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【創作大賞2023】水戸黄門拉麺漫遊記 3杯目「上州・放蕩息子の帰還」【漫画原作部門】

【上州(群馬)の宿場】

黄門一行が、宿場を歩いてきている。蕎麦屋の前にさしかかる。


【蕎麦屋の前】

男の声 「こんな不味い蕎麦が喰えるかよっ!!」

店主 「なんだと!?」「文句あるなら、出ていけ!!」

男は店主に蹴りだされ、光圀に激突する。

 「おっととと、すまねえな!!」「この店の蕎麦、太さがバラバラでよ」「(店に向かって)ヘタくそー!」

塩が飛んでくる。

 「(腹が鳴る)いや、わりいな」「いくら腹減ってても、食えねえもんは食えねえよ」

光圀 「これも何かの縁だ」「飯、一緒に食うか?」

丸助 「いいのかい?!」


【小料理屋】

食事しながら。

丸助 「じいさんたちは、何もんなんだい?」

光圀 「あー、俺たちは、水戸から来たちりめん問屋だよ。隠居して、諸国をぶらぶらしてるって寸法さ」

丸助 「気楽でいいねー」

光圀 「丸助、蕎麦にうるさいんだな」

丸助 「御蕎麦板前って知ってる?」

光圀 「聞いたことねぇな」

丸助 「ま、庶民は聞いたことがねえかもな」

助三郎 顔がひきつる

丸助 「ここ前橋藩藩主・酒井忠孝様専属の蕎麦職人のことだよ」「上州の料理人の中で身分が一番高いんだぜ」

丸助 「実は、俺、その御蕎麦板前の息子なんだけどな」「後継修行が辛くて、逃げてきちまったんだよ」「伝統ってのも、性に合わなくてね」

丸助 「ご隠居さんには分からないだろうけど」「家を継ぐって、大変なのよ」

助三郎 (さらに顔がひきつる)

光圀 「だ、だろうな」

格之進・八兵衛 白目

丸助 「そんなわけでさ、家を出ちゃって4年も経つんだけどね」「親父も歳だし、心配でさ」「帰って来たものの、足が重くてよ」

光圀 「帰った方がいいぜ」「顔を見せてやんな」

丸助 「一緒に来てくれる?」

光圀 「子供かよ」


【白井長右エ門屋敷】

黄門一行とともに、丸助が門を叩く。

門人 「わ、若様!!!」

丸助 「お、、、おう、久しぶりだな」「ずいぶん、ガランとしてるじゃないか」「他の弟子たちは、今日は用事にでも出てるのか?」

門人 「なにをされていたのでございますか!?」「家元が、、、」

丸助 「?!」

丸助走って、父親の部屋に。横たわる父の顔には、白い布が。

丸助 「父上!!」

門人 「つい先ほど、お亡くなりに」

丸助 「なんと!」「(号泣しながら)すみませぬ、父上」

門人 「家元は、昨年の暮れに倒れられて」「丸助様は、どこに行っておったのです?!」

丸助 「すまぬ」

門人 「御蕎麦板前は、与五郎殿が継ぐことになりますぞ」

丸助 「なんだって?!」「弟子の与五郎が、なぜ?」

門人 「家元が倒れられた後、丸助殿がいないのならば、と」「家元は、丸助様に名前を継がせようとされておりましが」「いよいよ酒井忠孝様の前で、名前をかけた蕎麦勝負をすることになってしまったのです」「その矢先に、、、」

