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水戸黄門拉麵(らーめん)漫遊記 あらすじ+1杯目(note創作大賞/漫画原作部門応募版)

【あらすじ】

時は元禄。徳川御三家水戸藩が元藩主、水戸光國(69)。先の副将軍にして権中納言。国の宝と謳われた希代の名君でありながら、若いころは町人たちとつるんで放蕩三昧の問題児。そして拉麺を日本で最初に食べたのもこの漢。そんな光圀が、世に拉麺を広めるために、江戸の屋敷を抜け出して、時に人助け、時に謎解き、時に蕎麦組合や饂飩衆と味勝負をしながら、忠臣たちとともに身分を隠して全国を行脚する
ロックなジジイ光圀のパッションと、家来たちの技と力とうっかりが、ご当地食材と出会うとき、奇跡の一杯が生まれる!!
日本の、世界のラーメンブームの原点オブ原点を描くファンタジー、ここに爆誕!

第1杯目「秩父·光圀の一歩」

【江戸/水戸藩屋敷】

徳川光圀(69)が座敷に座り、家臣たちが平伏している。光圀は退屈そうである。
老中「かくかくしかじか」
光國
「あー、よいよい。それでよい」「お主の好きにするがよい」
ナレーション
「この男、水戸藩第二代藩主 徳川光圀」
ナレーション
「先の副将軍にして、権中納言」「言わずと知れた、水戸黄門その人である」
 
【秩父・拉麵屋】
ナレーション「そして、この国で最初に拉麺を食べ―――」「また、最初に拉麺を作った日本人でもある」
水戸光圀
「へい、お待ちっ!」
屋敷の頃とは正反対の笑顔で、拉麵を出す光圀(拉麺と光圀のドアップ)
 
【秩父・拉麵屋、外】
秩父名物ののぼりがはためき、行列が出来ている。
旅人「なんだい、この行列は?」
行列に並ぶ客
「なんでも、明国の蕎麦らしいぜ」
旅人
「へー、珍しいな」
 
【拉麵屋、店内】
注文を取り、丼を運ぶため忙しそうに動き回る光圀、お亀(中年女性)、お鶴(若い娘)。

「じいさんが、この拉麵ってやつ作ったんだって?」

光圀「そうだよ。まあ明国伝来なんだけどな。俺、拉麵を日本中に広めたくて水戸を飛び出して来たんだ」

「大盛くんな」
光圀
「はいよ!」

【厨房】
光圀「大盛1つー!」
 
助三郎(細身の男)「へい!」 つゆを作りながら
格之進(力士のような大男) 「へい!」麺をこねながら
八兵衛(中肉中背の男)「あと何杯つくりゃいいですぅ?」疲れてる。
 
【店内】
お鶴とお亀が足を止める。
お鶴「おっかさん。これなら借金全部返せそうだね」

お亀「拉麵様様」「水戸のご隠居様様だよ」

お鶴「あのとき、ご隠居さんが来てくれなかったら、、、」
 
【回想シーン、峠の団子屋。さびれている。客は光圀一行のみ】
ボロい団子屋ののぼりがはためいている。水戸黄門の一行が、外の長椅子に座り休憩を取っている。
 
八兵衛「昨日の夜から歩き通しで、死にそうですよー」
光圀
「俺がいなくなって、今頃屋敷は大騒ぎだろうな」「わはははは」
助三郎
「笑い事ではございませぬぞ!」
 
光圀「この茶、美味いなぁ」
お鶴「秩父の水は、おいしいんですよ」「ご隠居さんは、どちらから?」
 
光圀「俺たちは、、、あー、水戸からだよ」
 
お鶴「あら遠くから!」
娘は大変器量がよい。助三郎は、赤くなっている。
 
格之進「おい、団子をくれぬか?俺は、3人前食べる故、全部で6人前頼む」
 
お鶴「えーと、、、」
もじもじする、お鶴。
 
お亀「実は、、、お団子切らしてまして、、、」
 
八兵衛「団子屋なのに、団子売り切れだって?」
助三郎「まだ昼すぎだぞ」
 
格之進「それでは、他になにか腹の足しになるものを」
 
お鶴「すみません、、、全部、切らしてるんです」

【店内】

店内には、椅子一つない。
お亀「実は、質に入れてたら全部流れちまって」「残ってるのは湯呑みとお茶くらいなんですよ」
 
一同ズッコケる
 
光圀「おいおい、何が起きたんだい?」
 
お鶴「半年前にあの団子屋ができるまえは、うちも繁盛してたんです」
道の向こうには、大きな団子屋があり、大繁盛している。「秩父代官御用達団子屋」と書かれた立派なのぼりが何本もはためいている。
 
