冷凍庫なんか壊れようが気にしない
(会社をつぶしたくてたまらない男たち)
暑くなる時期になると、冷凍庫のことを思い出す。とても頭を悩まされたからだ。
ぼくが一緒にやっていた業者は、ずさん経営の影響から絶えず金に追われて自転車操業だったので、設備にまで金がまわらなかった。社員たちは給料の心配をしていたが、社員でない場所借り同業者のぼくにとっては工場内の故障が最も気になるところだった。
6月になって30度越えの日が続くようになると、とにかく冷蔵、冷凍庫の心配をしなければならなくなる。外気との差が大きくなって負担がかかると、壊れやすくなるのだ。
早朝、いちばんで着くと、まずは冷蔵庫と冷凍庫の温度計を見る。それが癖になっていた。冷蔵庫がだいたい2度くらい、冷凍庫がマイナス30度くらいに設定してある。壊れやすいのは冷凍庫の方で、朝に温度計を見るとマイナス10度くらいになっていることがよくあった。
マイナス10度は冷たいが、在庫の保管としては緩い温度だ。これくらいしか効かないと、日中は開け閉めをするので0度より上がってしまう。
社長Aに言うと、「そうか、まいったなぁ」などとのんびり言う。ぼくの商品の100倍くらい冷凍庫に入っているのに、たいして焦らないのだ。なんとか冷蔵機の会社に連絡してもらい、修理を頼ませる。修理代金がたまっているので、ぼくはいつも、来てくれないんじゃないかと心配していた。しかし不思議と、文句を言いながらも冷蔵機屋が来るのだ。
「今回ばかりは払ってもらうよ」、と作業に入る前に言い、社長Aも「分かってる。大丈夫だよ」と言うのだが、いつも払わない。払わない方は払えないのだから繰り返しても仕方がないと思うが、払ってもらう方がこのやりとりを繰り返すのが、ぼくはとても不思議だった。来ていた冷蔵機屋は、とても金回りがいいようには見えなかったのだ。
効きが悪かったところに持ってきて、修理の作業で冷凍が止まる。だからぼくはいつも、こうなったときは自分の商品を奥の方に移動させていた。そうすれば1日2日は回っていなくても大丈夫だからだ。でも整頓されていない冷凍庫の中で移動させる作業は、とても大変だった。
冷蔵機屋は大抵2、3時間で帰っていった。老朽化した冷凍庫なので、ガスがどこかから抜けていて、ガスを入れるとしばらく持つのだ。冷蔵機屋が帰ってしばらく閉めたままにしておくと、温度が下がり始める。通常の温度に近づくと、ぼくは再び取り出しやすいように自分の商品を入り口近くに移した。社長Aの商品はけっこう冷凍が緩くなっていて、これを売りつけられた業者はかわいそうに、と、いつも思っていた。
そういったやり取りがしばらく続いていたが、結局最後は電気を止められたので冷凍庫が使えなくなってしまった。ぼくは他に商品を移し、そこで夏の悩みの種からは解放された。
その頃はもう事務員もいなくなっていて、ぼくは郵便配達がポストに入れた郵便物を事務所に運んで選り分けてあげていたが、毎月必ず冷蔵機屋からの請求書が届いていた。おそらくは、冷蔵機屋への修理代は1円も払われていないと思う。
駄文ですが、奇特な方がいらっしゃいましたら、よろしくお願いいたします。