丸助 「なんてことだ、、、」

与五郎と一門の弟子たちが部屋に入ってくる。

与五郎 
「おおお、これは丸助様!」「なんということに、、、」

与五郎 「(長右エ門の枕元に土下座し)白石長右エ門の名は私めがしっかりと継ぎます」

門人 「お名前は、丸助様が」

与五郎 「(門人の方を向き)、、、なに?」「丸助殿は、蕎麦の道を捨てられた」「もはやその資格ありますまい」「なあ、丸助殿?」

丸助 「しかし、、、父上が、、、」

与五郎 「その名前は、軽くありませんぞ」「ならば、やはり御前試合で決着をつけましょう」


【屋敷台所】


門人 「家元から、丸助様に秘伝書を渡すように仰せつかっています」

丸助 「(神棚をあさる)なにもないぞ、、、」

門人 「そんな馬鹿な!」


【与五郎の屋敷】

与五郎 「(秘伝書を手にして震えている)なんと、、、このような技があったとは」「これで、私の勝ちは揺るがぬ、、、」


【白井長右エ門屋敷】

門人 「恐らくは、与五郎のやつが、、、」

光圀 「真正面からじゃ勝てないのかい?」

丸助 「無理だ、、、与五郎は、父上に匹敵する蕎麦を打つ」

門人 「そこに秘伝書があれば、鬼に金棒」

光圀 「なら、いっそのこと拉麵、、、出してみねぇか?」

丸助 「拉麺?!」

光圀 「明国伝来の麺でな、水戸の名産だ」


【一刻後】

光圀 「へい、お待ち!」

丸助 「(麺を箸でつまみあげ)、、、うどんではない?」

八兵衛 「喰ってみなよ」

丸助 「、、、うまい!!!!」「そばとも違う、この麺のコシ」

門人 「温かいつゆに、麺がしっかりと絡んで」

丸助 「蕎麦切りにはない、麺とつゆの一体感が!!!」

丸助 「だが、、、これで与五郎に勝てるかというと、、、」

門人 「確信は持てませぬ」「それに酒井様は無類の蕎麦好きゆえ」

光圀 「なんと、、、それほどか。与五郎の腕は」


【勝負の日・酒井忠孝の御前】

酒井忠孝をはじめ一同が会し、全員に与五郎の蕎麦が振舞われる。

与五郎
 「上様、これが私の蕎麦でございます」

酒井忠孝 「(蕎麦を口に入れ、驚く)うまい!なんじゃ、この滑らかさは」

光圀 (この喉ごし、、、まるで絹)

与五郎 「蕎麦粉に、上州名産の小麦粉を混ぜております」

ナレーション 「江戸の時代より、上州は小麦粉の名産地として知られていた」

丸助 (これが、秘伝だったか!)

