㉗ 第3章「躍進、躍進 大東映 われらが東映」
第5節「大衆娯楽主義 東映オールスター映画」
1956年1月15日、東映創立5周年記念作品『赤穂浪士 天の巻 地の巻』松田定次監督が初のイーストマン東映カラーで公開され、大ヒットしました。
片岡千恵蔵、市川右太衛門、月形龍之介、日本の時代劇を代表する三大スターをはじめ、綺羅星のごとき東映スターの面々が一堂に出演する大作は「東映オールスター映画」と呼ばれ、ここから1963年『勢揃い東海道』松田定次監督まで東映の盆正月を飾る名物企画となります。
映画村開村時の資料収集で大変お世話になった映画史家御園恭平先生は、日本映画界で「オールスター」という言葉が初めて登場したのは、1925年11月公開日活尾上松之助主演『荒木又右衛門』の宣伝文句で使われた「オールスターキャスト」である、と述べられています。
この作品では松之助以下これまでの日活第一部時代劇スターに加え、第二部現代劇のスター、そして松之助の後継者として入社した河部五郎など新スターも出演し、「オールスターキャスト」という新語を考案、宣伝に使用しました。
翌1926年4月、日活は全精力を注ぎ、尾上松之助主演『実録忠臣蔵』池田富保監督を製作、大ヒットすると、ここから大石内蔵助を中心に様々な登場人物が活躍する「忠臣蔵」はオールスター映画の定番となり、その後今日に至るまで映画・テレビで数多くの忠臣蔵が作られました。
東映オールスター映画では、1956年1月『赤穂浪士 天の巻 地の巻』、1959年1月『忠臣蔵 櫻花の巻・菊花の巻』、1961年3月『創立十周年記念 赤穂浪士』の3作の忠臣蔵映画が公開され、すべて牧野省三の息子松田定次が演出を担当、松田は東映オールスター映画全12作のうち10作を手掛けた東映オールスター映画の代表的な監督となります。
1957年1月には『任俠清水港』から片岡千恵蔵が清水次郎長役で主演する『任俠シリーズ』が始まります。1958年1月『任俠東海道』、1960年1月『任俠中山道』、1963年1月『勢揃い東海道』と全4作、これも松田定次が監督しました。
忠臣蔵の赤穂浪士四十七士と同様、次郎長物は清水一家二十八人衆と吉良の仁吉など様々な登場人物が登場するのでオールスター映画に最適でした。
東映オールスター映画12本のうち残りは1957年月形龍之介映画生活38年記念『水戸黄門』佐々木康監督、1958年市川右太衛門三百本出演記念『旗本退屈男』松田定次監督、1959年市川右太衛門主演『決闘水滸伝 怒涛の対決』佐々木康監督、1960年月形龍之介主演『水戸黄門』松田定次監督、1962年片岡千恵蔵主演『天下のご意見番』松田定次監督です。
1956年『赤穂浪士 天の巻 地の巻』、1962年『天下のご意見番』の主演タイトルは片岡千恵蔵ですが実際の主役は大石内蔵助・市川右太衛門、大久保彦左衛門・月形龍之介でした。
東映オールスター映画に出演した人気俳優は、娯楽版出身の中村錦之助、東千代之介、伏見扇太郎、大川橋蔵、尾上鯉之助、南郷京之助、里見浩太郎、松方弘樹、北大路欣也といった東映京都撮影所生え抜きの若手スターばかりではありませんでした。
大友柳太朗
千恵蔵、右太衛門、月形に次ぐスターの筆頭は、新国劇で辰巳柳太郎に師事、「柳太郎」の名前を譲り受け、新興キネマで主演デビューした大友柳太朗です。
大友は新興を統合した大映から1949年東横に入り、東映娯楽版や『快傑黒頭巾』シリーズなどに主演、豪快な殺陣と朴訥な人柄が大人から子供まで幅広く人気を集め、1957年には日本初シネマスコープ総天然色映画『鳳城の花嫁』に主演、三大スターに続く地位に昇りました。
大河内伝次郎
映画館入場者が11億人を超えた1957年には、戦前、日活の大スターで、戦後は大映、新東宝、宝塚、東映などフリーで活躍していた大河内伝次郎が東映に入社、脇にまわりいぶし銀の演技で数多くの作品に助演します。
中村賀津雄
1955年主演デビュー以来松竹の若手スターだった中村賀津雄は、1958年1月、兄・中村錦之助主演の『おしどり駕籠』マキノ雅弘監督に出演、翌月東映娯楽版『少年猿飛佐助(三部作)』河野寿一監督に主演し、『殿さま弥次喜多シリーズ』で兄とも共演、東映でも若手スターとして活躍します。
若山富三郎
そして、1959年、翌年の第二東映発足にあたり新たな主演スターを必要とする東映に、他社時代劇主演スターが集まって来ます。
経営不振の新東宝からは1955年『忍術児雷也』でデビュー、『人形佐七捕物帖』シリーズで主役を演じていた若手スター若山富三郎が入社、大映勝新太郎の兄の若山は、7月『怪談一つ目地蔵』深田金之助監督で東映主演デビューしました。
黒川弥太郎
10月には、戦前日活太秦発声にて主演デビュー後、東宝、新東宝、大映で数多くの作品に主演の時代劇スター黒川弥太郎が移籍、翌1960年3月1日公開第二東映第1作『次郎長血笑記 秋葉の対決』工藤栄一監督に清水次郎長役で主演、8月のオールスター映画『水戸黄門』に出演しました。
近衛十四郎
第二東映が誕生した1960年2月、松竹主演スター近衛十四郎が『あらくれ大名』内出好吉監督・市川右太衛門主演に参加、3月公開『砂絵呪縛』井沢雅彦監督で東映主演デビューし、翌年、第二東映改めニュー東映『柳生武芸帳』井沢雅彦監督がヒット、スピード感あふれる迫力ある殺陣が話題になり、シリーズ化します。近衛は東映創立十周年記念オールスター映画『赤穂浪士』に剣豪清水一角役で出演しました。
高田浩吉
6月には松竹時代劇で長年にわたりトップスターを務めてきた高田浩吉が移籍後『旅の長脇差 花笠椿』小沢茂弘監督に東映初主演、その後、ヒット作『伝七捕物帖』など数多くの東映作品に主演するとともに最後のオールスター映画『勢揃い東海道』にも大政役で出演しました。
東映オールスター映画は新旧幅広い時代劇主役集団と敵役集団で構成された集団群像劇で、主役層の厚みに匹敵する敵役層の厚みが要求されました。