お鶴「お代官様の目に留まるくらい、、、」
娘の目に涙が浮かぶ。

お鶴「目に留まらなければ、よかった」

お亀「めったなことゆうんじゃないよ!、、、忘れてください」
 
並々ならぬ雰囲気を感じる一行。
 
そこに質屋がやってくる。
質屋「おいっす!どうです、景気の方は?」

母と娘は、どんよりとした顔になる。

お亀「噂をすれば、、、」 

質屋「こっちも先月の10匁(もんめ)※。まだ頂いてないんですからね。この簪(かんざし)も、流しちまっていいんですかい?」※2~3万円くらい
 
「もう一カ月だけ待っておくなさい。あれは夫の形見なんです、、、」
 
質屋「そういってもう3カ月待ってるんですぜ。そろそろ払ってくれないと」
 
「どうか、もう一カ月だけでも、、、そして、あとこれも質草に入れさせてもらえません?」
履いていた草鞋を差し出す。
 
質屋「おいおいおい!おめえさんの草履なんて、質草にならねえよ」
 
「それじゃ、この湯吞を」
黄門が飲みかけていた湯呑を差し出そうとする。
光圀「おいおい!!」
 
光圀「しゃあねえな。おい質屋。これ持っていきな」
そういうと懐から出した金を質屋に渡す。

質屋「おう!気前がいい旦那で!お亀さんツイてるね!」「これお返ししますよ」
質屋は引き上げる。
 
質屋(、、、チッ)金が受け取れたことに不満そうだ。

【代官屋敷】

代官屋敷に質屋が入っていく。
 
質屋「草履を売るところまで、追いつめられてますぜ」
代官
「よいよい。団子屋の娘が儂の『奉公』に来るのも時間の問題じゃな」
 
質屋「左様で。あの強情な親子も、お代官様が作ったあの団子屋には心底参ってます」
 
代官「儂は、お主に『団子屋でもはじめたらどうだ』と言っただけじゃぞ」
代官・質屋
「わはははは」
 
質屋「ところでお代官様。妙な爺が出て参りました」
 
代官「なんじゃ?」
 
質屋「かくかくしかじか」
 
代官「気軽に10匁を出したとな、、、その爺、儂が直々にこらしめてやろう」

【団子屋】

光圀「これも何かの縁。俺はただの水戸のちりめん問屋の隠居だけど、話聞かせてくれねぇか」
助格八 
(ちりめん問屋?!)
 
お亀「実は、、、」
 
光國「よし、分かった。俺たち4人に宿を貸してくれ。納屋で十分。いくばくかの宿賃は払う」格さんに合図する。
 
格さんがうなずき、懐から1両※を渡す。 ※10~15万円くらい
 
お亀「、、、こんなに!」
 
光圀「しばらくは、これで生活も出来るはず。悪くない話だろ」
 
お鶴「ありがとうございます!私たちは納屋を使います。お部屋を使ってください」
 
光圀「それにゃぁ、及ばねえよい」
水戸黄門が立ち上がった。
 
光圀「でもよ、この銭だけではそう長くは持たねぇだろ、、、そこでだ」「拉麺をやってみねえか?」

母・娘「らあめん、、、とは?!」
 
光圀「お見せしよう。明国(みんこく)伝来」「水戸の名産だ」
 
格さんの担ぐ大甕から、材料が出てきて、がらんとした台所に次々並ぶ。
 
小麦とこんにゃく粉の麺、煮干し。
 
そして「五辛」。

ナレーション「五辛(ごしん)とは、にら、らっきょう、ねぎ、にんにく、しょうが、の5種からなる中国由来の薬味である。この五辛、光圀が最初に食した拉麵に使われたと伝えられている」
 
