。酔えば少々楽しい気分になるところも。
 天使と悪魔が地球に住み続ける理由が何となく分かる気がする。自分たちの所属場所は階級に気を遣わねばならぬ関係にと面倒事が多いだろう。一方地球はどうだろう。人間はあっという間に生まれては死ぬし、しかし興味深い。特に創り出すものが。だからきっとそちらの方が楽しいし、飽きない。

 特に悪魔は、悪魔になったくらいなのだから、上の考えていることに疑問や反感を抱くし、出来るだけ自由でいたいのだろう。そこにも共感できる。そしてその自由には孤独が付き纏うのも。
 結局他の悪魔だって下からの命令に従うあまり意志のない存在に過ぎない。究極的には全て上に存在しているらしい何かの計画のうちだ。偉い悪魔だって、偉い悪魔だからこそ、計画には忠実に。そんなのやってられないと思う悪魔にとって気の合う仲間はいない。

 天使は天使らしくもなく、そして一番天使らしい天使だろう。優しくて素直で、ユーモアもあり、知的好奇心が旺盛で。だからこそ上にこっそり逆らう、というより、気づけば逆らってしまうのだろう。悪魔にも分け隔てなく接して。

 悪魔にとって、そんな天使こそ唯一無二の友人だ。悪魔から見ればどことなく抜けていて実直すぎる天使、だからこそ自分の友人でいてくれる天使。何度喧嘩しても文句を言っても数百年経てばなにも変わらず接してくれる天使。

 きっと僕にそんな存在がいたら、思い切りわがままを言い喧嘩をふっかけるだろう。しかし困っていれば全力で助けるだろう。彼がいなくなれば、自分は孤独だから。

 悪魔も、本当のところは知らないけれど、そうしてただひとりの相手として文句を言いながらも隣に立ち続け、助け続けるのだろう。

 そんな関係に名前を付けるとしたら、そう、愛だ。あのくそったれ、使い古された意味のない言葉。結局使わざるを得ない言葉。

 偉い天使と悪魔も結局自分たちの関係にその名を付けることを了承してどこかへと去っていったのだろう。そして悪魔も、自分の心にあるその気持ちにとりあえず愛らしき名前をつけて愛を示すらしき行動を取った。

 人間は不便だ。せっかくの唯一無二の存在との関係に愛なんて陳腐な名前をつけなくちゃいけないなんて。しかし、天使と悪魔はもっと不便だ。そんな人間の使い古された名前を、借りてこなくちゃいけないのだから。

 僕はそんな野暮な真似はしないと思う、その前に、そんな相手は別に存在しない。いつか現れるなんて期待はしない方がいい。羨ましくないと言ったら嘘だけれども、でも望み薄だから。宇宙でいちばん孤独な悪魔には唯一無二の天使がいて、その関係を何が何でも繋ぎ止めるのかもしれないけれど、僕にはそもそも相手がいない。だから頑張りようもない。

 そう、愛、愛だ。愛はきっと、いつの間にかそこに存在しているものね。だから探すための努力なんて意味がなくて、失くさないための努力しか存在していない。それも失敗することはあるだろうけれど、そもそも愛を持たない存在にとってそれは。

 いつまでも愛、素敵な愛。世界は愛を手にしたことのある人間たち、もしかしたら天使や悪魔やその他の存在、のためにあるみたいだ。人間たちはそのためにたくさん素敵なものを創っては置いていったのかもしれない。

 いつまでもどこまでも付き纏う愛。僕みたいな人間になり損ねたやつにも見せつけられる愛。寂しい。羨ましくなんかない。努力なんてしたくないもの。傷つきたくない。傷つく。空っぽ、星ができる前の宇宙みたいな。

 いつか纏わり付く愛が僕の元にも現れるだろうか?僕は努力するだろうか?僕はその愛を失うだろうか?僕はその時涙を流すだろうか?

(Can anybody find me…?)

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