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医者/殺人鬼/探偵

「犯人は…貴方です!」
探偵はホールに皆を集めると高らかに宣言した。
(違う!犯人は私だぞ!?)


第二次アフガン戦争に軍医として従軍した私は七月の末、陣地に着弾した砲弾により負傷。生死の境をさ迷いながらも本国へと送還された。

何れ開業医としてやっていくつもりだったが、先ずは家賃の安い下宿に腰を落ち着ける事にした。一人で住むには少し広いが大家の作る食事は美味いし十分満足と言えた。

私は病院に勤める傍ら、夜歩きに没頭した。
瓦斯灯が普及したといっても夜は未だ暗く、意外と労せずして“いけるな”と思ったら殺し、気が向けばバラバラにしたりした。

だがなんという事だろう!
無能な新聞は夜の街角に立つ女たちの被害ばかりをセンセーショナルに報じ、他の男女の死には全く気付かない様子だった。そして何時しか付いたあだ名が“切り裂きジャック”という低俗極まりないものであった。
新聞やヤードはその犯人探しに躍起になり、人々はティータイムだというのに血生臭い話題に口角泡を飛ばす有り様だ。

だが怒りは無かった。
ただ世間とはそういうものかという諦観の念だけがあった。

「成る程、君は面白いね」
私の口から私では無い声が喋った。
「ふむ、演劇の様に観客に何かを伝える…そうだな言わば劇場型殺人!君はそういうのでも無く、ただ気の向くままに殺したのに世間はそこにメッセージ性を見出だそうとしている…面白い!」
(誰なんだお前は!)
「私は“概念”だ。隠された謎を解き探し偵うモノの概念。そして君自身だ」
(私は気が狂ったのか!?)
「君は狂ってなどいないよ。至って正常だ」
(どうする気だ?出頭し私が切り裂きジャックですと言うつもりか?)
「そんなつまらない事はしないさ!私は君に興味が沸いたんだ!悪意も何も無く人を殺める君にね!そこで考えた!私も悪意なく、ただ事件に介入する事で結果をねじ曲げ、ソレが出来ないかとね!」

(謎を解き明かす概念が結果を変えるだと?)

【続く】

【追記 2019/11/04】
ヘッダー画像をきょくなみイルカさんに描いて頂いたファンアートに差し替え致しました。ありがとうございました。

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