格之進が小麦粉とこんにゃく粉を混ぜた生地を豪快にこね、麺を打つ。

ナレーション「そして、光圀が食した最初の拉麵の麺は、小麦粉とこんにゃく粉のブレンドによって作られたいたのである」 

助三郎が見事な包丁さばきで、麺を切っていく。
 
光圀が茹でた麺を湯切りし、

煮干しの出汁に、しょうゆをあわせた汁を丼に張り、
 
盛り付け、渾身の一杯を完成させた。
 
八兵衛「食べてごらん」どんっ!!!
八兵衛が、母と娘の前に拉麵をを置く。
 
お亀「おそばのような、、、」
お鶴
「おうどんのような、、、」
 
お亀とお鶴が恐る恐る口に運ぶ。
 
お亀・お鶴「あら、おいしいわ!」
 
満足げな黄門たち。

【再び、現在の団子屋、、、改め拉麵屋】

代官が家来とともにやってくる。
 
代官「お前たちか!得体のしれぬ明国の麺を秩父の名産と偽り喰わせておるのは!」
 
お鶴「これは、拉麵といって、水戸の名物と、、、」
お亀
「水戸のちりめん問屋のご隠居さんが、作り方を教えて下さって」
 
代官「黙れ娘!ここ秩父には、蕎麦という名物があるのだ」

 代官「水戸のちりめん問屋とな。黙って隠居をしておけばよいものの」

代官「おい、ジジイ。3日後、ここにおる秩父一の蕎麦名人・田舎庵喜助と勝負せよ」
 
代官「もし勝てぬときは、速やかに店を畳むのじゃ」
 
お鶴「そんなご無体な、、、」
お亀「私たち親子、生活できなくなってしまいます」
 
代官「ワシの屋敷へ『奉公』に来ればよいではないか」ふふふふふ
 
鶴亀泣き崩れる。
 
代官「名人喜助、挨拶代わりの一杯を喰わせてやれ」
喜助「はっ!」
 
光國たちの前に喜助のかけ蕎麦が出される。
 
一行 (、、、う、美味い!!!!!)
 
代官「どうじゃ。今すぐ、尻尾を巻いて逃げ出してもよいのだぞ」
 
光國 (こいつぁ、とんでもねぇ美味さだ、、、)
 
光國「確かに、とんでもなく美味いな」「でも、俺も負ける訳にはいかねえんでな!」「お主らこそ、逃げるなよ」
 
代官「何を言い出すかと思えば」「もし負けることがあれば、そちの拉麺を秩父名物として認めてやるわ」
 
高笑いしながら引き上げる代官たち。

【夜。拉麺屋厨房】

一行が集まっている。
 
格之進「あの蕎麦、確かに美味かった、、、」
 
八兵衛「そうっすよねー。正直、拉麺より美味かったっす」
 
助三郎「な、なにを言っておるのだ!御老公様、御自ら御作りになった拉麺であるぞ!!!」
 
光圀「いや、八のいう通りじゃ。今のままでは勝てぬ」「もっと美味い拉麺を作らねば」
 
格之進「かくなる上は、例のものを、、、」
荷物から一抱えはありそうな包み紙を出す。※実は豚のモモのハム
 
助三郎「そ、それは明国伝来の!?持ってきていたのか!!」
 
八兵衛「何か知らないけど、そんないいもんがあるなら、最初から使いましょうよー」
 
光國「いや、いかん。『生類憐みの令』に触れちまう」
光國「その切り札なしで勝ってみせる」

【翌日。台所】

黄門の試行錯誤。
 
格さんが、出汁に野菜を加えてみる。
味見をした光圀が首を横に振る。
 
助さんが、麺の太さを変えてみる。
味見をした光圀が首を横に振る。
 
お鶴が光國たちに茶を持ってきた。
 
光國「相変わらず、ここの茶は美味いねぇ、、、」
 
格之進「秩父の水で淹れた茶は格別に美味でございますな、、、」
 
光圀 (、、、水、、、秩父の水かっ!!!!)
 
