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狙われる、独身男

(赤の他人の食事を作る・その3)
 
 Hさんのいいところは、偏食でないところ。けっこう独身男は食べ物の好き嫌いが激しいが、Hさんは出されたものはなんでも食べる。そのHさんに、食べたいものをリクエストすると、
 
「こんにゃくって身体にいいんだよね。今度こんにゃく使った料理にしてよ」
 
 と、来た。
 
 この言葉に、ぼくはフクザツだ。肯定的な面と、否定的な面で。
 
 このリクエストへの回答は、何度目かのことだ。これまでリクエストは何度かしているが、「カレー」、「スパゲティ」、「カレー」、「肉のみそ炒め(多分ホイコーローのことだと思われる)」、「スパゲティ」、「カレー」、「カレー」という感じだった。順序は忘れたが、こんな感じだ。
 そのたびに、ぼくは「却下」。ひょいと作れば、添加物が大量に入ってしまうメニューばかりだ。まさか、いくつものスパイスを購入してカレーを作るわけにはいかない。
 
 だからHさんの「こんにゃく料理」という回答は、次点の次点といった意味合いの発言なのだ。それでも、こんにゃくを選んだのは進歩とも言える。ちょっと勉強したのかもしれない。
 
 しかし反面、安直だなぁとも思う。「○○が身体にいい」。なんとも大雑把すぎる。
 こんにゃくは、たしかに身体にいいだろう。脂たっぷりの肉よりも、お菓子やレトルトよりも。それは間違いない。
 しかしそれは、こんにゃくを買ってきて、自分で作った場合だ。
 Hさんは、自炊はいっさいしない。聞けば、こんにゃくを料理するときにあく抜きをするということも知らなかった。
 そういう人の、「こんにゃくは身体にいい」という言葉。ぼくが食品加工業者だったら、Hさんのような人間はターゲットと考える。「こんにゃく○○」と商品名に入れれば、「こりゃ健康的だ!」と飛びつくからだ。もちろん、ちょっと割高にしても大丈夫だ。
 
 Hさんのような、ちょっと健康面で不安を抱える独身男は、食品メーカーのいい金脈だ。いいイメージを打ち出せば、食いついてきてくれる。
 こんにゃくが身体にいいのは、まぁ確かだ。しかしその「こんにゃくなんちゃら」が、ちゃんとこんにゃく本来の栄養を逃がさないように取り込み、それ相当の量を製品に取り込んでいるかは別の話だ。ほんのカス程度含ませ、ラベルにはこんにゃく本来の効用を記載するということもできる。
 
 なによりHさん、サプリを買い込んでいる。健康を促す記述あるサプリだ。
 ぼくはときおり、「サプリを飲んでるけど、数値が改善されなくて」と真顔で言われて返答に困ることがよくある。世の中の勝ち組は、ぼくのように困った顔で返答に窮しないで、ビジネスのヒントにするのだろう。
 
 ぼくにできるのは、しっかりアクをぬいたこんにゃくを使った料理を運んでいくことくらいだ。野菜の料理とともに……。

 
 

 

駄文ですが、奇特な方がいらっしゃいましたら、よろしくお願いいたします。