見出し画像

パルプエッセイ・カッパドキアで星を見上げて飲む“午後の紅茶”

私がトルコのカッパドキアに嫁いで来て4度目の冬が訪れようとしている。

旦那が亡くなって今は義母と二人、ここで観光客相手の土産物屋と日本人相手のガイドをやっている(洞窟ホテル経営もしてみたかったのだが景観そのものが世界遺産なので勝手に手を加えると…牢屋行きだ)。

トルコと言えばトルココーヒーが有名なのでそちらを思い浮かべる方も多いと思うが、実はそれよりも普段トルコ人が飲んでいるのは紅茶…チャイだ。

トルコのチャイはインドのチャイとは違い、ストレートティー、若しくはアップルティーが一般的だ。人の家でも雑貨屋でも行けばまず最初にソレが出る。だから一日に何度も飲む事になる。同時にこちらも来客に逐一作らなくちゃいけないので自然とインスタント(日東紅茶の粉末のレモンティーみたいなモノ、と言えば伝わるだろうか?)になる。
まあ、ここカッパドキアは年中乾燥しているので水分は取って取り過ぎという事は無い。

そんな日常、当たり前になっているチャイ…紅茶だが、私の人生にとって掛け替えのないモノになっている。

まだ大学生の頃、私は一人この地に観光に来た。
その時ガイドをしてくれたのが旦那だった。
「日本でもこんなに紅茶を飲みますか?」
と彼が言うので、
「日本人も結構飲むよ?こっちの人が飲むネスティー(ネスレの缶で売ってる紅茶だ)みたいな感じで午後の紅茶っていうのが売ってるよ、何処でも売っててみんな飲んでる」
「知らなかった!まだ行ったことないけど何時か日本に行ったら飲んでみようと思います!」
「おいでおいで!今度は私が日本を案内してあげるよ、お礼に午後の紅茶も私が奢ってあげる」
…って感じで、彼が日本に来て、私がまたトルコに行って…みたいなのが続いたのが私たちの馴れ初め。

彼と一緒になってからの特別な一杯と言えば、仕事が終わった後…特に春から夏にかけては(この世界遺産都市は世界中から観光客が来るのでてんやわんやだ)家の屋上の桟敷(絨毯を引いてある、雨は滅多に降らないのだ)で星を見上げながら飲むチャイだ。この時ばかりはちゃんとした茶葉で淹れる。

まるで異世界…別の天体で夜空を眺めている気分。
あの当たり前の、何時までも続くと思っていた時間こそが宝物だった。

今年もオフシーズンの冬がやってくる。
私は鉈を磨き、銃の手入れをして、今年も地下都市の観光客の立ち入り禁止区域に入っていく。
あのイヌの様な顔をした蹄のある生物…旦那の仇、グールを狩りに。

そしてその首を墓前に手向けて、私の一年が終わる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?