光圀「どこか特別にうまい水が湧いているところをしらないか?」
お亀
「水、、、ですか?」
 
お鶴「そういえば、おじいちゃんは山奥のどこかで飲んだ水が忘れられないって言ってたわ」
 
お鶴「山奥に大きな双子の岩があって、そこの先に湧いている泉だっていってましたけど」
 
顔を見合わせる一行。
 
光圀「今日はもう遅い、明日、水を捜しに行くぞ!」

【さらに翌日。山奥】

山奥。水探しをする光國と助三郎。
 
先頭を切って、崖のような岩を上がる光圀
 
先頭を切って、木を掻き分ける光圀
 
先頭を切って、熊と戦おうとする光圀
 
助三郎 (、、、元気すぎ)
同行した助三郎も舌を巻く。

【双子岩の前】

二人は、ついに双子岩の前に立つ。
光圀「この奥だ」

光圀
「見つけたぞ!」
こんこんと湧き出る水を手に掬う。
 
助三郎「うまい、、、生き返る、、、」
光圀
「うむ、、、これは、うまい水だな」その水を飲みながら、満足そうにうなずく。
 
光國「これをツユと麺、両方に使おう!」
 
光國「じゃあ、あとは頼んだぞ。ワシは年寄じゃからな」ニヤリ
青ざめる助三郎を尻目に、光國は揚々と帰路に着く。
 
光國 (あとは、五辛、、、五辛の他にもっとなにか欲しい)
帰り道、早くも光圀は険しい顔に戻り、次なる一手に想いを巡らしている。

【夕食。全員が囲炉裏を囲んでいる】

お鶴「おっきりこみ、召し上がれ」

お亀「秩父の郷土料理なんです」「いろんな野菜を味噌で煮込んであるんですよ」
 
八兵衛「いろんな野菜が入ってる!」
格之進
「食べ応えも満点だな」
助三郎
「野菜の味が、お互いを補い合って、まるで歌舞伎小屋だ」
 
光國「、、、これだ!!!」目から光線が出る。
 
光圀(郷土(ここ)の味で勝負させてもらうぜ)
 
光圀「すぐにあの水で拉麵を作って、このおっきりこみを載せてみろ」

【おっきりこみ拉麵登場】

一同「おおおお」新しい拉麵を前に興奮が抑えきれない。
  
八兵衛「うまいっすよ!これ、めっちゃうまいっす」

助三郎「おっきりこみが、なんというか、こう汁に深みを与えたというか」

格之進「今までにない味ですな」

お鶴「なじみの味が加わって」
お亀
「秩父の味になりましたよ」
 
光國 (だがこれで、ようやく五分(ごぶ)、、、)
光國
 (あの蕎麦の美味さに勝つには、、、)
 
光國「、、、もう一工夫が必要だな」
 
助三郎「もう新たな材料を集める時間はありませんぞ」
 
光圀「勝負はどんぶりの中だけじゃねぇさ」「演出をな、、、一工夫じゃ」
 
何かを一行に告げる。
 
一行「なるほど。それは面白い」

【台所。一段高くなっているところ】

台所にすべての材料が並べられる。水は「つゆ用」の大甕と「麺用」の小ガメに分けられている。
 
助三郎「八兵衛、今晩、見張りは任せたぞ」

八兵衛「へい!お任せを!あっしは本職の見張り番ですからね!」

【夜、台所】

一晩中、見張るといったくせに、さっそく居眠りをする八兵衛。
 
それを見ている怪しい影。実は、質屋。
 
質屋が、その脇を通り過ぎ
 
物置小屋からこんにゃく粉を盗すみだし、ニヤリと笑う。

【勝負の日の夜明け。納屋】

 熟睡から醒める一行。八兵衛は立ったままコクリコクリとしている。
 
出発の準備、黄門一行とお鶴とお亀が並び立つ。
光圀「参るぞ!」
一同
「はっ!」「はいっ!」

【陣屋の庭】

勝負の時。準備にいそしむ一行。代官陣営も質屋以外は勢ぞろいして、準備している。
 
光圀「ここに例のモノを作れ」
一行
「ははっ!」
 
格之進が丸太を担ぎ、助三郎、八兵衛と陣屋の前に何やら組み上げていく。
 
観客「あれは、、、囲炉裏?」
 
光圀 (そう、囲炉裏だ、、、おっきりこみを作るためのな)

