ほんの僅かな安寧を

 安心、という言葉の意味を少しずつ分かってきたような気がする。自分の存在や行動が許容される世界、そしてそれを信じることのできるこころ。それが安心なのだと思う。

 いまはたくさんのひとに囲まれて研究をしているけれど、みんな優しくて穏やかだ。それでも少し前までの僕はそんな優しいひとたちもいつか怒るのではと怯えていた。自分の行動ひとつひとつに悪い点を見出しては焦り、言葉ひとつ発するのにも勇気と無駄な思考を要していた。

 そんなことしなくていいんだ、と少しずつ気がつく。気がついている自分に気がつく。いつの間にか行動を起こすことに恐れがなくなって、自分が起こした行動によって相手の気分を害したかどうかなどと無意味に気にすることがなくなった。そんな自分に気がついた。たまにやっぱり気になることもあるけれど、自分で自分に「ここは大丈夫だよ」と言い聞かせるとすんなりと聞き入れられる。

 心地よい安心、とはこれ程までに優しく穏やかで楽しい世界だったのだ。僕はずっと怯えていたけれど、どうやら新しい世界に一歩踏み出せたみたいだ。

 そしてだからこそ、どんな人びとにも安心を、安寧を、と願う。そうでない世界を知っているから。

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