ナレーション 「この時代、まだ蕎麦と小麦粉を混ぜることは一般的ではなかった」「小麦粉の混ざった蕎麦は、そのグルテンの作用により、滑らかさが増すのである」

酒井 「続いて丸助の蕎麦を」

丸助が、丼を忠孝の前に差し出す。

酒井 「これは?」

丸助 「これは、、、こちらにおります水戸の三右衛門殿から教えていただいた水戸名物・拉麵、、、」

与五郎 「(苦笑を浮かべながら)もはや蕎麦ではないではないか」

酒井 「しかし食欲をそそる匂い」「食べてみよう」

酒井忠孝が一口、麺を食べる。

酒井 「(動揺しながら)なんじゃ、、、このつゆ、、、このようなもの食べたことがないぞ!」

酒井 「うまい!うまい!!なんじゃ、このうまさは!!!」

与五郎 「(夢中で食べながら)、、、うまい」

酒井 「これは、何のつゆじゃ?」

丸助 「このつゆは、、、」


【回想シーン・台所】

光圀 「あれを使うしか、なさそうだな」

助三郎 「ご老公様!!!それは、、、なりませぬ」

光圀 「この一歩、踏み出さねえ限り、結局、拉麵は本物にならねぇ」「俺と一緒に、茨の道を歩いてくれ」

格之進 「(箱から、包み紙を取り出しながら)江戸屋敷を出たときより、その覚悟はできております」

助三郎 「同じく、、、」

光圀 「ありがとよ」「丸助、、、拉麵にかけてくれたお前の命は必ず守ってやるよ」

丸助 「父上も名前も救えなかった俺だ」「何のことか分からねぇけど、これも何かの縁」「ご隠居様についてくぜ」

回想シーン終り。


【御前】


丸助 「つゆには、明国より伝来せし、、、イノシシの塩漬け肉を使っております」

ナレーション 「これは、正確には『火腿(フォトェイ)』と呼ばれる、中華ハムである。『火腿』は、現在でも中華料理スープの定番材料のひとつとして使われている」

酒井 「な、、、なんと!」「お主!生類憐みの令を忘れたか!!!」「この不届き者どもを捉えろ!!!」

ナレーション 「生類憐みの令とは、第5代将軍・徳川綱吉によって制定された「生類を憐れむ」法である。犬を殺したことで死罪となったものもいた」「光圀は人より動物を重んじるこの法に公然と反対していたといわれている」

家臣たちが刀を抜き、光圀たちに迫る。

丸助に飛び掛かる与五郎を格之進がすばやく取り押さえると、与五郎の懐から、白井長右エ門秘伝書が落ちた。

与五郎 「しまった!!!!」

助三郎 「(葵御紋の印籠を懐から出し)控えよ。上様の御前であるぞ!」

酒井 「な、なに?!」「そのお顔、、、み、水戸光圀様?!」

一同 「ははぁぁぁぁ」

光圀 「酒井忠孝よ、、、」「お主、生類憐みの令を本当に守るべきと思っておるのか?」「悪法を正すのも、重臣の役割ぞ」

酒井 「、、、面目次第もございません、、、」

光圀 「おい、与五郎」

与五郎 「(震えながら)はひぃぃ」

光圀 「酒井にこれからも美味い蕎麦食わせてやってくれ」「秘伝書の件は、目をつむってやるからよ」

与五郎 「ははーーーー」「御蕎麦板前は、丸助殿で結構でございます」

丸助 「いえ」「秘伝書と五代目白井長右エ門は、与五郎殿に」「蕎麦職人として、私は与五郎殿には遠く及びませぬ」

光圀 「だよな。世襲なんて、碌なことにならねぇよ」


【上州の峠】

格之進 「今回は、拉麵を広げることは出来ませんでしたね」

信三郎 「生類憐みの令も破ってしまったし、、、」

光圀 「そんなこともあるさ」「でもよ、あのつゆ美味かったなー」

八兵衛 「ほんとですねぇ」

助三郎 「お前は気楽でいいな、、」

丸助が走ってくる。

丸助 「ご隠居様ー」

光圀 「なんだい?」

丸助 「父を超える職人を拉麵で目指したいのです」「よろしいでしょうか?」

光圀 「頼んだぜ、初代丸助」「お互い家を継ぐのは大変だな」

丸助 「ご、ご勘弁を!」

光圀 かーかかかかかかか! 光圀の高笑いが上州の峠に響き渡る。

ナレーション「これにて、一杯落着」「だが、光圀の拉麵伝道はまだ始まったばかりである」どん!

【どこかの屋敷。薄暗い広間】

暗くて顔が見えない男たちが、10名ほど集まっている。

男1 「『拉麵』ってもんで、『蕎麦』に味勝負仕掛けてきてるやつがいる」
男2 「ああ、俺の耳に入っている」「水戸のちりめん問屋の隠居とか、、、」
男3 「『拉麵』?」
男4 「明国の蕎麦らしい」
男3 「明国?!そんなもんが美味いのか?」
男4 「秩父、信州、、そして上州じゃ御蕎麦板前までが負けている」
男3 「なんと、、、」
男1 「しかし、所詮は田舎の蕎麦職人たち、、、」
男2 「ここらで、我ら『蕎麦組合』の恐ろしさ、思い知らせておくのがよかろう」
男5 「我らの前に、現れたときが、、、そやつの」
男たち 「ふふふふふふふふ」


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