光圀「出来立てのおっきりこみは、好きだろ?」観客に向けて呟く。
 
光圀「八兵衛!灰と炭を囲炉裏に用意せよ」

八兵衛「へい!」

【荷物台付近】

囲炉裏の準備が終わった格之進が麺打ちの準備をはじめている。
 
格之進「おい、八兵衛!こんにゃく粉はどこだ!?」荷物台から格之進が声をかける
八兵衛「よく見てくださいよ!その辺にあるでしょ」
 
格之進「それがないから訊ねておる」
 
お鶴「あったものは全部積み込みましたよ」
一同
「まさか!」(盗まれた?!)
嫌な予感がよぎる。
 
あわてふためく黄門一行の様子を見て、ニヤつく代官。
 
助三郎「昨晩、万一に備えて見張っているよう命じたであろう」

八兵衛「え?オイラ、夜通し見張ってましたよぉ、、、たぶん」

【陣屋の庭】

格之進「今からこんにゃく粉の手配は出来ぬか?」
お亀
「いまからじゃ、とても無理です」

助三郎「ご老公、こんにゃく粉が入らねば、ただの細い饂飩です」
格之進
「これでは、とても、、、」動揺を隠せない
 
光國 「仕方ねぇ。拉麺はこんにゃく粉だけじゃねえよ!」と強がるものの、光國の顔にも動揺が見える。
 
光國 (おのれ、、、計ったな、代官!!!)
怒りで、代官を睨みつける。
 
なぜか、光圀は陣屋の屋根の方に視線を向け、ウインクする。
 
代官「どうかしたのか?」ニヤリと不敵な笑みを浮かべる代官。

【陣屋の仮設台所】

八兵衛が大量の灰と、炭をもって現れた。足元がおぼつかず、前も見えない様子。
八兵衛(多分オイラ、やらかしちまった、、、少しでもなんとか、しないと!)
 
覚悟を決めて格之進が、麺を打ち始めようとしたそのとき、
 
八兵衛「おわっっっ!!!!とととと」
そばにいた代官の家臣の一人が、八兵衛の足を引っかけた。
 
囲炉裏用に灰を運んでいた八兵衛がすっころぶ。
 
黄門たち「無事かっ?!」
一同が、見つめている。
 
八兵衛「あいたたた」「いや、オイラは大丈夫、ご心配なく!」
尻もちをついた八兵衛が、照れながら、立ち上がろうとする。
 
格之進「お主ではない、、、水だ」
 
見ると小甕に分けられた水に、灰が全てぶち込まれて、水は黒く濁っていた。

格之進「これでは麺に使う水が台無しではないか」

助三郎「すでに残りの水はすべてつゆの仕込みに使ってしまったぞ!」
 
助三郎「おのれ、、、八兵衛!!ここになおれッ!」
 
助三郎「ご老公と拙者が必死に捜して運んだこの水を!」
「許さぬぞ!」「今すぐ、ここで手打ちにしてくれる!」
 
思わず助三郎が口走る。
 
代官「あはははは!お主、武士のようなしゃべり方をするんだな」
 
代官とその家臣たちがが嘲笑する。
 
光圀「、、、よい」「いま、あるもので、限りを尽くす」
 
代官「さあさあ、勝負いたせよ」
 
光圀「ぐ、、、分かっておるわ!」
 
小ガメの水に、灰が徐々に沈みはじめている。
 
光國「格さん、この水の上澄みを使って麺を作ってくれ」光圀が杓で、水を掬って言った。
 
格之進は、力なくうなずく。
 
皆が見守る中、生地を練り始める格之進。
 
格之進「なんと、、、」
格之進、生地を練りながらさらに顔が青ざめる。
 
家臣たち「おいおい、あの麺打ち、手が震えてるぞ」

【代官陣営 仮設台所】

蕎麦名人が、蕎麦を打ち始めた。
 
観衆の感嘆の声が挙がる。
観衆1「お見事!」
観衆2
「よっ!名人!!!」

【審査員たち】

代官「それでは、これより秩父一の蕎麦名人、田舎庵喜助の蕎麦と」「水戸ちりめん問屋隠居、三衛門の拉麺の味勝負を始める!」

代官「公平な審査をおこなうため、町内のものたちを9名審査員として集めた」
代官
「それ以外の者たちは、審査ではなく味見のみじゃ」
 
黄門一行(くっ、、、審査員は、代官の息がかかった者たちだけか、、、)
 
光圀(もとより敵陣勝負、、、このくらいは予想の範囲)
 
代官「では、まずは名人喜助の蕎麦からじゃ!!」
 
喜助「喜助、渾身の蕎麦でございます」
 
審査員たち「旨い!」「美味い」「さすがじゃ」「これぞ、秩父名物!」「これよ、これ!!」
食べながら、口々に絶賛の声が上がる。
 
八兵衛「うわ!前よりもっと美味い!!」
 
光國 (このうまさ、、、打ちたて、茹でたてかっ!)
 
