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目立ちたがりのサンタクロース

私はイベント事で盛り上がるのが苦手なのに、クリスマスだけは人一倍楽しんでいる自覚がある。アメリカで生活をしていたことのある両親が、クリスマスシーズンを大切にしていた影響だろう。秋冬の海外出張のお土産はツリーに飾るオーナメントが定番だったし、「クリスマスは家族で過ごすもの」という考えで、お正月に次ぐ一大イベントとなっていた。

我が家のサンタクロースは目立ちたがりだった。絵本によればサンタは子どもが寝静まってからに現れるはずなのに、我が家のサンタは子どもが起きている時間に堂々と2階からリビングにやって来て、自慢げに渾身の仮装と得意の英語を披露した。そして母親に、子どもたちとサンタクロースの記念写真を撮らせる始末。いつ思い出しても笑える自由さなのだけれど、その時撮った写真に写る私はサンタよりもプレゼントの赤い長靴に入ったお菓子に釘付けなのが、また可笑しい。幼い私は英語を話す白ひげのサンタクロースの正体を、疑うことはなかったらしい。大人になって写真を見ると、彼のまゆ毛はばっちり黒いのだけれど。

目立ちたがりのサンタクロースは、5年前の12月に突然逝ってしまった。クリスマスの1週間前のことだった。当時は2度目のアメリカ暮らしをしていたので、私もすぐにアメリカに行き、弔いの儀式も現地で行なうことに。法律も風習も違う国で、それでもどうにか彼らしい儀式にしたくて沢山の方々の助けを借りて、無我夢中で準備をした。そしてささやかだけれど、彼らしい最期のお別れの場を持てたのは、クリスマスイブのことだった。会場から家に帰って、クリスマスソングをかけた。それを聞いた母は、悲しみと切なさを吐き出す様に、「今日はクリスマスイブなの?」とつぶやいた。

それからも毎年、私と家族はクリスマスシーズンを楽しんでいる。かつて彼がくれたクリスマスグッズを家に飾り、プレゼントを贈り合い、出来る限り一緒に食事をする。5年前から私たちにとっては、クリスマスはただただ楽しい日ではなくなってしまったけれど、大切な人のことを想う本来の楽しみ方にはより近づいている気もする。悲しみと向き合いながらも、うきうきしながら家族のためにプレゼントを選び、おいしい料理やケーキを準備する。クリスマスソングやイルミネーションに心が弾み、悲しみは和らいでいく。

それもこれも、クリスマスに並々ならぬ気合いを入れていた、目立ちたがりのサンタのおかげだ。

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