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彼女のパンツを嗅がせてもらってケンカになった話


20代、雰囲気は淑やかでクールな彼女と付き合って数ヶ月、ホテルで無造作に愛し合って、いちゃいちゃ押し倒したり押し倒されたりしていると、


たまたま顔の近くに彼女が脱ぎ捨てた黒い下着がありました。


思わず見惚れると、彼女が妖艶に微笑みます。


「嗅ぎたいの?」


最愛の人の下着です、嗅ぎたくないと言えば嘘になる。彼女が朝から一日履いていた下着に鼻をうずめ、自分の顔に押し当てました。


夢中になっていると、彼女の甘くも凛とした声が降ってきます。


「ねぇ、どんな匂いがする?」


陶酔しながら僕は答えました。


「とっても良い、磯(イソ)の匂いがする、、、!」


「ふふふ、そっか、磯の匂いか、、、」


彼女は笑って、



「ちょっと待って磯の匂い!!??」


すぐに声がひっくり返りました。凛とした立ち振る舞いはどこへやら、顔もおもちゃ箱がひっくり返ったみたいになっています。



「失礼! 磯は絶対に失礼! 磯は彼女に言う言葉じゃない! 生臭いってことじゃないのよ!」


ふざけて怒ってるのかと思ったらまあまあ本気で怒ってる。完全に愛し合う雰囲気が終わったので、慌てて僕は言い分を聞いてもらいました。


「むかしリリーフランキーとみうらじゅんの対談で、女性器の匂いはチーズ系と磯系に分かれるって話してたんだよ。当時俺は童貞の子どもだったから、そうなんだあって強く残ってて。それでチーズか磯かだったら、磯の匂いだったから磯って答えたの。その感じだったら、チーズって言われても嫌だったでしょ?」


「嫌に決まってんでしょ!」


「だよね。だから悪く形容したかったわけじゃないのよ。俺の中で初めからその二択が刷り込まれてただけで。磯の香りでも俺は好きだから」


「だったら磯系だったとしても、もっと美しい表現に喩えなさいよ!」


嫌な匂いと思ってるわけではないと伝えるも、彼女の苛立ちは治りませんでした。そこからは喩えの連発!


「たとえば沖縄のエメラルドビーチの匂いとか!」

「たとえば海辺のホテルのオーシャンビューの部屋で窓を開けた時の匂いとか!!」

「たとえば海の家の高級海鮮バーベキューの匂いとか!!!」


海鮮バーベキューって言われて本当に嬉しいのか? と訊いたらちょっと考えてそれはやっぱり嬉しくないと言われました。馬鹿すぎる。

「あんたのあそこなんて、海の端でひっかかってるイカのゲソの切れ端なんだから!!!!!!」


とうとう僕のものまでディスられて、その日はセックスするムードじゃなくなり、休憩3時間も終了してしまい、二人でそそくさとホテルを後にすることに。


「最悪の失言したんだから、今日はちょっといいとこ連れてってよね!」


帰りに繁華街で夜ご飯を探そうとすると、彼女がぶっきらぼうに口をとがらせます。

「わかったそうする。いいとこにしましょう」

そう言いつつも看板が目に入ってしまったので、絶対に言いたくなってしまいました。


「よし今日はあのお店にしよう!!!」


いじってんじゃないわよ!と思いきり背中を殴られました。


謝って焼肉屋に連れてゆきます。そこでも彼女は、「このはしわたるべからずの一休さんは好きな女のあそこの匂いを水仙の花に喩えたらしい。一休はお前と違って絶対にモテる。室町時代にタイムスリップして一休に抱かれたい」と憎まれ口を叩き続けるのでした。



最高の彼女でした。




別れたくなかったな。




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