代官 「さすがは秩父の蕎麦名人じゃ」
満足げな代官。勝利を微塵も疑っていない。
 
代官 「美味すぎて、食い過ぎてしまったわ」「今日はこれ以上、腹に入るかな?」にやりと代官が笑う。
 
審査員も腹をさすっている。
 
それを見て満足そうな代官。
代官 (作戦通りじゃ、、、)
 
代官 「それでは、拉麵とやらも、一応な」
 
代官の家臣1 「なんじゃあ、この黄色い縮れた麺は?!あはははは」
箸で麺を一本つまみ上げた代官の家臣が、大声を挙げた。
 
審査員1 「こんな色の麺、見たことないぞ」

代官 「ちりめん問屋が作ると、麺も縮れるのか??!わはははは」
 
代官 「まあ、よいではないか。『味勝負』だからな」「しっかりと審査するのじゃぞ!」審査員に目を配る。

【光圀陣営】

格之進 「こねてるうちに、みるみる黄色くなり、、、」
 
助三郎 「切った麺は、縮れていってしまいました」
 
助三郎 「それも、これも、八兵衛のやつが、、、」
 
八兵衛 「あわわわわわ」
 
光圀 「、、、よい。勝負は始まっておる」「家康公の名に懸けて」「言い訳だけはすまい」
 
代官 (食った上で、とことん愚弄してくれるわ) 拉麺を口に運んだ。
 
それにならい家臣、審査員たちも拉麺を口にする。
 
審査員1 「な、なんだ!この歯ごたえはっ!!!!」
審査員2 
「つるつる、もちもち、、、こんなの初めて!!!」
審査員3 
「縮れた麺に、つゆが絡む!!!」
審査員4 
「絡んだつゆが、このつややかな麺にしっかりとした味をつけている」
審査員5 
「おっきりこみのうまさが、麺に乗って口に飛び込んでまいった!!」
審査員6 
「うまいぞーーーーーーっ!!!!!!」
 
気づけば、全員が嵐のような勢いで拉麺を平らげていた。
 
代官が、呆然と顔を上げる。何が起きたのか分からない。
 
代官 「なにを食わせたのじゃ?!」
はっと我に返った代官が呟く。
 
光國 「その顔、もはや勝負はついたようじゃな」
 
縮れて腰の出た麺、煮干しのつゆ、おっきりこみに、五辛。その組み合わせは、誰の舌にも衝撃を与えていた。
 
ナレーション 「黄色く縮れたあの拉麵独特の麺は、かん水、すなわち強アルカリ水によって生み出されるものである」
ナレーション 「八兵衛のうっかりで放り込まれた灰は、偶然にも水に強アルカリ性を与え、天然のかん水を作り出していたっっ!!!」
ナレーション 
「そしてっ!木灰の上澄みをかん水の代わりに使った、『木灰そば』は」「現在も沖縄の地に実在するっっっ!!!」
 
誰もが認めざるをえない、美味さだった。
 
そこに、光國を影で支えるもう一人の家臣、忍者弥七がこんにゃく粉を盗んだ質屋を捕らえてきた。

弥七 「こいつが御老公のこんにゃく粉を盗んだ盗人です。こいつが全部、吐きましたぜ。代官の悪巧みを」
 
弥七 「代官は、団子屋の娘を手篭めにするために、あの手この手で借金を膨らませてたそうです」
 
代官 「おのれ~、このジジイどもを捕らえろ!」
代官が怒りに任せて家臣に命じた、その瞬間!!!
 
格之進が仁王立ちで、光圀と代官家臣の間に割って入った。
 
格之進 「ええええい、控えおうろう!!この紋所が目に入らぬか!!!」
 
三つ葉葵の印籠 アップ。
 
格之進 「こちらにおわす方をどなたと心得る」「先の副将軍にして権中納言・徳川光國公にあらせられるぞ」
 
助三郎 「一同のもの、頭が高い!控えおうろう!!」
 
葵の御紋が入った印籠を見せつける格之進。
 
次の瞬間全員が平伏した。
全員 「ははぁぁぁぁぁぁぁ」
 
光國 「これ代官。わしの顔を見忘れるとはどこまで呆ければ気が済むのじゃ」
 
光圀 「お主の役目は、幕府に仕え、民を盛り立てることであろう」
 
光國 「それを娘を手篭めにすることに、うつつを抜かすとは、何ごとじゃ」

【代官回想】

母子の団子屋にふと立ち寄ったときに一目惚れしてしまった。

【陣屋庭】

代官 「一目惚れの病にかかったものの、恥ずかしながら、この歳まで独り身だったゆえ」「どうおなごと接してよいのやら分からず」
 
お亀&お鶴 (お代官、ちょっとかわいいとこあるじゃん)
 
