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Go We“Z”t(ゴー・ウェズト)

ゾンビだ。
ウイルス?宇宙からの怪光線?某国の生物兵器?
一市民の俺に聞いたって何がどうしてこうなったのかなんて“分からない”としか答えられないんだが、少なくともこのビッグ・アップルを中心に東海岸は腐り落ちた。ニュースの受け売りだがね。

しがないパルプ小説作家の俺は締め切りをぶっ千切りで破っちまった。
数日の徹夜の末になんとか出来た原稿を編集部に送信するが…返事は無い。
電話には一応出てくれたが不気味な唸り声がするだけだった。
流石に直接詫びくらい入れておくか…とアパートを出たらヤツらに出くわしたって寸法だ。

死ぬほど驚いたんだが声は出なかった。
いや出たんだがソレは「Uuunngg」って呻き声だった。
成る程、襲われない訳だ。
耐性があった?部屋に籠る生活が影響して進行が遅れた?まあ分からない。
つまり俺も“殆ど”ゾンビになって居たんだな。

街は完全にヤツらで埋め尽くされていた。
生きてる奴が襲われるってのは今のところ見掛けなかった。
見掛けないだけでこの広いマンハッタンの何処かで自由や尊厳の為に戦っている奴らが居るのかも知れないし、単に襲う対象が居ないだけかも知れない。まあ、それを確かめる気も無かったが。

ヤツらを観察してみて分かったが共食いはしない様だ。
あとどうもヤツらは生前の行動や欲求に引きずられて動いて居る様に見えた。
売る相手も商品も無いのにホットドッグ露店の男は毎日ただ突っ立っているし、セントラル・パークじゃ日光浴してるヤツやゾンビ犬と散歩するヤツがいた。相手がゾンビでも女と見るや押し倒そうとするヤツも居た。


俺も何れああなっちまうのかもな…
そう考えて居たら気付けば車に乗っていた。
なんとか運転は出来そうだ。俺はまだ完全にヤツらの側に落ちちゃいない。

今、俺を突き動かすのは原稿を書き上げた後に沸き上がる欲望。
CORONAが飲みたくなったんだ、西海岸の輝く太陽の下で。

約2500マイル彼方を目指して。

【続く】

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