代官 「度重なるご無礼ならびに、この不始末」「腹を切ってお詫び致します」
 
光國 「おいおいおいおい」「馬鹿なことゆうんじゃねぇよ」
 
光圀 「こんなことで切腹してたら、いくら命があっても足りねえよ」
 
光圀 「俺も徳川光圀って名乗ってなかったんだから、仕方ねえだろ」
 
滝のような汗を流す代官と家臣。
 
光圀 「そんなことは、さておいてよ」「素直に気持ちを伝えてみたらどうだい」
お鶴を見る。
 
お鶴 「、、、私だって、そうと言ってくれたら、、、」小声でつぶやく。まんざらでもない表情。
 
代官 「、、、なんとご寛大な」「誠に誠に恐れ多きこと」光圀に改めて頭を下げる。
 
代官、向きを変える。 
 
代官 「こたびのこと、誠にすまなかった」「よかったら、これからも末長くそなたの拉麺を食べさせてくれぬか?」
 
戸惑いながらもはにかむような表情のお鶴。
 
代官 「、、、お亀殿」
 
お鶴 「え?!」
お亀 
「え?!」
 
全員 「え?!」
 
光國 「そっち?!」
 
質屋 「お代官様、団子屋の娘って、、、」
代官 
「娘であろう!!」
 
質屋 「お鶴の方だったんじゃあ?」
代官 
「そんな小娘に興味はないわ!」
 
お鶴 「ざけんなよっ!」
 
お亀 「お鶴!お代官様になんてこというんだい!」娘と呼ばれ、お亀の方は、まったくまんざらでもなくなっている。
 
代官 「よいか?お亀殿」
お亀 
「、、、はい」はにかむような表情。
 
一同 ぽかーん
 
光國 「よしよし、此度の愚行はこの光國の胸の内にのみ留めておくゆえ、これからは秩父の民のためにつくすのだぞ」
 
光國 「名人喜助、見事であった」「こたびは物珍しさと、時の運がワシに味方しただけじゃ」

蕎麦屋 
「畏れ多いことにござりまする」
 
光國 「そして、八兵衛。大義であった」「なぜかは分からぬが、灰を入れた水がこの不思議な麺を作ってくれた」
 
光圀 「打ち首にしてやろうかと思ったけど、今日はやめとくわ」

八兵衛 「そんなぁ、勘弁してくださいよー」
 
光國 「お鶴、お亀よ、よく頑張ったの」「これからは拉麺をこの秩父の新たな名物として売り出すがよい。この代官のお墨付きじゃ。な?」

代官 「はっ。それはもう」

【秩父の峠、拉麵屋】

さらに大繁盛している拉麵屋。「代官公認 秩父名物、水戸伝来おっきりこみ拉麺」の暖簾がはためき、なんと代官も店を手伝っている。

【秩父の峠】

格之進「御老公、本当にいいんですか。代官をあのままにして」
助三郎
「ご老公へのご無礼の数々、打ち首獄門に処すべき狼藉かと、、」
光國
「俺が打つのは、首じゃなくて、麺だけだよい」「それにあいつは、お亀と拉麺に夢中だ。もう悪いことはしねぇだろ」
 
顔を見合わせる助三郎と格之進。
 
光圀 かーかかかかかっっっ!!!!
 
黄門の高笑いが、日本晴れの秩父の里に響き渡っていた。
 
ナレーション「これにて一杯落着!」どんっ!
 
キャプション 「水戸黄門一行、灌水(かんすい)、ちぢれ麺を偶然ゲット!」

つづく (本編終)

https://note.com/todomadogiwa/n/nafb36978a7bb

実は今回、もう一つ応募作品があります。水戸黄門が面白いと思われた方、プロレスが好きな方は、是非、こちらもチェックしてください!


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